土壌とは? わかりやすく解説

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ど‐じょう〔‐ジヤウ〕【土壌】

読み方:どじょう

地殻最上部にある、岩石風化物に動植物遺体あるいはその分解物加わったもの。地表からの深させいぜい1、2メートルまで。つち。

作物生育させる土。「—改良

ものを発生発展させる基盤。「優秀な学者輩出する—がある」


土壌 (どじょう)

 地殻の最表層動植物とその遺体、土壌物質土質工学いうところの「土」)から気候および地形などの要因総合的な作用として歴史的に形成され自然体を指す。一定の地理的広がり持ち緑色植物生育させる能力、すなわち肥沃度を持つ点で、土壌はその母材となる岩石地層本質的に異なる。

土壌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/04 00:09 UTC 版)

A, B, C はヴァシーリー・ドクチャーエフが考案した土壌層位であり、A層は表土、B層はレゴリス、C層は腐食岩石(en)、最下層は基盤岩である
北アイルランドの氷礫に発達した湛水グライ土壌

土壌(どじょう)とは、地球上の陸地の表面を覆っている鉱物有機物気体液体生物混合物である。一般には(つち)とも呼ばれる[1]。陸地および水深2.5メートル以下の水中の堆積物を指す[2]

地球の土壌は土壌圏を構成し、以下の4つの重要な機能を持って生命を支えている。

  • 植物の生育媒体。
  • 水を蓄え、供給し、浄化する。
  • 地球の大気の組成を変える。
  • (植物以外を含む)生物の住みかとなる。

これら全ての機能は、土壌を変化させる働きを持っている。

土壌圏は岩石圏水圏大気圏生物圏と接触する[3]。土壌は鉱物と有機物から成る固体の部分と、気体(土壌空気)と水(土壌溶液)を蓄える間隙(空隙)で構成される[4][5][6]。すなわち、土壌は固相、液相、気相の三相システムである[7]

土壌が生成されるためには母材(土壌の元となる材料)、気候地形、生物、時間という5つの因子がある[8]。土壌は侵食による風化など、多くの物理的、化学的、生物的過程によって常に変化している。土壌はとても複雑で強い内部相互作用を持つ生態系である[9]

多くの土壌の仮比重(水がない状態での間隙を含んだ土壌の密度、乾燥密度とも言う)は 1.1 から 1.6 g/cm3 であり、土粒子そのものの密度は 2.6 から 2.7 g/cm3 とずっと大きい[10]。地球上には更新世よりも古い土壌はほとんどなく、新生代よりも古い土壌は全くない[11]。ただし、太古代の土壌が化石土壌として残っていることがある[12]

土壌学はエダフォロジー (edaphology) とペドロジー (pedology) に分かれる。エダフォロジーは土壌が生物に与える影響を研究する[13]。ペドロジーは自然環境における土壌の形成、状態の記述、分類をする[14]。工学的には土壌はレゴリスに含まれる。レゴリスには母岩の上の土壌以外の物質も含まれ、地球以外の天体にも存在する[15]

概要

機能

広義の土壌は、以下の機能を持っている。以下のうち自然機能については、土壌の環境機能と呼ばれている。

  1. 自然機能
  2. 利用の機能
  3. 自然・文化遺産の存在場所

植物生産的見地からみると、土壌は植物培地の一種といえる。ほとんどの農業では土壌を培地とする。

なお、培地に土壌を用いないものを水耕栽培と呼ぶ。養液栽培の場合では、培地としての土壌の種類はさらに細かく、有機質培地を土壌としこれを用いる場合は養液土耕と呼び、無機質培地を用いる場合は養液栽培と呼ばれる。

構成

土壌は、岩石風化して生成した粗粒の無機物一次鉱物)やコロイド状の無機物(粘土鉱物あるいは二次鉱物)、生物の死骸などの粗大有機物、粗大有機物が微生物などの分解者の作用などによって変質して生じる土壌有機物腐植)などを含む。

