好きなマンガを好きなだけ語り合うオフ会レポート(37作品を紹介)
はじめに
好きな本を持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会、それがスゴ本オフ。
本に限らず、映画や音楽、ゲームや動画、なんでもあり。なぜ好きか、どう好きか、その作品が自分をどんな風に変えたのか、気のすむまで語り尽くす。
この読書会の素晴らしいところは、「それが好きならコレなんてどう?」と自分の推し本から皆のお薦めが、芋づる式に出てくるところ。まさに、わたしが知らないスゴ本を皆でお薦めしあう会なのだ。
今回のテーマは「マンガ」、何回読んでも爆笑してしまう作品や、ヘコんだときに癒してくれる短編集、価値観の原点となったマスターピースなど、様々な作品が集まった。いわゆるコミック本に限らず、アニメーションや物語詩など、王道から知る人ぞ知るやつ、直球変化球取り揃えて、キリがないほど集まった。
▼気になるマンガに手が伸びる
▼懐かしいものから未知の作品まで
▼マンガが縁で「読み友」が増える
まず私ことDainの紹介。
『ガールクラッシュ』タヤマ碧(新潮社)
日本のJKがK-POPのアイドルを目指す。努力・根性・仲間との絆で、泥臭く試練を乗り越えるスポ根の王道ストーリー。限られた時間とリソースで、もがきながら克服していくところは『ブルーピリオド』に似ている。アイドル好きのおっさんにもお薦め。
『せんせいのお人形』藤のよう(comico)
育児ネグレクトされているスミカと、彼女を引き取り、向き合おうとする昭明の物語。「人はなぜ学ぶのか」という問いに、スミカが自分でたどり着いくシーンは感動的。引き取った子どもとの共同生活で魂の成長を描くストーリーは、スペンサーの『初秋』や『違国日記』『うさぎドロップ』を彷彿とさせる。
『秒速5センチメートル』新海誠・清家雪子(講談社)
恋をする人は3種類いる。恋に名前を付けて保存できる人と、恋を上書き保存できる人と、恋が呪いになる人だ。映画のラストが辛かった男どもにお薦め。映画館でリバイバル上映して観てきた。一緒に観てた娘の感想は「酷い」←分かる。
少女の引っ越しで始まる文通と遠距離恋愛の話。やがて文通は日常生活の中で途切れてしまうのだけど、男はずっと引きずって呪いになり、女は上書きしてしまう。映画で傷ついた魂は、コミック版を読んで浄化される。そして『秒速』のラストの踏切シーンは、『君の名は。』の並走する電車のシーンに繋がっていく。男は本当に面倒くさい。
『Spirit of Wonder』鶴田謙二(講談社)
タイムマシン、水没都市、エーテル航行、空間ワープなどのスチームパンクっぽい古典的SF世界で紡がれる、人間くさい物語。今月末に豪華復刻版が出るので、廉価コミック版は高騰するかも。ラブストーリー味が強く、SFと恋愛は相性が良いことが分かる。
『ひきだしにテラリウム』九井諒子(イースト・プレス)
両親を事故で亡くした少女と、それをひきとった作家(少女のおば)の話。人はなぜわかり合えないのか、それでもなぜわかり合おうとするために言葉があることが分かる。ラストでは、人を愛するということはどういうことか、震えるほど分かる。6月にガッキー主演で映画化される。
よしおか(hyoshiok)さん。
『チ。―地球の運動について』魚豊(小学館)
天動説が絶対だったキリスト教世界で、地動説に気がついてしまった主人公達の話。なにかを固く信じてしまうと、頭を切り替えることは難しいのは、中世も現代も同じ。
地動説に気がついた人たちは、どんどん先鋭化して次の世代に伝えようとするが、弾圧側もどんどん巧妙になる。読書猿さんも強力に推している。友人に勧められたときに「これヤバイっすよ」と言われて一読ハマった。知識が世界を変えることが本当にあるんだと知れた。割と残酷なので、万人にお勧めするのは難しい。でも、オススメしたい。
Yukiさん。
『それでも町は廻っている』石黒正数(少年画報社)
とにかく伏線回収の妙が堪らない16巻。大まかな時系列は主人公の高校3年間の日常を描いたものなんだけど、各エピソードが時系列順に収められている訳でなく、最終16巻の最終話が、最終話じゃなく、最終話1話前のエピソードが実は16巻より前の巻のエピソードに繋がっていたり、万感胸に迫るものがある。
