面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(前編)
お薦めの世界史の本について、3人で2時間語り合った。
世界史を学びなおす最適な入門書や、ニュースの見方が変わってしまうような一冊、さらには、歴史を語る意味や方法といったメタ歴史まで、脚本家タケハルさん、文学系Youtuberスケザネさん、そして私ことDainが、熱く語り合った。
全文はyoutubeで公開しているが、2時間超となんせ長い。なのでここでは、そこから厳選して紹介する。
因果関係を補完する『詳説 世界史研究』
スケザネ:大学生、あるいは社会人の方々にも、世界史を学ぶには、まず真っ先に「高校世界史」をオススメしたいです。世界の歴史を幅広く知るという観点から、高校世界史はベストだと思います。
代表的な高校世界史の教科書は、山川出版社の『詳説 世界史B』。世界史の概観が400ページぐらいにまとめられてて良い本なんですが、これだけだと記述が簡素で、理解するには少ししんどい。
実際、自分が高校生の頃にこれで初めて勉強したとき、マジで意味が分かんなかった(ちなみに最終的に、教科書は東京書籍の『世界史B』を使用していました。)。
そんなとき、世界史ができる同級生にお薦めされたのが『詳説 世界史研究』です。これは、『詳説 世界史』を何倍にも詳しくしたもので、字も細かいし、ページもぶ厚くなっています。
ボリュームがあるからちょっと怯むんですが、めちゃくちゃ良いです。『詳説 世界史』では語られていない(省略されていたり、簡素化されていたりする)因果関係や背景が書いてあって、なぜそれが起きたのか、その出来事がどうつながっていくのかが、詳しく説明されている。確かに分厚いけれど、説明が詳しいので気合いさえあれば読み通せる。
高校生の頃は、学校の授業や実況中継シリーズのような通史解説を読んでいって、特に分からないところは『詳説 世界史研究』で補うようにしていました。今でも辞書的に手元において重宝している一冊です。お薦めです。
Dain:以前、スケザネさんにお薦めされ、『詳説 世界史B』と『詳説 世界史研究』を並行で読み切りました。ありがとうございます。
そこで気づいた最大のものが、歴史をアップデートする必要があること。私が知ってる世界史は、米ソ冷戦の雪解けまで。それ以降は、テレビやネットで知った「ニュース」になります。ニュースの蓄積で、現代を知ったつもりでいるけれど、歴史としての検証を経ていない。だから、私の思い込みの可能性もある。
たとえば貧困問題。ネットニュースで「貧困問題は大きく解消に向かっている」と知り、それが事実だと思い込んでいました。ですがそれは、都合の良い情報を切り取っただけであることが、『詳説 世界史B』分かりました(※1)。世界の食糧問題は、依然深刻なままです。
あるいは紛争問題。とある学者が「戦争は大幅に減少している」というの耳にしたことがあります。ですが、国家同士が宣戦布告する従来の戦争が減っているだけのこと。代わりに、内乱、紛争、武力介入、軍事制圧になっています。これは、『詳説 世界史研究』に記されています(※2)。
ニュースに敏感になるのも大事ですが、ニュースは検証をしません。なので、歴史としてどう記されているかを知るために、教科書は重要だと思います。
ボリュームもあり、一気に読めないのですが、コツがあります。「今日、ここまで読んだ」とツイートするんです。みんなが見ているから、引っ込みがつかない。読書猿さんの『独学大全』で教わったやりかたです。
そして、「全部読んだぞ!」とツイートしたら、読書猿さんから「次はこれなんてどう?」と教わったのが、私のお薦めの1冊目になります。
プーチン大統領が怒った理由を『新詳 世界史B』で知る
それは、帝国書院『新詳 世界史B』。300ページと薄くて、図版が多いのが嬉しい。真ん中に本文があって、周囲に史料や写真が囲むような構成になっている。本文、つまり史実は、その周りの史料によって支えられていることが伝わってきます。
嬉しいのが、見出しと本文の間に2~3行ぐらいのリード文があることです。いわゆる、トピックセンテンスですね。本文の予告みたいになっていて、おかげで、そこで何を扱うかが素早く押さえられる。
