人生を豊かにする(かもしれない)名言集『ささる引用フレーズ辞典』
いい言葉にはパワーがある。
ふと目に留まったフレーズに励まされたり、油断しているときに胸に刺さったりしてくる。不安なときに思い出して前を向くための道しるべだったり、心を動かし、ポジティブな気分をさらに強化する触媒だったりする。強い言葉じゃなくても、言葉に強くさせられることがある。
そういう、言葉のストックがある。迷いを断ち切りたいとき、気分をアゲたいとき、深淵を覗き込みたいとき、それぞれの効能を見込んで、読み直す。すると、私専用のレシピのように効いてくる。そんな成分強めなのがこちら。
疲れた大人に、よく刺さる『心にトゲ刺す200の花束』
苦しくて辛いとき寄り添ってくれる一冊『絶望名言』
若い頃の自分に教えたい名言集『他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え』
疲れ気味のおっさんなので、ポジティブなやつは苦手だ。やまない雨はないとか、あきらめなければ夢はかなうとか、キラキラしすぎてて眩しい。
それよりも、辛くて苦しいときに、絶望の底を見させてくれて、「まだマシかも」と思わせてくれる名言のほうが良く刺さる。
今回紹介するのは、清濁併せ呑むタイプのやつ。本書で出会った、火力高めの好きなフレーズはこちら。
- 悲観は気分、楽観は意志(アラン)
- 誰もがそれぞれの地獄を耐える(P.ウェルギリウス)
- 大きな棍棒を手に、穏やかに話せ(セオドア・ルーズベルト)
- 良い女の子は天国に行ける、悪い女の子はどこへでも行ける(H.G.ブラウン)
ポジもネガもひっくるめて、刺さるフレーズや、かっこいい寸鉄、思わず引用したくなる名言ばかりを集めたやつ。以前に紹介した同著者の『エモい古語辞典』の通り、格調高め・古典多めになる。
「人生」の名フレーズ
いい言葉には磁力がある。
ある名言が別のフレーズを思い出すきっかけとなる。私の内側に蓄積された言葉を引き寄せる磁石となる、そういう名言集なのだ。せっかくなので、本書で紹介された言葉と、そこから引っ張り出されたフレーズを並べてみよう。
まず、本書で出会った刺さる言葉はこれ。
ことしから丸儲けぞよ娑婆遊び(小林一茶)
小林一茶は50代後半で脳梗塞に倒れ、一時は半身不随になり、言語障害にも陥ったのだが、九死に一生を得た後に詠んだのがこれ。もう死んだようなものだけど、拾った命だから、後は生きてるだけで丸儲け、娑婆で遊びつくそうぜというやつ。
ん?
この「生きてるだけで丸儲け」は明石家さんまの座右の銘のはず(長女の「いまる」もここから名づけたという)。
1985年8月12日、日本航空123便が群馬県の高天原山ヘ墜落し、520名の死者を出した史上最悪の事故があった。明石家さんまもこの便に搭乗予定だったのだが、「オレたちひょうきん族」の収録が早く終わり、123便をキャンセルして、一つ前の便にしたのだというエピソードを思い出す。
小林一茶や明石家さんまほどドラマチックではないかもしれない。けれど、「今日は残りの人生の最初の日」という心もちでやってゆきたい。
「恋愛」の名フレーズ
恋愛モノの名言が厚めなのもいい。
恋、恋人、初恋、恋人と逢う、愛、遠距離恋愛、失恋、片思い、嫉妬、キス、性行為、性欲、結婚、夫婦、友情……と、多彩なテーマに分けられている。
特に気に入ったのはこれ。
好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ(坂口安吾)
兎のように長い耳を持つ耳男と、美しくも残酷な夜長姫の物語なのだが、恋愛の本質を射抜いていると思う。同じ本質なら、私はこちらを推したい。
恋は戦!
恋人たちの間にも明確な力関係が存在する!
搾取する側とされる側
尽くす側と尽くされる側
勝者と敗者
好きなったほうが、負けなのである!!
