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伊坂幸太郎が薦める極上の短編小説19選『小説の惑星』

面白い小説が読みたい人に、「はいこれ」と渡せる。

いまの時代、面白いアニメやゲーム、映画が沢山ある。しかも、Amazonやネトフリで、居ながらにして楽しめる。じゃぁ、どうして小説を読むの?

その答えが、この2冊だ。小説の面白さを語るより、まずはこれを読んで欲しい。これを読んでダメなら仕方がない……という最強ばかりを集めたという。

名前は知っている作家だけど、未読が多かったので、たいへん楽しめた。

嫌悪感を抱きつつ、こいつ酷い目に遭えばいいのに……と思ってたらナナメ上の展開で吹き出してしまったり、まんま『はたらく細胞BLACK』やんけと思ったら、こっちが本家なことに気づいたり、ダブルプロットにしては変な構成だなぁと不思議だったのが、全てがカチっと噛み合う怖ろしいほど美しいラストに化けたりと、読む悦びに浸りまくった。

本書が良いのは、理由が書いてあるところ。数ある中から、なぜその作品なのか、どんな思い入れがあるのかが、あとがきにまとめられており、参考になる。

たとえば、「悟浄歎異」。

中島敦なら、「山月記」「名人伝」がいいんじゃね? と思うのだが、西遊記の沙悟浄の手記という、いっぷう変わった作品を出してくる。しかもこれ、前・後編の後編になる(前編は「悟浄出世」)。普通こうした場合、前編が採用されるのだが、なぜ後編なのか?

謎があとがきで明かされると、その箇所を、もう一度読みたくなる。その理由が、とても繊細で、ちょっと「かわいい」と思ってしまう。でも分かるわーという気持ちになる。

あるいは、大江健三郎「人間の羊」。

主人公が酷い目に遭うのだけれど、なんとかして彼を助けてあげたい、そして加害者を懲らしめてやりたい、と憤りながら読み進める。すると、読み手である私の感情にシンクロする展開になるんだけれど、その展開が私を追い越してしまい、「私の憤り」を背後から眺めることになる。

私の中から「怒り」という感情を取り出して、「ほら、これだよ」と見せてみせる。その手さばきが鮮やかすぎて、私は直視できない。でも、その気まずさ、居心地の悪さこそが、この作品が選ばれた理由になる。

小説を読む悦びを、言葉で語るのは難しい。

プロットや構成の妙だとか、文字という媒体でしか伝えられない重みとか、時間差で腑に落ちる可笑しさは、話すほど暑苦しく、ウザがられるかもしれぬ。

だから、「はいこれ」と渡して、味わってもらう方が早いかもしれぬ。ラインナップは以下の通り。珠玉の短編集なり。

オーシャンラズベリー篇

永井龍男「電報」

絲山秋子「恋愛雑用論」

阿部和重「Geronimo-E, KIA」

中島敦「悟浄歎異」

島村洋子「KISS」

横光利一「蠅」

筒井康隆「最後の伝令」

島田荘司「大根奇聞」

大江健三郎「人間の羊」

ノーザンブルーベリー篇

眉村卓「賭けの天才」

井伏鱒二「休憩時間」

谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」

町田康「工夫の減さん」

泡坂妻夫「煙の殺意」

佐藤哲也『Plan B』より「神々」「侵略」「美女」「仙女」

芥川龍之介「杜子春」

一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」

古井由吉「先導獣の話」

宮部みゆき「サボテンの花」

 

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