Dain:今日の対談のために、『新詳 世界史B』を見直してたら、最近のニュースにつながる話題がありました(※3)。ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ問題について語ったコメントです。ウクライナ国境にロシア軍を集結させていることへの批判に対し、「NATOがウクライナを取り込もうとしているのが原因だ」と怒りをあらわにしたとあります。数か月前、住民投票が行われ、ロシアへの編入を望んでいるという結果があり、それも受けたコメントです。
でも、『新詳 世界史B』のp.204「現代につながる諸問題:ロシアによるクリミア編入」を見ると、問題はもっと複雑なことが分かります。
ウクライナのあるクリミアは、ちょうどロシアと黒海の間に挟まる地政学的な要衝です。もともとクリム=ハーン、つまりモンゴル由来で、ロシアの南下政策の対象となった国です。古くからいるクリミア=タタール人、ウクライナ人に、ロシア人が入り混じっているのです。
そんな状態で、一部地域の住民投票だけで、ウクライナ全土がロシアへの編入を求めているというロジックは成り立ちにくいことが分かります。こうしたクリミアの歴史的背景から目を逸らせるために、外交戦術の一環として、プーチン大統領は怒ったんじゃないかと。
世界史の図鑑『タペストリー』
スケザネ:世界史を学ぶことで昔のことがわかるだけじゃなく、それを通じて現代のことをより深く知ることができます。特に教科書にはコラムという形であちこちにあるトピックがまさにそれで、例えば中東問題とか、アフリカの国境の問題というのが、記述試験の論述問題に役立つ、なんて受験界隈で囁かれていました。
実際、受験勉強で学んだことが、現代の国際情勢を考える上で、ダイレクトに役に立っています。
Dainさんの帝国書院の紹介で「図版が多い」というお話がありましたが、図版はめちゃめちゃ大事。なので、もう1冊推しを紹介させてください。
それは、帝国書院の『最新世界史図説 タペストリー』です。
やっぱり教科書の文章だけではしんどい。言葉や文章は確かに大事ですが、理解を助けるために、写真と史料、あと年表や地図といった視覚情報がとても役に立つ。『タペストリー』は、いわば世界史の図鑑とでもいうもので、必携ですし、とりあえずその手の内容であればこれ一冊で十分といってもいい。
地理から歴史を見る『恐怖の地政学』
タケハル:自分の本棚をざっと見たのですが、私の場合、いわゆる世界史の通史というものは少ないです。受験は地理だったし。
なので、私の推しはT.マーシャル『恐怖の地政学』です。
地政学とは、地理から歴史を見るものです。世界各国の地政学的な状況を分析することで、地理が世界史にどうかかわっているかを知ることができます。
Dainさんが言ってた、ロシアとウクライナの位置関係がまさにそれ。こんな話があります―――プーチン大統領はロシア正教徒のはずだから、毎晩熱心にこう祈るはず。
「神よ、なぜあなたはウクライナに山岳地帯をお作りにならなかったのですか」
スケザネ&Dain:www
タケハル:どういうことかというと、平地でつながっちゃっていると、人の行き来が簡単で、戦争もすぐ起こせちゃう。さっきのクリミア問題なんてまさにそう。
でももし(神の思し召しで)山岳地帯があれば、人の行き来が難しくて、そこで文化が分断される。すると、統治のために大軍を配備しなくてすむようになる。
こういう発想で世界を見ていくのが地政学。
たとえば、ロシアと中国は国境を接しているけれど、あんまり戦争してきたイメージはない。それは、ロシアと中国のあいだにゴビ砂漠があるから。砂漠地帯を挟んだ国同士は、戦争が起きにくいんです。
砂漠があるとどうなるかというと、軍隊が来るのが見える。移動が大変だし、砂漠の真ん中で戦争するわけにもいかないし……というわけで、距離が近いけど戦争を仕掛けにくい関係になっている。
ドイツとフランスの仲が悪いのも同じ発想です。間に遮るものが無いから。境界線が川だけで、すぐに攻め入ることができる。イタリアはアルプス山脈があるから攻めにくい。
目から鱗だったのが、ペリーです。あの黒船の。日本に来た時、出発地点がどこか分かります?
Dain:(捕鯨基地の)ハワイとか?