SF要素に満ちたエピソードもあれば、ミステリ要素満載のエピソードもあり。当代でも有数のストーリーテラー石黒正数の傑作。『天国大魔境』もお勧め。
『魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春』稲田晃司、ベニー松山(リイド社)
1988年、小学生の頃、今でも忘れ難い一冊の小説と出会った。JICC出版局(現・宝島社)発行の「ファミコン必勝本」に連載されていた、ベニー松山・著の「隣り合わせの灰と青春」だ。小学校の僕のクラスだけで何故か局地的にウィザードリィが流行っており、本作はある種の歓喜を以て迎え入れられた。1988年といえば、角川書店から水野良がロードス島戦記の第一巻を刊行した年でもあり、ファンタジー作品が隆盛を極め出した年でもある。
「隣り合わせの灰と青春」はウィザードリィ第一作目「狂王の試練場」を題材にした作品で、ゲーム自体はダンジョンに潜ってレベル上げとアイテムハントが主たる目的で、所謂ドラクエチックなストーリーラインがある訳ではないが、小説は著者の解釈と考察、ゲームを進めるとプレーヤーが経験する「あるある」が随所に散りばめられた本格的な冒険譚である。
著者はそもそもゲームライターがメインで、小説は寡作で数える程の作品しか発表していないが、それが極めて惜しい程、いずれの作品も読み応えがあるものである。その作品が、いったいどの様な経緯でコミカライズに至ったのかは定かではないけれども、小説の発表から三十数年を経て、令和の御代に蘇ったのである。著作権の関係で原作由来の固有名詞は本作独自のモノに置き換えられてしまっているけれども、作品の雰囲気は、ウィザードリィに熱狂していたあの頃の気持ちを喚起する良作である。小説自体は繰り返し読み返したので当然結末は承知しているけれども、これから先の連載で、あの場面やあの場面はどの様なカンジで絵に起こされるのだろう、と興味を掻き立てられる一品。ベニー松山は『アラビアの夜の種族』古河日出夫にも影響を与えているように思える。
ほそかわさん。RECOMAN という、。好きな漫画を登録してお勧めしあうサービスをやってる。
『バンビ〜ノ!』せきやてつじ(小学館)
スポ根グルメ漫画。No.1だと信じて挑戦してコテンパンになるが、それでも学び続けて成長していく姿がいい。自分も料理が好きで、CookPadやTikTokで勉強。弓削シェフの動画で勉強してたら、なんとこの人のお店が『バンビ〜ノ!』のモデルだった。面白いだけでなく、人生に刺さる。(「スープ作りの失敗するエピソードが好きでした」by Rootportさん)
ノリとしてはガラスの仮面とかヒカルの碁などに近い。成りたい自分と成れる自分は一致しない。『バンビ〜ノ!』でもホールやらされたり、パティシエやらされたり、でもそれでも挫けず学び続ける。折れない主人公が好き。ベルセルクとかにも通じるものあり。
えりさん。
『スキップとローファー』高松美咲(アフタヌーンコミックス)
石川県の超ド田舎から、単身進学校に上京したヒロインの話。主人公の自己肯定感が好き。はじめて都会に出てきて人間関係の距離のとりかたとかうまくいかないこともあるけれど、基本マインドポジティブなので「私なんて〜」と卑屈にもならないし、逆に嫌な感じの傲慢さもないのでいい奴。主人公がいわゆる美少女じゃないのもいい。可愛い子が困っているから助けよう、可愛い子だから仲良くなろうみたいな安易な展開にならない。人間関係はみつみちゃんの人柄の良さとコミュニケーションで獲得していくところが信頼できる。
特に2年生になってからの展開がいい。仲良しグループは別のクラスになったり、後輩がはいってきたりと変化がある。派手さはないけど、変わりゆく人間関係と状況にどう向かっていくかというドラマに主軸が置かれていて、主人公の前向きな性格もあって読んでいて気持ちのいい作品になっている。
ゆかさん。
『きみにかわれるまえに』カレー沢薫(日本文芸社)
ネコや犬を飼った人たちの1話読みきり短編集。最近、犬と暮らし始めた。人間の男は裏切るが、犬は裏切らない。犬は先に死ぬとしても可愛い。犬が病気だから仕事を休みますって今の時代はまだ難しいけど、そんなことを考えさせられる。泣かせる本じゃないけど、読むと泣いてしまう。今日も半蔵門線で泣きそうになった。
