「シャドー81」はスゴ本
スリルとスケールたっぷりのスゴ本、この大傑作を紹介できてうれしいよ。
プロットは極めてシンプル。最新鋭の戦闘機が、ジャンボ旅客機をハイジャックする話だ、表紙がすべてを物語っている。犯人はジャンボ機の死角にぴったり入り込み、決して姿を見せない。姿なき犯人は、二百余名の人命と引き換えに、莫大な金塊を要求する。
シンプルであればあるほど、読者は気になるはずだ、「じゃぁ、どうやって?」ってね。完全武装の戦闘機なんて、どっから調達するんだ? 誰が乗るんだ? 身代金の受け渡し方法は? だいたい戦闘機ってそんなに長いこと飛んでられないから、逃げられっこないよ!
本書の面白さの半分は、この表紙を「完成」させるまでの極めて周到な計画にある。一見無関係のエピソードが巧妙に配置され、意外な人物がそれぞれの立場から「戦闘機によるハイジャック」の一点に収束していく布石はお見事としかいいようがない。
そして、もう半分は、表紙が「完成」された後、ハイジャッカーと旅客機のパイロット、航空管制官の緊張感あふれるやりとりだ。無線機越しの息詰まる会話から、奇妙な信頼関係が生まれてくるのも面白い。ハリウッドならCG処理してしまいそうなスペクタクルシーンも魅所だが、時代がアレなだけに映画化不能www
さらに、面白さを加速しているのは、先の見えない展開だ。伏線であることは分かっていたが、まさかそこへ効いてくるなんて…と何度も息を呑むに違いない。文字通りラストまで息をつけない(あまりにも○○な最後に、読み達者であればあるほど唸るかも)。
本書は30年前に読んだっきり。新潮文庫版は、永らく絶版状態だったようだ。それが今回、ハヤカワNVで復活して嬉しいことこの上ない(ちなみに同時に出ている「ゴーリキー・パーク」は骨太の極上)。400頁強、ゆっくり読めば徹夜小説になるが、思わず知らず夢中になること請け合う。
ただ、今回の再読にあたり、穴というか無謀というか無茶が目立った。もし○○ならどうするつもりだったんだろう…と何度ツッコミを入れたことか。計画段階での神経質なほどの緻密さと好対照をなす実行段階の大胆不敵さに、一種腹立たしさすら覚えながら読む。結末がわかっていても、やっぱりハラハラしてしまう。
本書と汗を握りしめ、秋の夜長にイッキ読み。未読の方こそ幸せもの、極上のミステリを、どうぞ。もちろん、明日の予定がない夜にね。
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コメント
ルシアン・ネイハムですか。これはまた懐かしい作品ですねえ。これ、新潮だったんですね。てっきり、文春だとばっかり。
私は20数年前、クライヴ・カッスラーの『タイタニックを引き揚げろ』やトマス・ブロックの『亜宇宙漂流』や『盗まれた空母』(後者はラジオドラマ、後者は映画になりました。ブロックは元民間航空会社のパイロットで、航空サスペンスのパイオニア。これが文春文庫で、『シャドー81』もずっと文春だと思い込んでいた次第)で冒険サスペンスにハマり、この『シャドー81』にもたどり着きました。
思えば当時(80年代前半)は、『大空港』にはじまる「エアポート・シリーズ」のヒットをはじめ、パニック系サスペンス映画が大流行した時期の余韻が色濃く残っておりました。
しかし本書を含め、こういう作品は、映画よりも文章で読むほうが何倍も楽しめるのではないでしょうか。「スゴ本」て、概ねそういうもんだと思うんですよね。
投稿: carl nielsen | 2008.10.09 06:40
>>carl nielsenさん
> 「シャドー81」
新潮文庫の青い表紙が、文春文庫の背表紙と重なったのかもしれませんね。
昔は、たいてい映画から入っていたような気が。
レイズ・ザ・タイタニック
→クライヴ・カッスラー「タイタニックを引き揚げろ」
ランボー
→デイヴィッド・マレル「一人だけの軍隊」
ジョーズ
→ピーター・ベンチリー「ジョーズ」
レッド・オクトーバーを追え
→トム・クランシー「レッド・オクトーバーを追え」
ジャッカルの日
→フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」
ピーター・ベンチリーを除いて、文章が映像を凌駕していましたね。
投稿: Dain | 2008.10.09 23:45