土壌の固体成分は粗に充填されているため、土壌は多くの間隙を持つ。土壌中の間隙は、土壌溶液と土壌空気によって満たされている。土壌溶液の主成分はであり、この水に水溶性塩基や有機物などが溶解している。土壌空気の主成分は二酸化炭素窒素および水蒸気であり、酸素濃度は大気と比較して低い。土壌の間隙には、多くの土壌微生物土壌動物が生息しており、土壌生物と呼ばれる。

研究の歴史

土壌研究の歴史は、人間が食料と飼料を生産するための差し迫った必要性と密接な関係がある。歴史を通して、文明の繁栄と衰退は土壌の生産能力の関数であったとされる[16]。土壌が農業生産を支える力を「地力」と言い、古代エジプト以来のエジプト社会は、ナイル川洪水によりナイル川デルタなど流域に運ばれた肥沃な土壌を使って農業を行い、食料を得てきた[17]。一方でインダス文明メソポタミア文明マヤ文明アステカ文明などの滅亡は、侵食や塩害といった土壌の荒廃が一因となった[18]

古代ギリシアの歴史家クセノポン(紀元前 450-355 年)は、「地面に生えているどのような雑草であっても、土に混ぜれば糞と同じように土壌を豊かにする。」と書いているため、緑肥のメリットを解説した最初の人であると評価できる[19]

生成

土壌学者のハンス・ジェニーは、1941年に土壌の性質は土壌を供給する地表の地形、気候、動植物相に反映されると提唱し、以下の5つの要素を土壌生成を司る5大要素とした[20]

  1. 母材(岩)
  2. 気候
  3. 有機体
  4. 地形
  5. 時間

物理性

土壌の物理的性質には、農業のような生態系サービスにとって重要なものから順番に、土性英語版土壌構造英語版仮比重(乾燥密度)、間隙(孔隙・空隙)、コンシステンシー、温度、色そして土壌電気抵抗英語版 がある[21]。土性はシルト粘土という3種類の土壌鉱物粒子の構成比率によって決まる。酸化鉄炭酸塩二酸化ケイ素腐植土が土粒子を被覆し、土粒子同士を接着することによって、土粒子がより大きな塊となると、ペッド英語版 すなわち「土壌団粒」という土壌構造を構成する[22]。土壌の仮比重は、土の締固め英語版 程度の指標となる[23]。土壌の間隙は粒子と粒子の間の空間であり、空気と水によって構成されている。コンシステンシーは土粒子同士がくっつき合う強度である。土壌の温度と色はそのままの意味である。電気抵抗は土壌に埋められる金属コンクリートの腐食速度に影響する[24]。このような土壌の性質は土壌の深さ、すなわち土壌層位によって変化する。これらのほとんどの性質が、土壌の通気性と土壌中に水が流れたり保持されたりするような能力に影響する[25]

土粒子が土壌の性質に与える影響[26]
性質 シルト 粘土
保水性 中から大
通気性
排水速度 中から遅 とても遅
土壌有機物量 中から多 多から中
有機物分解速度
春の気温上昇速度
締め固めやすさ
風食に対する耐久度 中(細砂であれば弱)
水食に対する耐久度 細砂でなければ強 団粒化されていれば強、さもなければ弱
膨潤度 とても低 中からとても高
水の浸透を止める働き
降雨後の耕起しやすさ
汚染物質の浸透性 低(亀裂がなければ)
植物の栄養保持力
pH緩衝能

土性

アメリカ合衆国農務省の土性分類システムによる粘土、シルト、砂の割合と土性
カナダのクーテネイ国立公園のペイントポット近くの鉄分が多い土壌

土壌の鉱物粒子はシルト粘土があり、その割合によって土性が決まる。土性に影響を受ける土壌の性質には、間隙率透水性浸透、膨潤度 (en)、圃場容水量、そして侵食に対する強さがある。USDA(アメリカ合衆国農務省)の三角座標による土性区分で示されているように、砂、シルト、粘土のいずれかが主成分となっていない(つまり、程良く混ざっている)ような土壌はロームと呼ばれる。純粋な砂、シルト、粘土も土壌ではあるが、伝統的な農業の観点からは、いくらかの有機物があるローム土壌が「理想的である」とされ、農業による長期的な作物の収穫によって奪われた栄養分を補給するために、肥料堆肥が使われる[27]。ローム土の鉱物組成は、たとえば質量比が砂40%、シルト40%、粘土20%である。土性は土の性質、特に栄養分を保持する性質(たとえば陽イオン交換容量[28] と水移動に関する性質に影響を与える。

