特集

緊迫する中東情勢

パレスチナ自治区ガザ地区やシリア情勢、中東諸国の動きについて詳報します。

特集一覧

ハマスなぜ越境攻撃? 透けて見える政治部門と軍事部門の”ずれ”

イスラエルの空爆を受けるガザ地区=10月25日、AP
イスラエルの空爆を受けるガザ地区=10月25日、AP

 パレスチナ自治区ガザ地区に世界の注目が集まっています。ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは、イスラエルによる大規模な報復攻撃が行われることが自明にもかかわらず、なぜ越境攻撃を行ったのか。パレスチナ問題が専門の鈴木啓之・東京大中東地域研究センター特任准教授は、ハマス軍事部門が政治部門の意図を超えて暴走した可能性も否定できないと指摘します。ハマスとは何者か。ガザ地区の今後はどうなるのか聞きました。【聞き手・西尾英之】

前代未聞だったハマスの攻撃

 ――ハマスのイスラエルに対する越境攻撃をどうみますか?

 ◆イスラエル領内への越境攻撃は、その計画性、規模、イスラエル側の犠牲者の多さという点で、前代未聞です。

 ハマス側は、2022年初頭から計画を立案していたといいます。これまでのハマスの攻撃は、少人数でイスラエル側に潜入して自爆攻撃を行うことが中心でした。これに対して今回は、3000発近いロケット弾を一斉に発射してイスラエルの防空システムをかく乱。同時にイスラエルが境界付近に設置した監視カメラや監視塔などを攻撃したうえで、車両やパラグライダー、モーターボートなどを使ってハマスの戦闘員だと分かる姿で侵入しました。

 ハマス側の報道を信じるならば、攻撃には戦闘員3000人とその支援要員1500人、計4500人が動員されました。この計画性と規模は前代未聞です。

 ハマスの軍事部門の構成員は1万5000人から2万5000人とされます。ロケット弾については、鉄パイプに爆発物を詰めて、羽根を溶接して接合するなどして自作しています。銃器は自作できず、エジプトのシナイ半島からガザ地区へ通じる密輸トンネルを使って搬入していると思います。

 ――なぜ、ハマスは今、前代未聞の攻撃を行ったのですか?

 ◆この数年、パレスチナや中東が抱えてきた状況全体が背景にあると考えます。まず、イスラエルに封鎖されているガザ地区の経済が非常に苦しいことです。失業率は47%、貧困率が65%、住民の80%は何らかの人道支援に頼って生活しています。

 一方、パレスチナ全体で見ると、パレスチナ解放機構(PLO)主流派のファタハが実効支配するヨルダン川西岸地区で、「ジェニン大隊」や「ライオンの巣」などといった新たな武装勢力が台頭しています。パレスチナ社会で新しい武装勢力への認知度が上がっており、ハマスは自分たちの存在意義を示す必要性に迫られたとも言えます。

 また、昨年12月にイスラエルで、パレスチナに非常に厳しい姿勢をとる右派の宗教シオニスト系政党と連立して第6次ネタニヤフ政権が発足しました。一部はイスラエル国内でも禁止された極右組織「カハ」の思想を受け継いでいるともいわれ、ハマスは非常に警戒感を持ってこの動きを見ていたと思います。

 中東全体に目を向けると、20年以降、一部のアラブ諸国とイスラエルが関係改善を進めています。アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコが国交正常化に合意し、今年はサウジアラビアが続くとみられていました。ハマスがこの流れに歯止めをかけるために行動に出ることは不思議ではありません。

ハマスの三つの顔

 ――そもそもハマスとはどのような組織なのでしょうか。

この記事は有料記事です。

残り3121文字(全文4457文字)

【時系列で見る】

関連記事

あわせて読みたい

この記事の特集・連載

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月
' + '
' + '

' + csvData[i][2] + '

' + '' + '
' + '
' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList; } const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item'); let dataValue = '1_hour'; Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick); }); fetchDataAndShowRanking();