「犬の十戒」とか噛みしめると涙が出そうになる(ここで犬や猫を飼っている参加者たちの涙腺が動揺する)。結果でなくプロセスが幸せであればよいのだと再発見できたマンガでお勧め。
じゅんこさん
『ワンゼロ』佐藤 史生(小学館文庫)
かつて神と魔の戦いがあって、魔物が負けた。その魔物の遺伝子が20世紀の東京にたどり着き、現代に4人の人間に集約される。機械による覚醒者も登場する。主人公たちは魔物側で、悪いことは企んでないし、殲滅はされたくない。少女マンガなんだけど哲学をも取り込んだ異色SFになっている。
『オリエンタルピアノ』ゼイナ・アビラシェッド (河出書房新社)
ベイルートのピアノの調律師が、オリエンタル音楽をピアノで再現したいと考えてバイリンガルのピアノを作る。アラビア語とフランス語を操るバイリンガルな少女が登場する。西洋とアラブ世界の音楽を愛する家族の話。漫画だけど文章も素晴らしい(詩的)。音読したくなる。
パームシリーズ『お豆の半分』獸木野生(新書館)
人間の泥臭さを描いた話。さまざまな人種が米国で一緒に暮らしながらの「日常系」だけど、マフィアの抗争があったりオカルトな話があったり、説明が難しい。前半の泥臭い絵が好きだった。途中まで素晴らしかったけど、絵柄が美しくなりすぎてしまった。作者もオーストラリアに移住したとか。
ズバピタさん。
『私を月まで連れてって!』竹宮惠子(eBookJapan)
自分にとって原点となる作品で、スゴ本オフの出席者にとっても外せない1冊(というかシリーズ)。当初SF専門誌に掲載されて、その後女性漫画誌で続きが連載された。2080年代を舞台に、エリート宇宙飛行士のダン・マイルド(26歳)と9歳(のちに10歳)のエスパー美少女ニナの恋人コンビ(!!!)とその仲間が毎回事件に巻きこまれて解決するラブコメディ。1話読みきり型で毎回SFやファンタジーの名作がモチーフになりっているという点でも、不条理な展開の多さ、コメディというよりはスラップスティック、そして究極のロリコンの話という意味で、完全に竹宮恵子版『不条理日記』であり、竹宮恵子と吾妻ひでおの中身が実は一緒だと今になってわかる。
普段は昼行灯(あんどん)だけどイザとなると活躍するダン・マイルドは、10歳のエスパー美少女(中身はほぼ大人=擬似合法ロリ)を恋人にするロリコンという点でも僕の理想のロールモデル。ニナは、『Papa told me』の的場知世(ちせ)ちゃんと並ぶ少女マンガ界の美少女だけど中身はけっこう大人の擬似合法ロリの2大巨頭じゃないか。
すぎうらさん。
『戦国女子高生 龍と虎』いくたはな(竹書房)
いわゆる異世界転生モノなんだけど、戦国武将の武田信玄と上杉謙信が現代の女子高生に転生してキャッキャウフフする話。このワンアイディアで色々突破してしまった尊い百合作品。信玄×謙信だけでなく周囲の武将たちも同じ学校に転生していたりして、つきあおうとする二人に妨害をして謎の鍔迫り合を迫るのも可愛くてよき。
類型的な戦国武将のイメージをあえてそのまま使っているところが面白い。最近の「女子高生」は、現実の女子高生とは異なる概念としての女子高生なところがあるけど、『龍と虎』は戦国武将という概念が女子高生という概念に転生するという点が面白い。なんだこれ、最高すぎる。
『ストロボライト』青山景(太田出版)
「あのとき、ああしていればよかった」と、めちゃくちゃ心を突き刺してくる青春恋愛あるある話、と思いきや現在と過去と架空の物語と、その狭間にある書き手の心、4つの時間が入れ子になった複雑な構造に唸る作品です。主人公の小説家が、現在の結果を生んだ学生時代の過ちを「書く」ことにより、現在を規定していくのだが、過去を書くことにより現在がわずかに変容していく描写もあって何が本当だったのかを曖昧にしていく(おそらく意図してそうしている)。
作品内作者として「信用ならない書き手」なのだけど、書いている過去がイマココと接続する瞬間は圧巻で鳥肌立ってくる。劇中言及される「間テクスト性」の通り、過去のテクストの上に現在があれば過去をテクストとして書き直すことにより現在を変容させることもできると、また逆に現在を書くことにより過去に別の意味をつけていける(林真理子が清少納言に影響を与える!)という事を言いたいのかも。