砂とシルトは母岩の物理的および化学的な侵食によって形成され[29]、粘土は母岩が降雨に溶解して生成された二次鉱物であることが多く、雲母の風化によるものもある[30]。土粒子の比表面積と土粒子表面イオンの電荷土壌肥沃度にとって重要なはたらきを持ち、陽イオン交換容量として測定される[31][32]。砂は比表面積が最も小さく陽イオン交換容量が小さい。シルトはその次に小さく、粘土が最も陽イオン交換容量が大きい。土壌にとって砂の最も大きな役割は、締め固めに対する耐久力が大きく、土壌の間隙率を大きくしていることである。ただし、この性質は純粋な砂に対するものであり、砂がより小さな鉱物と混ざることにより、砂の粒子の間に小さな鉱物が入るため間隙率が小さくなる[33]。シルトは鉱物的には砂と似ているが比表面積が大きいため物理化学的な反応性は大きい。粘土は比表面積が極めて大きく大量の負電荷を持っているため、土壌の水と養分の保持能力の高さを決めているのは粘土の量である[31]。粘土質土壌は風と水による土壌侵食に耐える力がシルト質土壌や砂質土壌と比べて大きい。それは、粘土は粒子と粒子の間を結びつける力が大きいことと[34]、有機物による侵食緩和効果によるものである[35]

砂は土壌鉱物の中で最も安定している。岩の破片と一次石英粒子によって構成され、直径 0.05 から 2.0 mm である(USDAの粒径区分)。シルトは直径 0.002 から 0.05 mm である。粘土は直径が 0.002 mm 以下で厚さは 1 nm (10−9 m) ととても小さいため、光学顕微鏡で観察することができない[36][37]。中程度の土性の土壌では、粘土は水によって下方に溶脱 (en) して、下層に集積 (en) する。土壌鉱物組成の大きさと鉱物の性質の間には明確な相関はない。砂とシルトの粒子が石灰質であることも石英質であることもあり[38]、粘土の粒子 (0.002 mm) が細かい石英であることも多層の二次鉱物であることもある[39]。ある一定の粒径組成に属する土壌鉱物は、比表面積(それに関連する保水性)のような共通の性質を持っているものの、陽イオン交換容量のような化学組成に関係する性質は共通ではない。

直径 2.0 mm よりも大きな土壌の成分は岩あるいは(れき)と分類される。土壌を土性によって分類するために粒径の組成を決定する時には除外されるが、名称に含めることもできる。たとえば、砂質ローム土が20%の礫を含めば、礫砂質ローム土と呼ぶことができる。

土壌有機物の量が非常に多い時には、その土壌は鉱物土壌ではなく有機質土壌であるとされる。有機質土壌の条件は次のようなものである。

  1. 鉱物成分の 0% が粘土で有機物が 20% 以上
  2. 鉱物成分の 0% から 50% が粘土で有機物が 20% から 30%
  3. 鉱物成分の 50% 以上が粘土で有機物が 30% 以上[40]

構造

土壌の砂、シルト、粘土成分が集まって塊となることで団粒(aggregate)が形成され、団粒がさらに大きな塊となった構造はペッド(ped)と呼ばれる。土粒子が有機物、酸化鉄炭酸塩、粘土、二酸化ケイ素によって粘着し、凍結融解と湿潤乾燥過程によって団粒が分解し[41]土壌動物土壌微生物のコロニーと植物の根の先端によって団粒が形成される[42]、といったようなメカニズムによって、土壌は明瞭な幾何学的形状を形成する[43][44]。ペッドは様々な形へと発展する[45]。土塊 (soil clod) はペッドのように形成されたものではなく、耕起のような土壌への機械的な撹乱によってできたものである。土壌構造は通気性、水移動、熱移動、植物の根の成長、土壌侵食への耐久性に影響を及ぼす[46]。一方、水は土壌構造に強い影響を与える。直接的には、鉱物を溶解し降雨によって供給し、団粒をスレーキング (en) によって機械的に破壊する[47]。間接的には、植物、動物、微生物の成長を促進する。