タケハル:違うんです。その頃アメリカ西海岸は発展していませんでした。実は、スタート地点は東海岸なんです。黒船はいったんヨーロッパを経由して喜望峰をまわって日本に来たんです。
なぜなら、パナマ運河が無かったから。だからわざわざぐるりと地球を回って、日本へやってきた。
国同士の関係性や、歴史上の出来事には、物理的な理由=地理に因ることを教えてくれるのが、『恐怖の地政学』なんです。
地理は歴史の定数
スケザネ:歴史において地理は重要ですね。フランスの歴史学者フェルナン・ブローデルの三層構造という考え方があります。ブローデルは、歴史を三つの構造に分けました。
一つは、政治的な事件や出来事です。いわゆる政治史と呼ばれる階層で、世界史の中心とも言うべき内容ですが、早いテンポで変わっていきます。
二つ目は、社会の動き。人口動態や国家の枠組みです。歴史による変化はありますが、一つ目よりは緩やかで、変わりにくいです。
三つ目は、地理です。自然環境や気象、山岳や河川、砂漠といった地質的条件です。これは上の二つと異なり、そう容易く変わることがありません。
戦争や社会の動きといった、動きのあるところだけを見ていると、見逃してしまう、歴史の根っこにあたるのが地理ですね。地理は、世界史の定数と言っていいでしょう。
イギリスとフランスの間にあるドーバー海峡、これは百万の陸軍に相当する、という言葉があります。もし両国の間に海がなかったなら、イギリスとフランスの関係はまるで違ったものになっていたことでしょう。ナポレオンも、ヒトラーも、海はそう簡単に渡れないですから。
地政学がここ数年元気になってきたのは、日本特有の事情があると思います。
地政学は、アルフレッド・マハンやマッキンダーという、軍人や政治家が基本的な理論を打ち立てた学問です。彼らが生きた19世紀末から20世紀初頭頃は、帝国主義全盛の時代で、世界地図をゲームの盤上に見立てていました。つまり、地政学とは、極めて政治的な学問だったということです。
そのために、第二次大戦後、日本がアメリカのGHQに占拠されたとき、地政学はあまりにも危険すぎるということで、地理学から政治的要素を抜いて、人文地理学だけにしました。
時が流れ、今では政治がかった文脈の中で地理が語られるようになりました。こうしたキナ臭い背景も含め、地政学の取り上げられ方の動向も、気になりますね。
タケハル:「地政学の歴史」があるというわけなのですね。
Dain:いま気づいたのですが、山川の『詳説 世界史B』と『詳説 世界史研究』、そして帝国書院の『新詳 世界史B』の3つに共通するものがあります。それは教科書の表紙を開いた見返しのところ、世界地図なんですよね。それも、国境のないやつ。
主な河川や山脈、海、砂漠、高原が描いてあります。帝国書院の教科書だと、海流や偏西風、季節風まで記されている。戦争のしやすさだとか、交易のしやすさ、文化の伝わりやすさというものは、こうした地理環境によって左右されているんじゃないかと。
スケザネ:そこでお薦めしたいのが、『高校 世界史を ひとつひとつわかりやすく』(鈴木悠介、学研プラス)です。面白いのは、最初にひたすら地理の話をしているところ。世界史の参考書なのに、ここは何半島だとか、山脈だとか、地図の話で始まっている。
これは感激しましたね。というのも、高校で世界史を始めたとき、国や地域の位置関係がいまいち掴めず、苦労してたから。
タケハル:地理が分かると、世界史の理解が一気にあがりますもんね。
Dain:チャットの方のコメントで「地政学といえば奥山真司 」「原書房の『マッキンダーの地政学』が良かった」といただいています。ありがとうございます、めちゃくちゃ気になります。
スケザネ:『赤毛のエイリークのサガ』のお薦めコメントありがとうございます。コロンブスに500年先駆けてアメリカ大陸へ足を踏み入れた人たちの歴史みたいですね。これも気になります!
