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徹夜小説「シャンタラム」

 鉄板で面白い小説はこれ。

 もしご存じないなら、おめでとう ! あらすじも紹介も無いまっさらな状態で、いきなり読み始めろ(命令形)。新潮文庫の裏表紙の"あらすじ"すら見るの厳禁な。あと、上中下巻すべて確保してから読み始めるべし。さもないと、深夜、続きが読みたいのに手元にないという禁断症状に苦しむことになるだろう。

 どれくらい面白いかというと、ケン・フォレット「大聖堂」中島らも「ガダラの豚」古川日出男「アラビアの夜の種族」級といえば分かるだろうか。要するに、「これより面白いのがあったら教えて欲しい」という傑作だ。寝食惜しんで憑かれたように読みふけり、時を忘れる夢中本(わたしは4回乗り過ごし、2度食事を忘れ、1晩完徹した)。巻措く能わぬ程度じゃなく、手に張り付いて離れない。とにかく先が気になって気になって仕方がない。完全に身を任せて、物語にダイブせよ。

 このエントリも含めて前知識は邪魔。読め、面白さは保証する。

 

 ここから完全蛇足。オーストラリアの重刑務所から脱獄して、ボンベイへ逃亡した男が主人公だ。すべて彼の回想モノローグで進行する。だからコイツが死ぬことはないだろうと予想しつつも、強烈なリンチシーンや麻薬漬けの場面にたじたじとなる。敵意と憎悪、恥辱と線虫にまみれ、痛めつけられ、翻弄されている彼が、憎しみと赦しのどちらを選ぶのか。

 赦すとは、自分自身の怒りや憎しみを手放すこと。これが基底となる。そして彼は幾度となく間違える。行動を過つこともあれば、まちがった理由で正しい選択をすることもある。これがもう一つのテーマ「人は正しい理由から、まちがったことをする」だ。この復讐と赦しの物語は、世界で一番面白い物語「モンテ・クリスト伯」と同じだ。手に汗握る彼(リン・シャンタラム)の運命は、そのままエドモン・ダンテスの苦悩につながる。

 あとを惹く面白さは、追いかけてくる過去にある。ボンベイの話に突然、さらに昔のオーストラリア時代の過去がフィードバックしてくる。それはナイフを用いたストリートファイトの鉄則だったり、ドラッグの溺れ方だったりする。回想口調に一般論が入ると、ストーリーは転調する。この物語に呑み込まれる感覚は、スティーヴン・キングを思い出す。

 エピソードの一つ一つが、細やかで鮮やかで生々しく、ゾクゾクするほど圧倒的な迫力をもつのは、著者の実体験に基づいているから。この小説を書くことそのものが、著者グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツの、過去を赦す行為なのだろう。

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コメント

大聖堂級!?
そんなこと言われたら
読みたくなるじゃないですかーーー。
絶賛積ん読中が増えているのに、、、
ほんとに罪なブログです(笑

投稿: ダイゴ | 2012.01.20 21:37

>>ダイゴさん

はい、まちがいなく面白い作品です。
明日の予定がない夜に、全巻そろえてお召し上がりください。

投稿: Dain | 2012.01.22 10:09

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