土壌構造は土性、有機物量、微生物の活動、過去の土壌生成過程、人間の利用履歴、土壌生成の化学的および鉱物学的条件を知るための手がかりとなる。土性は鉱物組成によって決まる変化しない性質であって農業活動によって変化しないが、土壌構造は農作業のやり方や時期によって発達させることも壊すこともできる[43]

土壌構造の分類[48][49]

  1. 形状: ペッドの形と配列によって区分する。
    1. 板状 (Platy): 厚さ 1–10 mm のペッドが平板状に重なる。森林土壌のA層と池の沈積物に見られる。
    2. 柱状 (Prismatic): 鉛直に長く、幅は 10–100 mm である。上部が平らな角柱状 (Prismatic) と上部が円形の円柱状 (Columnar) に分かれる。ナトリウム土壌のB層に粘土が集積すると生じやすい。
    3. 塊状 (Blocky): 不完全な 5–50 mm の立方体の角形のペッド。鋭い角を持つ角塊状 (Angular) と滑らかな角を持つ亜角塊状 (Subangular) に分かれる。粘土が集積したB層に生じやすく、水の浸透が少ないことを示唆している。
    4. 粒状 (Granular): 1–10 mm の多面体の長球状のペッド。粒状 (Granular) と屑粒状 (団粒状; Crumb) に分かれ、屑粒状の方がより多孔質で理想的であるとされる。有機物があるA層でよく見られる。
  2. 大きさ: ペッドの最小径によって区分する。ペッドの形状によって大きさの分類が異なる。
    1. 細: <1 mm の板状か粒状; <5 mm の塊状; <10 mm の柱状
    2. 小: 1–2 mm の板状か粒状; 5–10 mm の塊状; 10–20 mm の柱状
    3. 中: 2–5 mm の板状か粒状; 10–20 mm の塊状; 20-50 の柱状
    4. 大: 5–10 mm の板状か粒状; 20–50 mm の塊状; 50–100 mm の柱状
    5. 極大: >10 mm の板状か粒状; >50 mm の塊状; >100 mm の柱状
  3. 発達程度: すなわちペッド内の密着度であり、強度と安定性をもたらす。
    1. 弱度: 弱い結合はペッドが砂、シルト、粘土へと分解されやすい。
    2. 中度: 未撹乱土壌ではペッドが明瞭ではないが、撹乱すると団粒、いくらかの壊れた団粒、わずかな団粒化されていない土壌に分かれる。これが理想的な状態であるとされる。
    3. 強度: 土壌層位を観察している時点で明瞭なペッドが見られ、簡単には壊れない。
    4. 無構造: 土壌が粘土板のように大きな塊にしっかりと固着されているか、砂のように全く結合がない。

最も大きなスケールでは、土壌構造は粘土鉱物の膨潤と収縮によって形成される。初期は水平方向に働き、垂直方向の角柱のペッドを形成する。この機構はバーティソル (en) という種類の土壌に特徴的である[50]。粘土質土壌は、土壌表面からの水の蒸発速度の差が大きいため、水平方向の亀裂を生じ、土壌の柱を塊状のペッドへと分解する[51]、小動物、虫、凍結融解が大きなペッドをより小さい球形に近いペッドへと分解する[42]

より小さいスケールでは、植物の根は大きな間隙(マクロポア)の中を伸長して水を吸い上げるため[52]、マクロポアの体積を大きくして間隙率を小さくし[53]、団粒をより小さくする[54]。それと同時に、根毛と菌類の菌糸はペッドを破壊しながら小さな通り道を作る[55][56]

