シリアの反体制派が発見した政府軍が運営していたとみられる「麻薬工場」を13日、取材した。首都ダマスカス郊外の暗い倉庫に足を踏み入れると、床に白い錠剤「カプタゴン」が散乱していた。
シリアでは、2011年からの内戦や欧米などの制裁で経済が疲弊する中、覚醒剤に似た作用を持つ薬物カプタゴンは最大の「輸出品」だった。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、アサド政権は18年までにカプタゴンの製造と密輸をほぼ統制下に収めた。主として、アサド前大統領の弟マーヘル・アサド氏が指揮する政府軍部隊が監督していたという。国家財源の不足を穴埋めする貴重な収入源だったとされている。
今年1月に世界銀行が発表した報告書によると、シリアで生産されたカプタゴンの市場価値は年間最大で56億ドル(約8600億円)とされ、23年のシリアの推定GDP(国内総生産)の62億ドルに匹敵する額となっている。
カプタゴンの製造や販売に絡み、シリアに関連する組織などが手にした収益は年間最大で19億ドルという。これは、シリアの合法的な輸出全体の約2倍の額で、いかにカプタゴンの生産や販売がはびこっていたかがうかがえる。
シリアから流れたカプタゴンは、湾岸アラブ諸国やヨルダン、レバノンなどに流れていたとされる。世銀によると、16~23年に、サウジアラビアで約6億錠、アラブ首長国連邦(UAE)では約2億錠が押収された。
15年10月には、レバノンの空港で、サウジの王子ら5人が、カプタゴンをサウジに密輸しようとした容疑で拘束される事件も起きた。
カプタゴンの流入を受けて、アラブ諸国は取り締まりを強化。シリアとヨルダンの国境沿いでは、カプタゴンの密輸業者とヨルダン軍の銃撃戦が発生するなど、治安問題にも発展していた。
ロシアやイランの軍事支援によって、アサド政権が内戦での優位を確保していた23年5月、シリアはアラブ連盟に12年ぶりに復帰した。近隣諸国にとっては、アサド政権との関係改善を進めることで、シリア経済を安定させ、カプタゴンの流入を防ぎたい思惑もあったとされている。
アサド政権の崩壊で、カプタゴン生産の実情が白日の下にさらされ、今後、密輸は減少していくとみられる。
ただ、内戦の長期化で国土は荒れ、経済は疲弊している。シリアでは政治権力の移行とともに、経済の立て直しも急務と言えそうだ。【エルサレム松岡大地】
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