史実と主張を分ける『論点・西洋史学』『論点・東洋史学』
スケザネ:では2周目に行きましょう。『論点・西洋史学』『論点・東洋史学』をお薦めします。歴史学の中から、論点だけを120個ぐらい集めたもの。どんな論点かというと、注目を集めている事実関係やキーワード、現代につながるものなど。
たとえば、最初の論点として「ホメロスの社会」があります。ホメロスによって作られたとされる英雄叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』が、ギリシャ社会の中でどのように受容されていったかが議論され、シュリーマンに至る時系列の中で紹介されています。
他にも、ポリスがどのように形成されていったかとか、キリスト教がどうやって拡大していったかなど、通史的なところを押さえつつ、ポイントになるものを見開き1ページにギュッと解説してくれている。
特に良いのは、最初のパラグラフで、史実が記されているところ。どんな主張を支持していていようとも、確からしいところ=ファクトが十数行ぐらいに並んでいる。その次に、考察ポイント=論点とその背景が並んでいる。横に注釈が並んでいて、分かりにくいところはサポートしてくれるのも嬉しい。
『詳説 世界史研究』の次に、通史からもう一歩進みたい人にお薦め。
タケハル:読みたい! これは手元に置いて、都度つど「使う」本ですね。
Dain:これは欲しい! 『論点・西洋史学』と『論点・東洋史学』はペアになっているように見えます。なので、同じ「史実」でも、侵略する側/される側によって、描かれ方が違っていると思います。そういった論点を両側から比較するようなことはできるでしょうか?
スケザネ:両方を見比べると、できます。たとえば『論点・東洋史学』には、「アヘン戦争」や「インド大反乱」「フランスのアフリカ支配」といったトピックが並んでおり、アジア・アフリカの抑圧された側からの視点も含めて論じられています。一方『論点・西洋史学』には「大西洋奴隷貿易」「植民地と近代」という論点で、帝国主義的な立場が議論されています。なので2冊セットで読むと、より立体的に理解できると思います。
Dain:ギャラリーの方で「買いました」というコメントが! 私もポチってしまいそう。
スケザネ:コメント欄からのお薦めいただきました、ありがとうございます。『歴史に残る外交三賢人 ビスマルク、タレーラン、ドゴール』(伊藤貫、中公新書ラクレ)ですね。この三人が並んでるだけでめちゃ面白そう。新書だしお財布に優しい。
タケハル:それ読みました! すごく良かったです。ドイツのビスマルク、フランス革命のタレーラン、そしてこれまたフランスのドゴールのそれぞれの外交&戦略論です。ドゴールが一番面白かった。これ読むまで、第二次大戦のドゴールに強い印象がなかったんですが、見方が変わりました。
第二次大戦後の歴史って、米国 v.s. ソ連の構造だと思っていたんですが、フランスが独自路線を敷くことで、東西の対立だけじゃなくなった、その立役者としてのドゴールを描いています。
先入観からの解放感がスゴい『反穀物の人類史』
Dain:僕からは、2021年に読んだ中で一番の『反穀物の人類史』(J.C.スコット、みすず書房)をお薦めします。読書体験の中で最高のものである、「読んだら世界がひっくり返る」を生々しく味わった一冊です。
これを読むまで僕の中で、「農耕社会が豊かな文明をつくる一方、狩猟採集は野蛮で遅れていた」というイメージがありました。ですが、これは私の思い込みであり、全く逆であったことが示されています。
残されている農民の骨格を、同時期に近隣で暮らしていた狩猟採集民と比べると、狩猟採集民の身長が、平均5cm以上も高いことが判明しています。また、農民は、栄養不足による発育不足や、感染症に罹りやすかったことが骨から分かっています。
一方、狩猟採集では、海や河川、湿地、森林、草原と、季節に応じて移動することで、十分な栄養を安定して得ていました。
じゃぁ、なぜ農耕民族は栄えたのか。著者は「定住」だと答えます。
狩猟採集民は野営地を「移動」します。家財道具一式を持って移動する際、最も負担になるのが子どもです。だから子どもを育てるのは4年ごと、つまり自分で歩けるまで、間隔をあけるんです。結果、狩猟採集民が育てる子どもの数は、限られてくることになる。
この問題は「定住」が解決します。移動することがないから、いつでも子どもをつくることができる。しかも農耕民族にとって子どもは大事な労働力です。だから、どんどん産んで、たくさん育てようとする。もちろん子どもの死亡率も高いのですが、生涯出生率を5,000年で複利計算すると、農耕民族は狩猟採集民を圧倒するとしています。
他にも、「国家は穀物で発展した」という主張が目を引きます。古代国家は麦や米、ヒエなどの穀物が主要な食物であり、税の単位であり、暦の基盤でした。なぜか?
