芥川賞の市川沙央さん「重度障害の当事者性を意識して書いた」

「ハンチバック」で第169回芥川賞に選ばれた市川沙央さん=東京都千代田区で2023年5月17日、稲垣衆史撮影
「ハンチバック」で第169回芥川賞に選ばれた市川沙央さん=東京都千代田区で2023年5月17日、稲垣衆史撮影

 芥川賞に選ばれた市川沙央さん(43)の受賞作「ハンチバック」は、難病の筋疾患、先天性ミオパチーを患う重度障害の自身を投影した主人公の女性の視点から、社会の現実を突きつけてくる作品だ。当事者を主体にした文学作品が見当たらず「当事者性を意識して、日ごろ思っていることを書いた」と話す。

 タイトルの「ハンチバック」とは背中が曲がった「せむし」のこと。背骨がS字に湾曲した症状を抱えた主人公・井沢釈華が自身をそう称している。釈華は両親がのこしたグループホームで裕福に暮らす重度障害の女性。性的な体験はないが、ウェブライターとして性風俗のコタツ記事(ネット上の情報のみで書いた記事)の執筆で得た金は恵まれない子どもたちに寄付する一方、ネット交流サービス(SNS)の裏アカウントには「妊娠して中絶したい」との願望を書き込んでいた。ある日、健常だが収入の低いヘルパーの男性にアカウントを特定された釈華は、多額の金銭を払う代わりにある話を持ち掛け、対照的な弱者の2人が交錯する。

 市川さんは幼い頃に難病と診断され、中学時代から心肺機能が低下し、横になる時は人工呼吸器を使う生活になった。呼吸困難を引き起こす痰(たん)を処理するための吸引器は手放せず、10代後半からは電動車いすでの移動で外出も思うようにできなくなった。

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