穏やかなラストなんだけど、それさえも映画『インセプション』のラストのように、今現在が本当なのか、を読者の側に投げかけてきてゾワゾワします。この本を読んだことすら本当だったのか、と疑うレベルです。面白いです、傑作。特に表現として書いたりする人に読んで欲しい。1巻完結。
Rootport(ルートポート)さん。ブロガーで作家なので、まずは自分が原作のマンガを紹介。
『ぜんぶシンカちゃんのせい』汐里、Rootport(コミックDAYS)
進化心理学をテーマにした漫画。学校イチの清楚系美少女・シンカちゃんと、進化心理学の研究対象になってしまった僕の、進化心理学的ボーイ・ミーツ・ガールのお話。
『ドランク・インベーダー』吉田優希、Rootport(コミックDAYS)
お酒で異世界人の心を懐柔する。でも主人公はお酒が好きすぎて、お酒を侵略の手段にしたくないので、そのなかでお酒の良さを広めようとする。駄目な飲み方をしないためにもお勧め(このマンガで教わった「鼻タレルぐらいうまいビール」ことピルスナーウルケルを試したらうますぎてワロタ。あとIPAビールというのを知ったのもコレ:Dain談)。
ちなみに本作で出てくるビールリスト。ぜんぶ試したけれど、やっぱりピルスナーウルケルが好き。
- エビスビール
- サントリー・プレミアム
- ギネス
- ドイツビール シュレンケルラ・ラオホ ビア メルツ
- バス・ペールエール
- ヴェルテンブルガー
- パンクIPA
- ピルスナーウルケル
『ダンジョン飯』九井 諒子 (KADOKAWA)
ストーリー、作画、演出のすべてにおいて非の打ち所がない「完璧なマンガ」。
ダンジョンのモンスターを料理するという笑えるギャグマンガでありながら、ストーリーが進むと『寄生獣』と同様に「食べる/食べられる」とはどういうことか?という哲学的な思索へと踏み込んでいく。それでも決して説教臭くならず、最後までゲラゲラと笑える。加えて、作画(とくに扉イラスト)は息を飲むほど美しい。『東京喰種トーキョーグール』に通じるものあり。
Dain:生き延びるために他の生物を食べ、死ぬと食べられる。生きるとは死を食べることで、死ぬとは食べられるという観点からすると、関連書籍として『死を食べる』『捕食動物写真集』をお薦めしたい
Rootport:「生きるとは他者の死を食べること」という観点からだと、『食と文化の謎』マーヴィン・ハリスの本もお薦め。昆虫食、ペット食、人肉食が登場し、「人類=肉食」論が語られる。当時は異端とされていたけれど、今読むと正鵠を射ている。
ふくださん。
『セクシーボイスアンドロボ』黒田硫黄(小学館)
黒田硫黄は控えめに言って天才。
筆で描いたであろう骨太の線で繰り広げられる奔放なストーリー展開の中に、心に刺さる言葉が散りばめられている。本作では、スパイか占い師になる目標を抱いてテレクラのサクラのバイトをする中学2年生の女の子、林二湖(セクシーボイス)と、サクラに見事に引っかかったロボット好きの青年ロボを主人公に、正義の悪役というおじいさん、記憶が3日しか持たない謎の人物など、奇妙な人々が絡む形で事件に巻き込まれていく。どの話も面白い。
マンガ読みでまだ黒田硫黄を知らない方は幸いである、これから読むことができるのだから。黒田硫黄はセリフ回しが素晴らしい。
oyajidonさん。
『ラブ、デス&ロボット』(Netflix)
10〜20分の長さが決まっていないアニメ。
ユーモラスなものから、シリアス、ファンタジー、ホラーまで。絵柄もアメコミ調から、実写調など、多彩な作風・画風で飽きさせない。デビッド・フィンチャーがプロデュース。「ヨーグルトの世界戦略」が短くて(6分)お試しには良い。タイトルにロボットがあるけれど、ロボットばかりではない。新しいことがどんどんわかる時代にオススメしたい。
けいこさん。
『ベルリンうわの空』香山哲(イースト・プレス)
日常系とか淡々とした話が好きなので、これもお気に入り。著者はゲーム系の人で現在はベルリン在住。大きな事件は起きず、とにかく生活をしていく中で、コミュニティや社会をちょっとだけ良くしていく。