さらに小さいスケールの土壌の団粒化は、細菌菌類が粘質の多糖類を生成して土粒子を結合して小さなペッドを作ることによって進行する[57]。細菌や菌類の栄養源となる有機物を加えることで、このような望ましい土壌構造の形成を促進することができる[58]

最も小さなスケールでは、化学的性質が土粒子の団粒化と分散に影響する。粘土粒子は多価陽イオンを持つため粘土層の表面に負の電荷が生じる[59]。それと同時に、板状粘土粒子の端にはわずかな正の電荷があるため、端が他の粘土表面の負の電荷にくっつき凝集する(塊になる)[60]。一方で、ナトリウムのような1価イオンが多価陽イオンと置換すると粘土粒子の端の正電荷が弱くなり、表面の負電荷が比較的強くなる。そのため粘土表面の負電荷のみが残って粘土粒子同士はお互いに負電荷の電気的力によって反発し、お互いの距離が離れ、凝集していた粘土が分散する[61]。その結果、粘土は分散してペッドの間隙に集積して、間隙が閉塞する。このようにして土壌中の間隙構造が破壊されて、土壌は空気と水を通さなくなる[62]。そのようなソーダ質土 (en) は表面に円柱状のペッドを形成する[63]

密度

土壌の仮比重の例[64]。間隙率は土粒子密度 2.7 g/cm3 として計算した。ただし泥炭土の土粒子密度は推定した。
土壌とその状態 仮比重 (g/cm3) 間隙率 (%)
綿の耕起された表土 1.3 51
トラクターの車輪が通過した畝間 1.67 37
深さ 25 cm の硬盤 1.7 36
硬盤の下の不撹乱土壌、粘土ローム 1.5 43
ポプラの森の下の礫質のシルトローム土壌 1.62 40
表層のローム砂質土 1.5 43
分解された泥炭 0.55 65
黒ボク土 0.5 - 0.8[65] 70 - 80

典型的な土壌の土粒子密度は 2.60 から 2.75 g/cm3 であり、土粒子密度は通常変化しない[10]。土粒子密度は有機物量が多い土壌では小さく[66]、酸化鉄量が多い土壌では大きい[67]。土壌の仮比重(乾燥密度)は土壌の乾燥質量を体積で割った値である。すなわち、その土壌体積中の空気と有機物を含む。したがって土壌の仮比重は常に土粒子密度よりも小さく、土壌の締め固め程度を示す良い指標となる[68]。土壌の仮比重は耕起されたロームでは 1.1 から 1.4 g/cm3 である(水は 1.0 g/cm3)[69]。土粒子密度とは異なり、ある土壌の仮比重は極めてばらつきが大きく、土壌生物の活動および土壌管理と強い関係がある[70]。しかし、団粒の種類や大きさによっては、ミミズが土壌の仮比重を増加あるいは減少させる可能性があることが示されている[71]。仮比重が小さいからといって、必ずしも植物の生育に適していることを示しているわけではない。土性や土壌構造による影響も考える必要があるためである[72]。仮比重が大きいことは土壌が締固められているか、砂、シルト、粘土が混ざることによって小さな粒子が大きな粒子の間隙に入り込んでいることを示している[73]。そのため土壌の多孔質体としてのフラクタル次元と仮比重の間には正の相関があり[74]、土壌動物が作った構造が存在しないシルト質粘土ロームは透水係数が低いことが説明される[75]

間隙

間隙(孔隙、空隙)は土壌体積の中で鉱物や有機物のような固体によって占められていない部分であり、空気か水によって占められている。生産力のある中程度の土性の土壌では、間隙は土壌体積の50%程度を占める[76]間隙の大きさは大きな幅がある。最も小さなもの (<0.1 µm) はクリプトポア (cryptopore) で、水を保持する力がとても強いため植物は利用できない。植物が利用する水は、より大きいウルトラマイクロポア (ultramicropore) やメソポア (mesopore) (0.1-75 µm) の水である。さらに大きいマクロポア (>75 µm) は、圃場容水量において空気で満たされている。

