原発禍人無き故園冬ざるる /むく (げんぱつか ひとなきこえんふゆざるる ) 私の故郷は岩手県釜石市。
祖父母は相馬と浪江、共に福島の出身。
津波は天災、原発事故は人災。
54年ぶりという11月の首都圏の雪の日の思いを。
晴れ間 (2016.11.20 水ヶ塚公園:静岡県裾野市)
十一月の平日、東京の句会に行ったときの出来事である。
会場の会館の一室に入ると、私よりも早く着いたTさんの姿があった。
二人で折畳みテーブルと椅子を並べ始める。
おおよそテーブルと椅子を並べ終わったところで、私の携帯電話が鳴った。
電話は、私の仕事先の一つである小さなエンジニアリング会社の社長Yさんからだった。
昼休みに自転車で外に出たインド人技術者のB君が警察に捕まったのだと言う。
「まだ交番にいるか、会社に戻る途中か分からないけど…とにかく、びっくりしたと思うんで、渡邊さんから電話して安心させてやって欲しいと思って。」
自転車は従業員の一人であるKさんの個人名義で登録されているので、最初、警察はその登録名義者であるKさんに電話をしたそうだ。
が、本人はだいぶ以前から他の事業所に出向して仕事をしていて、警察から電話をもらうまで、自転車の登録名義者であることも忘れていたらしい。
その自転車を、今は通勤用として会社がB君に貸与しているのだが、B君は外国人不審者による自転車泥棒の疑いをかけられたのかも知れない。
句会場の部屋を出て、会館のホールでB君に電話をかけた。
電話をかけながら、B君が自転車を使うようになった当初に、「警察に尋問を受けるようなことがあるかも知れないよ」と言っておいたことを思い出した。
B君もそれを覚えていたようで、それほど動揺している様子は窺えなかったので安心した。
あとは、明日会社に行ったらフォローしておこう…。
ホールで電話をしている時に句会場の隣の部屋のドアが開いて、中から一人の外国人が出て来た。
隣は英会話教室の会場に使用されている部屋なので、おそらくそのインストラクターだろう。
ちょうど、英語で警察がどうのこうのという話をしていたところだったので、ちょっと驚かせたかもしれない。
電話をし終えて喫煙所に一服しに行くと、そのインストラクターとまた会った。
三十代前後の青年で、イギリス人だと言う。
イギリス人にしては少し小柄な彼の名前はジャック(仮名)。
青ひげの生えた頬の感じなどからは、なんとなくインド・アジア系の血が混じっているのかもしれないという印象を受けた。
一服しながらジャックに電話の経緯を話した。
「…まあ、日本人が外国に行けば目立つように、日本にいる外国人は目立つからね。」
私がそう語ると、ジャックが言った。
「実は先週、自分も警察の尋問に遇った。」
なんでも、真夜中過ぎにアパートの外で煙草を吸っていたらパトロール中の警官に尋問を受けて、ポケットの中まで調べられたのだそうだ。
うーん、無精ひげとあまり変わらないようなこの頬の青ひげは、中東あたりのテロリストに見えなくもないなぁ…とも思ったが、それは言わなかった。
当節、世の中は物騒なことが多い。
警官も、決して悪気があって尋問をするわけではない。
しかし、何も不審な行動はしていないのに運悪く尋問を受けたりする外国人も気の毒である。
B君が自転車で通勤し始めた頃に、そんなことがあるかも知れないよと言ったのは、私なりのいろいろな経験に基づいてのことだったが、とりわけ、あるトルコ人エンジニアの話が耳に残っていたからである。
そのトルコ人エンジニアは、技術研修のために三ヶ月ほど茨城県北部の町に滞在した。
夜、小腹を満たすためにコンビニに菓子パンなどを買いに行くと、いつもうさん臭い目で見られている視線を感じたというのだ。
彼もまた、中東のテロリストではないかと疑われかねない風貌をしていた。
こうした理不尽な目に遭う外国人に同情はするが、国際化とはそういうものでもあろうと思う。
「私はこういう者で、決して不審な外国人ではありません」という証明付きのプラカードを首からぶら下げて歩く訳にもいくまい。
昨日は、Yさんの会社のもう一人のインド人技術者G君の歓送会があった。
三ヶ月間の日本での研修を終了して、来週インドに帰る。
自転車通勤のB君は酒好きだが、しおらしくジュースを飲んでいた。

小春野 (2016.11.20 富士山遊歩道:静岡県裾野市)
カネやモノでなく、豊かな心の大切さを伝えられる私たちに。(渡邊むく)
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