鹿児島県が、県本土の約5割を覆う火山灰土壌「シラス」を活用した公共工事に全国で初めて取り組んでいる。建設や補修に欠かせないコンクリートにシラス由来の素材を使うと、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に減らせて脱炭素に貢献できる上、構造物の長寿命化につながることも分かった。関係者は足元にある「宝の山」を生かそうと、普及へ試行錯誤を続ける。
シラスは火砕流や空中に舞い上がった軽石、火山灰などが堆積(たいせき)したものを指す。鹿児島県には離島を含め11の活火山があり、本土側では約3万年前に発生した噴火でシラス台地が形成されたといわれている。保水力が乏しいため土砂災害を引き起こしやすく、農業にも不向きな土壌だ。一方で、やせた土地でも育つサツマイモの栽培を通じ、芋焼酎の生産につながった歴史もあり、住民の生活とは切っても切り離せない。
県工業技術センター(鹿児島県霧島市)は前身の工業試験場時代から、薩摩焼など地元の伝統工芸や産業で、自然環境や資源を活用した品質向上や新商品開発に取り組む。シラスも1953年から研究し、これまでに火山灰をうわぐすりに活用する技術などを開発。コンクリートへの活用を約10年前から本格的に検討してきた。
現在、コンクリートの主原料であるセメントの生成には、石灰石を高温で焼成する必要がある。ただ、その過程で1トン当たり約800キロともいわれる大量のCO2を放出するため、気候変動対策の観点から環境負荷が課題になってきた。
そんな中、シラスを研究してみると、シラスから取れる物質の一つである火山ガラスがセメント代わりになり、しかも焼成なしで使えることが判明。火山ガラスを粉砕した微粉末(VGP)でコンクリートを作ったところ、製造過程のCO2排出量を、従来に比べて93%カットする劇的な削減にも成功した。
効果は環境への優しさだけにとどまらない。VGPで作ったコンクリートだと、塩化物への耐性が高まり、腐食に強い構造物を建設できることも研究で分かった。VGPは2024年3月、生コンクリートの材料として日本産業規格(JIS)認証された。
センターは、シラスの成分を比重でえり分けて構成物質から火山ガラスを取り出す技術も確立した。普及にはセンター以外にもコンクリート用のVGPを生産する工場を設ける必要があるなど、壁はまだ多い。それでも、物価高騰で建設資材の価格が高止まりする中、量産化ができれば、地元にシラスが大量にあるため輸送コストを抑えられる。そればかりか、建設後の構造物の補修費を低減できる可能性も広がる。
24年10月には鹿児島市の県道工事で、歩車道の境界ブロックにシラス由来のコンクリートを使った。県は25年度に別のモデル工事に使うことも検討している。
開発に携わったセンターの袖山(そでやま)研一・研究主幹は「CO2削減効果は確実で、技術を実社会に活用できてうれしい。生コンで活用すれば、ダムや防波堤など大きな構造物の部材にも使える」と期待を寄せる。事業を進める県総合政策課の江畑知宏参事は「量産化を可能にし、今後ともさまざまな分野で活用を図りたい」と話した。【梅山崇】