土性は最小間隙の総体積を決める[77]。すなわち、粘土は砂よりも小さな間隙を持ち、透水性は極めて低いのにもかかわらず[78]、間隙の総体積は砂よりも大きい[79]。土壌構造は土壌の通気性、大きな間隙への影響が強いため、水の浸透と排水に影響を与える[80]。耕起は大きな間隙の数を増やすという一時的なメリットがあるものの、土壌団粒が破壊されることによりすぐに劣化する[81]

間隙径分布は植物や他の生物による水と酸素の得やすさに影響する。大きな連続した間隙は空気、水、溶解した栄養分を速やかに移動させて供給し(透水性)、小さな間隙は降雨や灌漑のような水が供給される事象の間に水を蓄える(保水性)[82]。間隙径に幅があることにより、間隙は様々な大きさの空間に分かれて、多くの微生物や動物が居住空間が分かれているために直接的な競合をしないという効果もある。そのため、土壌には非常に多くの生物種が生存しているだけでなく、機能的にも似通っている種(通常であれば競合するために淘汰されてしまうような種)が同じ土壌中に共存できるということが説明できる[83]

コンシステンシー

コンシステンシーは土壌が自分自身あるいは他の物質に粘着する力であり、変形や破壊に対抗する力である。農耕の問題をおおまかに予測するため[84]、あるいは土質力学で使われる[85]国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、コンシステンシーは3種類の水分状態で測定する[86]。湿潤状態では粘性塑性を評価し、乾燥状態では土壌試料をこすることで土壌の「ちぎれにくさ」を試験する。湿潤状態におけるせん断力に対する抵抗は指の圧力で評価する。さらに、結合コンシステンシー (cemented consistency) は粘土以外の炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、酸化物や塩などの結合物質に依存し、水分状態はこの評価には影響しない。コンシステンシーの境界の評価は、土壌の状態のみかけの感触を使うため、pH のような他の測定値と比べると主観的になる。日本ペドロジー学会は、粘着性と可塑性を判定する指標をまとめている[87]

土壌のコンシステンシーはビルディングや道路を支持する力を見積もるために有用である。建設をする前には、しばしば土壌の強さがより正確に測定される。土質工学会が1973年に提案した日本統一土質分類法では、液性限界と塑性限界が土壌のコンシステンシーを評価する指標として取り入れられた。土の液性限界と塑性限界の試験法については、JIS A 1205 に規定されている[88]

温度

土壌の温度は吸収する熱量と損失する熱量の比に依存する[89]。土壌の平均温度は生物群系によっても異なり -10 から 26 °C である[90]。土壌温度は発芽[91]、種の休眠 (en) からの回復[92][93]、植物と根の成長[94]、栄養分の可給性[95] を制御する。土壌温度の季節変化、月変化、日変化は重要であり、変化する幅は深いほど小さくなる[96]。土壌をマルチングによって被覆すると、夏の温度上昇を遅らせ、土壌表面の温度変化を抑制することができる[97]

多くの場合に、農業では土壌温度に適合させるための作業が必要となる。たとえば、

  1. 発芽と成長が最大化するような植付けの時期を選ぶ(日照時間にもよる)[98]
  2. 10 °C 以下の土壌で使用するアンモニアの使用量を最適化する[99]
  3. 土壌の凍結によって土が持ち上げられる凍上によって根が浅い植物が被害を受けることを防ぐ[100]
  4. 飽和土が凍結することにより理想的な土壌構造が壊されることを防ぐ[101]
  5. 植物によるリンの吸収を促進する[102]

土壌温度を上昇させるためには土壌を乾燥させるか[103] 透明なプラスチックでマルチングする[104]。有機物によるマルチングは土壌の温度上昇を抑える[97]

