ほととぎす
2020/06/30 Tue
ほととぎすどの唐松のてつぺんか /むく
(ほととぎす どのからまつのてっぺんか)
六月尽
早いもので今日で一年の半分が終わり。
あっという間だった。
半年間何をしてきたんだろう。
新型コロナウィルス騒ぎに振り回された、とは言うまい。
光陰矢のごとしとは老いゆく日々のことか。
ともあれ月末。
転居の準備もいろいろ。
他人の空似
旅先では思いがけない食べ物に出遇ったりする。
その土地ならではの食べ物との出会いは旅の楽しみの一つでもある。
福岡の八幡で出遇った鰯のピリ辛煮もその一つ。
年も押し詰まった頃の出張。
もう四半世紀ほど前の話。
宿の近くで夕食を兼ねた手ごろな止まり木を探した。
かつては官営であった八幡製鐵所の正門近くで、まるで門前町のように賑やかだったという町。
すでに往時の面影は偲ぶべくもなく、寂しさを隠せない町に変わっていた。
宿の近くのとある暖簾を潜った。
師走の夜の寒風に吹かれながらでは、店を選ぶ余裕はあまりなかった。
どの硝子戸も出入口を兼ねているようなその店の構えには少し戸惑った。
客の誰かが出入りする度に寒風が吹き込んでくるのでは、と思った。
一見らしく、私は努めてしおらしい顔を装って暖簾を潜った。
そこに、天地が逆さまになるような驚愕が待ち受けていようとは想像もしないことだった。
「いらっしゃいませ。」
女将らしい…と思って声のするカウンターの中に目を遣った。
するとそこに、ニコニコしながら家内が立っていたのだ。
うろたえた。
完全に我を失った。
なぜカミサンがここに居るんだ?
素行調査に来たのか?
なぜ今夜、この店に、私が来ることを知っていたんだ?
それが他人の空似…だと思うまでに、しばらく時間がかかった。
落ち着け、と何度も自分に言い聞かせながら熱燗を煽った。
カウンターの目の前に並んだ料理皿から、目に付いた鰯のピリ辛煮を注文した。
世の中にこんなにそっくりな人がいるのか…。
私のただならぬ気配を察して、女将も何ごとかと訝っているに違いない。
事情を説明するべきかも知れない。
しかし、一見でいきなり「女将さん、家内とそっくりです」なんて言えるか?
そんなことを言ったら、下心ありと即座に軽蔑されるに決まっている。
酒は静かに興奮せずに飲むべきである。
動悸が収まらぬままに飲む酒は酔いが回る。
鰯のピリ辛煮が私の早過ぎる酔いの回りを救ってくれた。
鰯の上に鷹の爪の輪切りが見えた。
梅や生姜も入っていたかもしれないが、覚えていない。
実山椒の粒が目に付いた。
「山椒の実ですね。
手作りですか?」
「えぇ、毎年採って作っています。
今年のはこれで最後…。」
ずっと無口だった私がやっと呟いた言葉に、微笑みながら答えてくれた。
「今年はこれで最後…」と言った時の女将の哀愁を帯びた顔を今でも思い出す。
証拠写真のホトトギス (2020.6.27 山中湖村:山梨県)
(2020年6月30日 山中湖にて) ご訪問ありがとうございました。
テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
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