秀句鑑賞-秋の季語:鷹の渡り
2015/09/23 Wed
鷹ひとつ見つけてうれし伊良虞埼 芭蕉
(たかひとつみつけてうれし いらごさき)
掲句を知った時、最初は首を傾げたものである。「鷹を待っていたら一羽見えたよ、嬉しいなぁ、さすがは鷹の渡りで名高い伊良湖崎」。これが俳聖の句?と。しかし、繰り返し味わっているうちに、その感動が分かるようになった。「見つけて」と言うのだから、芭蕉は鷹を観察していたのだ。現代のように双眼鏡があったわけではないので、肉眼での観察である。私も今日観察してみたが、高い空を渡る鷹を肉眼で捉え、それを鷹だと識別するのは容易ではない。それが出来たから嬉しかったのである。しかし、それだけではない。「笈の小文(おいのこぶみ)」には、掲句は芭蕉が慕って止まなかった西行法師(さいぎょうほうし)の歌「巣鷹渡る伊良古か崎をうたかひて猶木にかくる山かへり哉(伊良湖崎まで来て、巣鷹(すたか)はそこから大空高く海を渡ってゆくが、山帰りの鷹は自信がないのか、ちょっと飛んではまた木に戻ってきてしまうよ)[山家集]」に寄り添っていると記されている。鷹には巣鷹や山帰りというものがあるらしいが、それはともかく、芭蕉は西行法師が詠った伊良湖崎の鷹の渡りを追体験できたことが何よりも嬉しかったのだ。「鷹渡る」は秋の季語だが「鷹」は冬。芭蕉の句は11月に詠まれている。(渡邊むく)
【松尾 芭蕉(まつお・ばしょう):寛永21年(1644)~元禄7年(1694)。現在の三重県伊賀市出身)】
鷹の渡りを観察する人 (衣笠山山頂:神奈川県横須賀市 2015.9.23)
テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術