土壌温度に影響を与える要因には様々なものがある。たとえば、水分量[105]、土の色[106]、土地の起伏(傾斜の角度と向き、高さ)[107]、土壌被覆(日陰と断熱)、そして気温である[108]。地表を覆っているもの(植生など)の色と断熱性能が土壌温度に強い影響を与える[109]。土の色が黒いものよりは白くなるほどアルベドが大きく、太陽光をよく反射するために土壌温度が低くなる[106]。土壌の比熱容量は1gの土壌の温度を1 °C上げるために必要なエネルギーである。乾燥土壌よりも水の比熱容量が大きいため、水分量が大きくなると比熱容量が増加する[110]。水の比熱容量はおよそ1 cal g−1 K−1 であり、乾燥土壌の比熱容量はおよそ 0.2 cal g−1 K−1であるため、湿潤土壌の比熱容量は 0.2 から 1 cal g−1 K−1 (0.8 から 4.2 J g−1 K−1) である[111]。また、水が蒸発するときには蒸発熱として大量のエネルギー (25 ℃ で 2442 J g−1) が奪われる。そのため、通常は湿潤土壌は乾燥土壌よりも温度が上昇しにくく、湿潤土壌は乾燥土壌よりも表面温度が 3 から 6 °C 低い[112]

土壌の熱流束は土壌中の2点間の温度差によって熱エネルギーが移動する速度である。熱流束密度は土壌の単位面積を単位時間に通過するエネルギーであり、量と方向を持つ。単純かつ応用範囲が広いケースとして、鉛直方向に土壌表面から流入あるいは流出する熱伝導について、熱流束密度は

土壌層(O層、A層、B層、C層)

土壌は、その構成成分の供給と消失の様式によって、土壌層が積み重なった形状を示すことが多い。土壌層とは、土壌への物質の供給と消失の様式によって形成される平行な境界を持つ層のことである。

例えば、土壌の表層部に植物遺体などの粗大有機物が集積する場合には、この表層部はO層(Organic層)と呼ばれる。O層の下部には、粗大有機物が分解あるいは溶脱されて生じた黒色の層(A層)が観察されることが多い。また、有機物に由来する黒色化が不十分で、風化が進行した鉱物質の層はB層と呼ばれ、風化が十分に進行していない岩石層(母岩)はC層、さらにその下の未風化の岩盤層はR層と呼ばれる。

土壌層は、土壌を分類するための重要な指標とされている。

なお日本の考古学の分野でも、遺跡を構成する土壌を層序学的に分層した「土層」と言う概念が存在するが、本項のような土壌学的な土壌層とはその定義や認識が大きく異なるものである[225]

分類

ロシアの土壌学者ヴァシーリー・ドクチャエーフは、1880年頃に土壌を5つの因子(土壌生成因子)に基づき、気候やそれによる植生の影響を強く受けた成帯土壌と母岩や地形などの影響を強く受け、局地的に見られる間帯土壌(非成帯性土壌)、その中間的な成帯内性土壌に分類した。ドクチャーエフの土壌分類はアメリカとヨーロッパの研究者によって何度も変更され、1960年代には共通に使われるシステムに発展した。

成帯土壌は、主に以下のように分類される。

間帯土壌には、地中海沿岸のテラロッサやブラジル高原のテラローシャデカン高原レグール、他に泥炭土などがある。元になる岩石が、特殊な成分を含んでいる場合などには、土壌の性質により、異なる植生を生じる場合がある。

1960年代には、土壌生成因子ではなく土壌形態学 (en) に基づいて土壌を分類するという考え方による異なった分類体系が生まれてきた。国際連合食糧農業機関 (FAO) は、世界の土壌図を作成するために、世界の土壌を分類するFAO土壌分類 (en) を作った。また、アメリカ合衆国農務省(USDA)は USDA 土壌分類 (en) を作成した。この2つが世界の土壌分類として国際的に広く使われていたが、現在、国際的な標準となっている土壌分類は、国際土壌科学連合 (en) が定める世界土壌資源照合基準 (World Reference Base for Soil Resources) である。国際的・学術的にはこの基準によって土壌分類を表記することが望ましいが、国や地域ごとのよりきめ細かい土壌分類が使われることを妨げるものではなく、実際に使われている。