それは、徴税が楽だからです。穀物は地上で育ち、ほぼ同時期に熟すため、一回の遠征で収奪可能です。しかも土地の広さ=収穫量なので、おおよその税も見積もれます。こうした税収を見積もったり記録するために、数字や文字が発達したのではないか、と考えられます。
私たちが知る「歴史」とは、文字として残された史料からです。そして、それらを書いてきたのは、穀物で発展した国家です。当然、自分たちの支配を正当化し、それに馴染まない狩猟採集民を低く評価する記録となるでしょう。私の先入観は、「文字による史料」という段階から刷り込まれているのかもしれません。
スケザネ:面白そう! 穀物からの恩恵を受けた人たちによって書かれたのが歴史だという発想は、考えたこともなかったです。
書かれた言葉が世界を変える『物語創生』
タケハル:「文字によって書かれた世界」という観点からだと、『物語創生』(M.ブフナー、早川書房)がお薦めです。サブタイトルが「聖書からハリー・ポッターまで、文学の偉大なる力」というんですが、微妙に翻訳のピントがずれている。
これは、文字や言葉がどのように人々の心を動かし、歴史を形作り、文明を発展させていったかを解説した本です。
もちろん聖書やハリポタも出てくるし、ホメロスのオデュッセイアやギルガメッシュ叙事詩も俎上に上るのですが、「文学」というジャンルからだけではなく、そもそも「書かれるとは何か」からスタートしています。なぜそれが語られるだけではなく書かれたのか。そしてなぜそれが残ったのかまで掘り下げています。
例えば、アッシュルバニパル王と楔形文字の関係について。楔形文字の保護をしましたが、それによって王の支配力が高まったとされています。
なぜか? それは、戦争にヒントがあります。召集や行軍、戦術を指示するとき、それまでは口頭で行っていました。しかも将から直接全員に言うわけではないので、伝言ゲームになります。
すると、微妙にずれてくる。味方の勢力や徴発した物資の数が変わったり、指示内容が変わってくる。これを回避するために、「記された言葉」すなわち文字が役立ちます。文字により正確に情報を伝えられるようになったのです。文字は戦争を有利にしたのです。
あと、「記された言葉から見た歴史」だと、アメリカの画期的なところも紹介されています。活版印刷術が普及していくと、「印刷する設備や技術者を持っている人」こそが情報を握っており、権力者となりました。作家と印刷者からすると、印刷者のほうが強い。これがヨーロッパでした。
一方アメリカでは事情が違ってきます。ベンジャミン・フランクリン。科学者でもあり政治家でもあるフランクリンは、文章が書ける人でした。そして印刷する設備も持っていました。書く人+印刷する人の両方が揃っている新聞社が力を持っているのは、こうした理由になります。
さらに、マルクス・エンゲルスの『共産党宣言』、世界を大きく変えた一冊として有名ですが、これが凄い勢いで広まった理由は、ちゃんとあるのです。
それは、同時翻訳・同時印刷したからです。
普通なら、作者の言語で書かれた後、評判によって他国語に翻訳され、だんだん広まっていくものです。ですが、共産党宣言は最初から複数の言語に翻訳され、印刷され、出版されたのです。そのためヨーロッパ全土でバズったのです。
こんな感じで、文学や物語というより、文字が人類に与えたインパクトがテーマなのです。原題が一目瞭然で、”The Written World” (書かれた世界)まんまですね。サブタイトルは、”The Power of Stories to Shape People, History, Civilization” (人、歴史、文明を形作った文字の力)です。カッコつけて、キャッチーなタイトルにしようとして焦点がずれてしまって勿体ない。
物語の力もあるけれど、もっと政治的・歴史的な話なんです。
スケザネ&Dain:知らなかったーー! 気になるーーー!
※1 『詳説 世界史B』(山川出版、2020)p.417 課題:世界の食糧危機問題を考える
※2 『詳説 世界史研究』(山川出版社、2020)p.536 地域紛争の激化
※3 BBC:ロシアはウクライナを侵攻するのか 現状について数々の疑問
(後編へ続く)
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