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劇薬小説『ジグソーマン』

 ひさしぶりの劇薬小説、しかもとびきり猟奇でゴアなやつ。

 グロかったりキツかったり、読んだことを後悔するような小説を、「劇薬小説」と呼んでいる。選りすぐりは[わたしが知らないエロ本は、きっとあなたが読んでいる]にあるが、精神衛生上、非常によろしくない。

 お手軽に涙してスッキリしたい人向けの感動ポルノは飽きた。そういうのは小便と一緒で、涙と一緒にコルチゾールを排泄すればいい。「こころがほっこりする」とか「さわやかな読後感」は要らない。むしろ「こころが引き裂かれる」とか「とまらない嘔吐感」が欲しい。そういう点で、『ジグゾーマン』は素晴らしい。

 交通事故で妻子を失い、人生に絶望して死のうとした男に、ある提案がなされる―――「右腕を200万ドルで売ってくれないか?」。再生医療の権威であり、指折りの大富豪でもある医師が求めているという。巨額の誘いに目がくらみ、研究所に連れて行かれるのだが……というイントロなのだが、惹句のとおり先読み不能・問答無用のホラーなり。

 これ、劇場で『バタリアン』観たときを思い出した。おぞましい嫌悪感と下品なバカバカしさに、ゲラゲラ笑うしかなかった。対処しきれない恐怖に直面して逃げ切れないと悟ると、人は笑うことで正気を保とうとするのかもしれぬ。本書もそうだ、比較的早い段階で、「なぜ右腕なのか」「真の目的」が明らかになるのだが、気分が悪くなること間違いない。一人称の主人公に、うっかりシンクロしていると、酸っぱいものがこみ上げてくる。目を逸らしつつ、ブラックな笑いでごまかして自分を守るべし。

 あるいは昔の近似作品を思い出して、気を紛らわすのもよし。くたばれ公序良俗とばかりに、しゃれにならん小説や映画を知ってるでしょ。たとえばこんな、絶望感。

 『獣儀式』友成純一
 『殺戮の野獣館』リチャード・レイモン
 『ネクロフィリア』ガブリエル・ヴィットコップ
 『ムカデ人間』トム・シックス(映画)

 さもなくば、「そのアイディアは知ってるぞ!」とばかりにネタ元を掘り返すのも一興。小学校の図書室で、この類の本(確か児童書だった)を読んだことがある。マンガでも見かけたし、そういや古典の大御所のオマージュでもあるな! と膝を叩いたり。あるシーンは『スター・ウォーズ』エピソード4を彷彿とさせるし(ただし、おぞましさ100倍)、またあるシーンはS.キングの景観荘(The Overlook Hotel)や「あの看護婦」から拝借しているよなぁと頷く。

 赤い絶望と黒い哄笑を堪能できる、けしてオススメできない一冊。

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