(かぐや様は告らせたい 第1話)
嫁様に告白をしたのも私だし、プロポーズしたのも私だ。「男が女を好きになるほど、女は男を好きにならない」という至言の通り、連戦連敗、負け戦だらけの人生なのかもしれないと考えると、ちょっとは気が楽になる。
「心」の名フレーズ
幸福や悲しみ、怒り、笑い、希望など、「心」をテーマにした名フレーズも沢山ある。
この辺りは、編者と私の趣味がズレてて楽しい。生きることにおいて何を価値とするかについては、それぞれの人生経験によって選び取られる言葉が変わってくるから。
例えば、「復讐」をテーマにしたフレーズとしては、スペインの有名なことわざを持ってくる。
優雅な生活が最高の復讐である
17世紀のイギリスの詩人ジョージ・ハーバートの言葉で、他者からの悪意や敵意に対し、怒りや報復で応じるのではなく、相手への執着を断ち、自分の人生を豊かで満足の行くものにすることこそが、最も効果的な「復讐」になる……という考えだ。
憎くてキライな奴のことを考える時間こそが、無駄で害悪だという考え方は分かる。だが私は、ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)のこれを推したい。
復讐をしてもしなくても
大切な人は帰ってこないので
復讐した方がスッキリするんじゃないかな
ジョンウィック/キアヌ・リーヴス
名フレーズの元祖
意図してなのか偶然か、私が知ってる名フレーズの元祖(元ネタ?)に出会えて嬉しいものもあった。「生きているだけで丸儲け」もそうだが、人生の真理は共通的なので、経験を積むほどこの真理に近づくからこそ、名言は近似するのかもしれぬ。
例えば、清少納言のこれ。
説経の講師は、顔よき。講師の顔をつとまもらへたるこそ、その説くことのたふとさもおぼゆれ。
(講師は顔がいい男にかぎる。顔を夢中になって見ていられるおかげで、説く内容も尊く感じられる)
清少納言「枕草子」第三一段
出典元は忘れたけれど、キャバ嬢のマンガで、こんなやりとりがあった。
「なんであんなゲス男に?」
「クズみたいな男でも、顔がいいとなんか許せる」
金銭感覚ゼロとか、暴言を吐くとか、生活がだらしないとか、クズみたいな男はいる……んだけれど、ただ一つ「見た目が良い」というだけで、なんか許してしまう。それは許しちゃだめなんだけれど、分かる(ハロー効果の一種なのかもしれない)。
あるいは漱石のこれ。
前後を切断せよ、
妄りに過去に執着する勿れ、
徒らに将来に望を属する勿れ、
満身の力をこめて現在に働け
(夏目漱石)
ロンドンに留学していた漱石が、孤独や言語の壁、文化的な違いに心を病んでいた頃の手紙だという。この頃の異文化体験が彼の個人主義に影響を与えたとされている。
ん?
これ、私がtumblrで拾った釈迦の名言と近似してる。これだ。
“Do not dwell in the past,
do not dream of the future,
concentrate the mind on the present moment.”(過去に囚われるな
未来を夢見るな
今の、この瞬間に集中しろ)
漱石が釈迦のこの言葉を知って使ったのか、釈迦の言葉だという私の認識が間違っているか、あるいは単なる偶然かは分からないが、真理であることに変わりはない。あるいはエピクテトスの「過去と未来に囚われず、今だけに集中しろ」と言っているので、そこから持ってきたのかもしれぬ。
こんな感じで、芋づる式に名フレーズから名言、過去の刺さった言葉の棚卸ができる。いわゆる名言集の名言集だ。
| 固定リンク
« アメリカ文学の最高峰であるフォークナー『響きと怒り』を読んだので、可能な限り言語化してみる(脳汁は出た) | トップページ | 映画の意味を理解する『映画分析入門 Flim Analysis』 »
コメント
いまといふいまなるときはなかりけり まのときくればいのときはさる(今(いま)という時はない。「ま」と言う時にはすでに「い」の時は去っているから)
今この刹那を大切に生きていきたいですね
投稿: はおはお | 2024.12.30 12:16
>>はおはおさん
おっしゃる通りですn。"Carpe Diem"(今を生きよ)という言葉もあるくらいなので、どの時代・どの場所でも普遍的なものなのだと思います。
投稿: Dain | 2024.12.31 11:37