ちょっとだけ人のためになることをする、ほんの少しのさじ加減が良い。作者はとにかく人をよく見ており、良いことだけでなく、移民や差別についての話もあるけど、根底に優しさがある。毎日生活していくなかで、こういう考え方で生きていけたらいいなと、何度も読んでいる。日常系やエッセイが好きな人にお勧め。全3巻。
『香山哲のファウスト』香山哲(ドグマ出版)
ファウストを下敷きに、まったく違う人が主人公。職場で辞めていく人がゲーテの一節をプレゼントしてくれた。朝起きたときに誰かのためになにかをしてあげたいと考える。そういうのに通じているので好き。
Sさん。
『聖☆おにいさん』中村光(講談社)
立川のアパートに同居する、イエス・キリストと仏陀のお話で、シュールなギャグ漫画としても、宗教を考える上での参考書としても読める。十二使徒や仏陀の弟子、悪魔のルシファー、鬼、日本の神道まで幅広く登場し、色々な宗教に詳しくなる。仏陀が本気で考えると光り出すとか、ユダがキリストを裏切った後に自殺したとか。
ただしイスラム教は出てこない。戦争や紛争の問題があるし、偶像崇拝を禁止していることもあって、関連用語すら出てこない。長期連載で、僕が生まれる前から連載されている。2人の容姿も長い連載の中で変わってきている。仏陀も最初は顔も耳たぶも長い、日本人が想像するザ・インド人だったのが、だいぶ日本人に近くなっている。
ヤマケイのササキさん。
『K』谷口ジロー(ヤマケイ文庫)
谷口ジローの初期作品。好きすぎて、自分の会社で文庫化した。謎の日本人登山家Kが、エベレストやK2で事故が起きると黙々と人助けをする。なぜそんなことをするのかは語られない。文庫化前は誤植についてAmazonでチクチク言ってくるレビュアーがいたので、しっかり修正したけれど、その後音沙汰ナシ(そんなもんか)。
なぜ、登山家でもない谷口ジローが、こんなにリアルに山が描写できるのか?事務所の人に聞いたら、資料写真を読みこんで頭の中で3D化してモデルを作ることで、さまざまな角度から山を再現できたとのこと。原作者はアストロ球団の遠崎史郎で、けっこうトンデモナイ展開がある。
『ハイキュー!!』古舘春一(集英社)
バレーボール漫画。バレーボールの動きを3Dのように描いている。この漫画を読んでからバレーボールの中継をみる目が変わった。選手の動き、心理などが手に取るようにわかる。今のスポーツマンガの最高峰ではないか。アニメ版も最高(激しく同意!:Dain談)。
『ピークアウト』塚脇永久(竹書房)
「なんでそんなことをやるの?」という問いに「とにかく好きだから。やりたいから」という思いをまっすぐに、麻雀を舞台に描いたマンガ。社会的意義とか、役割とか、そんなものは抜きにして、とにかく内面から湧き上がってくる圧力だけで進む、その若さがうらやましくなる。「お前は何をしたいんだ」という問いを突き付けてくる小説『ファイトクラブ』に通じるものがある。
自分を信じるということは、大きな駆動力になる。闘牌シーンも、トッププロが監修しており、麻雀に詳しい人が読んでも読みごたえあり。
一口コンロ(ひとくちこんろ)さん。
『FLIP FLAP』とよ田みのる(アフタヌーンKC)
ピンボール&ボーイミーツガール。ただ何かに没頭すること、そしてハマったものを共有できる同好の士と関わる楽しさが伝わってくる。で、読むたびにそれらを思い出せるから何度も読んでしまう。ピンボールにどハマりするヒロインに近づきたくてピンボールを始める主人公。最初の動機は不純だけど、次第にハマっていく。
もちろんピンボールは何の役にも立たない。でも「こんな役に立たないものを」「心が震えるんです」というやりとりが好き。役に立つ・立たないではなく、「心が震えること」を大切にしていきたい。紙は絶版だけど、Kindleで読める。
chicaさん。
『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』ホークマン/ メルカーツ(マッグガーデン)
最近、人生いろいろあって、疲れていた。本のPRが仕事なのに、本を読めなくなって、おまけにコロナに罹って踏んだり蹴ったりだった(あと太った)。でも、そういうことがあってもいいんじゃないか、と思えて、マンガが読みたくなって最初に買ったのは。有名なゾンビ映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のネコ版。