農業生産は、気候や作物の選定、農業技術だけでなく、土壌の種類により大きく左右される。農作物がよく育つ土壌を「肥沃」(ひよく)、育ちにくい土壌を「痩せている」と表現することもある。世界で最も肥沃なのがチェルノーゼムで、「土の皇帝」の異名を持つ。チェルノーゼムを豊富に有するウクライナ小麦を大量に生産して「ヨーロッパのパンかご」とも呼ばれた[226]森林総研主任研究員の藤井一至は、肥沃さでチェルノーゼムを世界最上級のランキングAと位置付けたうえで、チェルノーゼムを含む12種類の土壌について、Bは「粘土集積土壌」「ひび割れ粘土質土壌」、Cが日本に多い「黒ボク土」と「若手土壌」、Dは「強風化赤黄色土」、Eが「オキソシル」「未熟土」、Fが「ポドゾル」「泥炭土」、Gが「砂漠土」「永久凍土」としている[227]

日本の土壌分類体系

日本の土壌分類体系には、以下のようなものがある。

  1. 林業試験場(現・森林総研)の林野土壌分類 (1975)[228]
  2. 農研機構(旧農業環境技術研究所)の農耕地土壌分類(第3次改訂版) (1995)[229]
  3. 農研機構(旧農業環境技術研究所)の包括的土壌分類第1次試案 (2011)[230]
  4. 日本ペドロジー学会の日本土壌分類体系 (2017)[231]

利用

土壌は建物などの構築のほか、農業で利用され、後者では植物にとって主要な栄養供給源となっている。不足する栄養を補うため肥料の使用(施肥)が行われる。砂漠であっても、不足する栄養と水をピンポイントで与える点滴灌漑で農業は可能である[232]

水耕栽培で立証されたように、土壌中の栄養が水中に溶解していれば植物は生育できる。土壌の種類と利用可能な水の量が栽培できる植物の種を決める。

劣化

土壌の劣化 (en)[233] あるいは土壌劣化は、人間あるいは自然による土地の機能を害するような変化の過程である。土壌劣化には土壌の酸性化 (en)、土壌汚染砂漠化侵食塩害が含まれる。

農作物の生育と収穫で、土壌中の栄養が減少することも多い。対策としては施肥や、土に有機物などを補給する他の植物との輪作などがある[234]

改良

スメクタイトのような特定の粘土を多く含む土壌は、とても肥沃な土であることが多い。たとえば、タイ中部の平地は世界で最も農業生産力の高い地域の1つである。

しかし、多くの熱帯の農家では、土壌に有機物を保持することに苦労している。たとえば、タイ北部の粘土が少ない土壌で生産力が低下した時に、農家はシロアリの巣から有機物を持ってきて加えたが、長期的には持続しなかった。そこで、科学者が土壌にスメクタイトの一種であるベントナイトを加えた。

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  232. ^ イスラエル/砂漠土 ランク=G/砂漠に花を咲かせましょう『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)217号【特集】疲れる土、6面(2019年5月19日)。
  233. ^ Johnson, D.L.; Ambrose, S.H.; Bassett, T.J.; Bowen, M.L.; Crummey, D.E.; Isaacson, J.S.; Johnson, D.N.; Lamb, P. et al. (1997). “Meanings of environmental terms”. Journal of Environmental Quality 26 (3): 581-89. doi:10.2134/jeq1997.00472425002600030002x. 
  234. ^ ブラジル/オキソシル ランク=E/不毛なら造り替えよう赤い土『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)217号【特集】疲れる土、5面(2019年5月19日)。

参考文献

関連項目

外部リンク


土壌

出典:『Wiktionary』 (2021/07/31 13:30 UTC 版)

名詞

どじょう

  1. 地質農産物育成観点から評価する語。地殼表面岩石崩壊ないし分解した無機物主成分とし、多少生物腐敗分解して生じた有機分が混合したもの。つち。つちくれ
  2. 比喩)ある文化等の現象成立する背景となっている諸要素

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