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物語るための技術と原則「キャラクター小説の作り方」

 キャラクター小説(スニーカー文庫のようなヤツ)の作り方を通じ、物語るための原理原則が明らかにされている。ラノベに限らず、マンガの原作、シナリオライティングに有用な一冊。基本中の基本である物語の原則とはこれ→「主人公は何かが"欠け"ていてそれを"回復"しようという"目的"を持っている」

 スゴ本オフ@松丸本舗でオススメされ一読、こりゃいい、マネさせてもらおう(nobuさんに感謝、「物語の体操」も読みます)。何が良いかというと、きわめて具体的なところ。文章術や小説の書き方というヤツは、謳い文句に反して看板倒れなものがある。「100枚書け」とか「必読本100」とか、ハードルが高い作者の特殊なやり方を紹介しているものがある。それに比べ本書は、カードとエンピツだけで実践できる。

 その一つの方法はこれ、「カード&プロット法」と名づけてみた。「場面」をカードに書き込むのだ。B6サイズ情報カードに、一つの場面(シーン)を振り分けて、物語全体の構成を形作る。

  • ワンシーンにつき一枚のカード
  • 400-800字ぐらいのプロット
  • 物語の時間軸に沿って通し番号を振る
  • 書く内容は、通し番号、場所、時、登場人物、プロット、伏線、読者に伝えるべき情報
  • 最初は穴があってもいいので、最後のシーンまで書く

 そして、できあがったカードを以下の要領でチェックする。

  1. 同じ場所がくり返し現れていないか。くり返しが意図して効果を狙ったのでなければ、主人公たちがお芝居する場所に変化を持たせる(ストーリーの単調さが解決される)
  2. 長すぎるプロットは分割する、同じ内容を繰り返しているのでどちらかを減らす
  3. 伏線を受ける場面を用意しているか。ないなら新しく作る。そもそもその伏線はいらないか検討する
  4. 読者に伝えるべき情報がなにもない場面がないか、チェック。「伝えるべき情報」がそもそもそれでいいのか、疑ってかかる

 チェックを通じて、カードを増やしたり減らしたり、削ったり中身を書き換えたりする。ある程度進んだら、時間軸上の入れ替えをする。クライマックスを先頭にしたりすることで、物語を演出するのだ。自分のプロットを書く前に、著者は、お気に入りの小説をカード化することを提案している。「物語を破綻なく作る力」をレベルアップするというのだ。わたし自身、物語を書く予定はないが、この「小説のカード化」はやってみたい。プロの作家が、場面ごとにどのように作品を組み立てているかを解体しながら読むことができるから。

 では、どうやってプロットを出すか?本書は端的に「盗め」と言う。著作権法に触れるような盗作ではない。元ネタのキャラクターをいったん抽象化し、元ネタが属する世界観をとっぱらって、異なる外見や設定や時代背景を与えてやればいいというのだ。創作とは盗作であり、過去作・周辺作からいかに「パクる」かが重要なのだという主張は、マラルメの「すべての書(ふみ)は読まれたり」を思い出す(さもなくば、ボルヘス「疲れた男のユートピア」か)。わたしたちは、過去に触れた作品を通じ、現前の作品を理解する。通過した作品やそのときの感情を思い起こすような刺激を与える物語こそが、「面白い」と受け止められるんだ。

 このように、(書くつもりのない)わたしにも、思わず書きたくなる気を掻きたてるような手法や観方がわんさと紹介されている。その一方で、どうしても首を傾げたくなる主張もある。それは、日本の近代小説を二極化しているところ。

 自然主義の立場に立って「私」という存在を描写する「私小説」を一方の極に置いて、まんが的な非リアリズムによって描く「キャラクター小説」を反対側に据える。両者を検証しながら日本文学を批評するのは小気味がいいが、極端すぎやしないだろうか。なぜなら、社会派やSFといった舞台設定そのものがウリの小説が無視されているから。さらに、紀行や伝奇、時代モノなどの時空間の差異がテーマの小説が度外視されているのだ。

 もちろん、強引に「広義の私小説」(紀行、社会派)や「広義のキャラ小説」(SF、伝奇、時代)に持っていくことは可能だ。だが、同時に、社会現象や異文化といった持ち味が減殺されてしまう。小説とは、ヒトを描くだけでなく、歴史も、場所も、事象も表すことができると思っているわたしには、ちとモノ足りない。

 著者と意見の分かれるところもあるが、この人の論をもっと読みたい、この人のテクニックをもっと盗みたい気にさせてくれる。がめつく読んで、モノにするつもり。類書に、『マンガの創り方』というネームに特化したスゴ本がある[レビュー]。これは、どちらかというと、演出の技術に重点が置かれている。最初のプロットを創りだすためには、「キャラクター小説の作り方」を、できたプロットをいかに面白くするかは「マンガの創り方」になる。ストーリー演出については、バイブル級の一冊なり。

 エロティックでグロテスクな恋愛を書きたいときに、参考にしよう。

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