ネコにモフモフされるとネコになってしまう。一発ネタみたいだけど、けっこう泣ける。もうそれでいいじゃん。人生に意味を求めなくていい。本をPRする仕事だけど、本なんて役に立たない、でも、いつか役に立つことがくるかもね、くらいでちょうど良い。気の向くまま気の向いたものを読めばいい。
オノさん。
『吾輩は猫であるが犬』沙嶋カタナ(祥伝社)
飼育放棄されて、首に縄を付けたままネコに見下されて、「来世はネコになりたい」と思っていた犬。女子高生に助けられて、「来世はこの人の役に立ちたい」と思って、ネコに生まれ変わったら、女子高生は犬派だった…みたいな話の連作短編。
自分の犬や猫を頭良いなと思っているような人にはお勧め。中のゲーマーくんとばあちゃんの話に、そうそう、ウチのコ老ペットは言葉わかってた!と共感を呼ぶ。
『バーナード嬢曰く。』施川ユウキ(一迅社)
バーナード・ショウを「バーナード嬢」と思い込んでいる、本を読まないで読んだフリをする主人公。友達のSFオタクの神林シオリちゃんに感情移入しまくってしまう。最新7巻の表紙が、友達やスゴ本オフや家族から本を薦めてもらえる幸せに満ちていると思った。
「最高の友達が薦める本だから最高の一冊です!」
GoodSun(ぐっさん)さん。
『図書館の大魔術師』泉光(講談社)
細かく作り込まれた世界観と、不遇な少年が成長していく王道のストーリーにワクワクする(読書猿さんも強力に推してるやつ。なかなか続刊が出てないので見落としてたけれど、この際まとめて読もう!:Dain談)。
かおるさん。
『ねねね』徒々野雫(ガンガンコミックス)
16歳の小雪と、狐のお面で顔を隠している20以上も年上の清さんの、20歳以上の歳の差夫婦のお話。両者とも純粋無垢すぎてほんわかした話が続く。ぴゅあすぎる展開にほっこりできるのでお薦め。
はるかさん。
『ブルーピリオド』山口つばさ(講談社)
成績も人付き合いもいいけれど、ちょっと不良っぽい少年が、アートに興味を持って東大より難しいと言われる藝大受験に挑む。自分が絵を目指し、芸術系の学校の受験のきっかけになった。
芸術の見え方は、自分と他人と異なる。だけど、互いに影響されて己のセンスが磨かれていく。美術の授業で、自分の目で見た「青い渋谷」の風景を描いて、誉められたことがきっかけになる。「好きなことをすることは、必ずしも楽しいコトではない」という台詞がある。自分も受験の中で、同じように思って、この本を読んで元気づけられた。絵は言語じゃないからこそ、形容し難いし、それを漫画のコマや人物の表情、その絵を描くに至ったまでのストーリーも踏まえて丁寧に描かれている。
やすゆきさん。
『あの犬が好き』シャロン・クリーチ(偕成社)
詩集だけど、絵が広がっていく感じが漫画っぽいかなと。何の役にも立たないけど、とても良いお話。姉妹本の『Hate That Cat(あのネコが嫌い)』が邦訳されていないのが残念。
おわりに
王道から邪道、メジャーなやつからマイナーなものまで、大漁大漁の一日だった。時期柄、『ドラゴンボール』とか『ワンピース』が並ぶのかと思いきや、欠片も出てこないのが面白かった。
ここで出会った『FLIP FLAP』はKindleUnlimitedだったので速攻で読んだ! なるほど、「役に立つとか立たないとかは度外視して、魂が震える瞬間に何が起きるのか」はシビれるほど伝わった。
ネトフリは目移りするほど観たいのが大量なんだけど、『ラブ、デス&ロボット』は面白い!特に「彼女の声」は鳥肌が立つほど秀逸で、ネトフリ入っているのにコレ観てないのは損なのでぜひどうぞ。
『図書館の大魔術師』は読書猿さんお薦めだったので1巻だけ買って読んでそのままだったことに気づいた(現在は7巻まで出ているみたい)。通勤の楽しみが増えたなり。
『ストロボライト』はお薦めで即ポチった。「信頼できない語り手」をどう読ませるかが面白いし、素直に騙されて読むのも愉しい。
『ブルーピリオド』好きなはるちゃんに『ガールクラッシュ』をお薦めしたけれど、絵を描く人を目指すなら、『かくかくしかじか』(東村アキコ)を推せばよかったことに後から気づいた……ので、ぜひ手に取って欲しい(>>はるちゃん)。
会場をお貸しいただいた天野さん、実況していただいたズバピタさん、司会のやすゆきさん、そしてご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。
