見てきたように描いてある「激闘 ローマ戦記」
「ローマ人の物語」は、ムラがある『小説』だが、さすがはプロの想像力、戦術と戦闘は見てきたように書いてある。同様に、本書は見てきたように描いてある。さらに史跡・遺跡の写真も盛りだくさんで、あわせてよむと効果絶大。
既に「ローマ人の物語ガイドブック」が出ているが、美術品と遺跡をめぐる観光ガイドに過ぎない。いっぽう本書は、戦史に特化したビジュアルブックとして使える。戦略・戦術・戦闘の全てにおいて、ローマ兵がどうやって戦ったのかが「見える化」されている。
前列にずらり並んだ象部隊を、スキピオがどうあしらったのか、ヤマアラシのような長槍のマケドニア兵とどうやって闘ったのか、塩野氏の文の冴えもあるが、絵を見たほうが早い。
また、「ローマ人」には史跡の現場での印象も述べられているが、不思議なことに「サイズ」の描写がない。本書を見れば一発で分かる。戦いの舞台がいかに広大なものであるか、写真を見たほうが早い。これから「ローマ人」を読む方は、ぜひ傍らに置いておきたい。既読の方は「ああ、あれがこれなのかッ」と何度も頷くだろう。
たとえば、ファランクス(マケドニア式の長槍密集方式)を、どうやって打ち破るかのプロセスが非常に興味深い。それこそハリネズミさながらの長槍が穂先をそろえて突っ込んできたら勝ち目がない。だから、ローマ兵は短槍を使って切り崩すわけなんだが… これは文で説明するよりは、Wikipediaのファランクスの画像[マケドニア式のファランクス]を見たほうがいい。まともにぶつかり合ったら文字通り串刺しになるのを、ローマ兵は投槍を使ってスキ間をつくり、さらに地面のうねりによる戦列の乱れを突く。お見事としかいいようのないプロセスは、本書の本書のp.51の図でハッキリと分かる。
次に興味深いのは、ガリア戦記の時代。カエサルvsヴェルチンゲトリクスの最終決戦の舞台、アレシア攻囲戦(BC52)が紹介されている。現在のアレシアの写真がスゴい。フランスのアリーズ・サント・レーヌを上空から撮影した写真だ。平野部に出現した台地の船のようだ。これを完全包囲したカエサルはスゴいというより、アホかといいたいぐらいの、巨大な台地なり。このデカさは、文や略図で見ても分からん。写真だと一発で見える。
いちばん驚いたのが、ユダヤvsローマの決戦地、マサダの要塞(AD73)。「難攻不落」と形容されているが、写真を見ればすぐ分かる、「これはムリ」だと。茫茫たる岩砂漠に、ニョキッと戦艦大和の艦橋が突き出ているような場所が聖地。これを攻略するためにローマ兵が作った土手がまたスゴい。ローマ兵はつるはしで戦う。当時の工兵技術の粋が「見える」。2000年前の激戦をヘリコプターで上空から見ているようだ。
塩野氏よりも「したり顔」になれる一冊。
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コメント
英国オスプレイ社から出ている、メンアットアームズシリーズも一緒に読んでみると面白いですね。当時の再現イラストと歴史の分かり易い解説がついてくるので、イメージを膨らませるのにオススメです。本家では200巻くらいまでありますが和訳は20巻程で打ち切られてしまったので、英語に自信があるならamazon.comでとりよせてみるのもいいかもしれません。
こういった歴史ビジュアル百科的な本は、例えばベルガリアード物語を読む上で、マンドラレンが着ているサーコートってどんなものだろうとか疑問が解けますし、騎士同士の決闘シーンがより明確に把握できたりと、戦争物や洋風ファンタジーを読む際に、語句の意味や生活の様子をイメージする助けになるので、読む時の楽しみが増えるのが良いですね。
投稿: jackal | 2007.11.16 20:19
>> jackal さん
「メンアットアームズ」すげぇぇぇぇぇッ!
スゴいですね、手にする前からトリハダ立ちました。
ありがとうございます。
図書館に30巻ほどおいてあるようなので、
そこから取り掛かります。
投稿: Dain | 2007.11.17 07:46