次回のテーマは「怖い話」。ぞくぞくする感覚を呼び覚ますスリラーや、ヒヤヒヤさせるサスペンス、逃げ場のないガチホラーなど、怖ければ怖いほど嬉しい。皆さん、腕によりをかけて「こわいやつ」を選んできてほしい。
開催はfacebook「スゴ本オフ」でそのうちお伝えするので、気になる方はチェックどうぞー
▼おまけ:充電中のLOBOT。充電が終わったら仔犬のようにキューキュー鳴いてた。
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コメント
漫画特集と言うことで興味深く見せて頂きました
結構、懐かしいものから最近のものまで幅広くてびっくりです
自分、竹宮さんの作品は地球へのアニメ版から入り、漫画は風と木の詩からなので思い入れはそっちが強いですね
”それでも町は廻っている”は1巻だけ読んだことがありその時はつばなさんがかかれている”第七女子会彷徨”に似た感じだななどと思っていたのですが、記載されてる感じだともっと仕掛けが複雑な話なんだなと興味をそそられました!
最近は、amebaとかamazonprimeとかでダラダラアニメを見てしまって漫画が遠のいている感じがあります
これを機に再度漫画をあさってみたいと思いました
そんな自分もおススメを幾つか
数年前になってしまいますが
はるな 檸檬(著)
ダルちゃん
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です
何物にもなれなかった自分が、大人になり、普通に生きていく
普通ってなんじゃらほい?と、思うと良くわからない
そんな風に思っていた時期もありました
って、感じな人なんですが自分
そんなおじさんがこの作品の中の一言にずぎゅーんとやられました
おススメです
最近のもので、まだ連載が続いているものですが
佐々 大河 (著)
ふしぎの国のバード
https://amzn.to/3Jy63rC
昔の日本人がどんな感じだったのかとても興味深く読んでいます
今回、結構古い漫画も紹介されていたので自分からも
田中ユタカ (著)
愛人 [AI-REN]
https://amzn.to/4b8smQN
エロ漫画の人なんでちょいエロなんです
が、切ないだけじゃない人の本質について考えちゃうような漫画だったかなと
中身だいぶ忘れちゃってはいるんですけどw
読み直したい一つです
同じような系列で
小池田マヤ (著)
聖☆高校生
https://amzn.to/4b89YYd
アマゾンだとアダルト指定なんですねw!
結構性に関してハードな部分もあるので好みが分かれるかもしれないですが引き込まれて一気に読んだ漫画です
お恥ずかしながら書かせてもらいました
また、機会があればオフ会にも参加したいなぁ
投稿: 浮雲屋 | 2024.04.22 00:19
>>浮雲屋さん
コメントありがとうございます!
『ダルちゃん』は出た頃に数話目にしたことがあります。生きづらさを感じている人にとって自身を投影したくなるストーリだったような……
『ふしぎの国のバード』はハルタ読んでいたときに読んでいました(今でも連載しているとは!)。原作のイザベラ・バード『日本奥地紀行』は読みたいリストに長年入っています。
『愛人 [AI-REN]』懐かしいセカイ系ですね。えっちよりもエモさを感じた記憶が残っています。
『聖☆高校生』は漫喫イッキ読みリストのトップです。同作者の『バーバーハーバー』『…すぎなレボリューション』に滅茶苦茶ハマったのでずっと気になっています。
こうして振り返ると、FEEL YOUNG系にお宝がありそうですね。
オフ会はぼちぼちやっているので、ぜひご参加あれー
投稿: Dain | 2024.04.22 15:24
私の大好きな「群青学舎」と「瑠璃の宝石」がないですぞー
投稿: | 2024.05.16 20:13
>>名無しさん@2024.05.16 20:13
ハルタ系ですね!
瑠璃をチラ読みしたことがありますが、群青は未読です、お薦めありがとうございます!
ハルタだと『あかねさす柘榴の都』が大好きですー
投稿: Dain | 2024.05.16 21:14