「幼年期の終わり」で泣いた週末
3回びっくりして、1回泣いた。SFで泣いちゃうなんてめずらしーなー、"アルジャーノン"以来だろうか…
しかも、「アルジャーノンに花束を」にある哀愁だの同情といった誰かとシンクロした感情ではない。そういった感傷を超越して、自分ではどうしようもない、取り返しのつかないものを眺めている―― そんな気分を味わう週末。
「ブラッド・ミュージック」すげぇ、と唸ってたら、誠天調書の中の人が、セカイ系SFの傑作「幼年期の終わり」→「ブラッド・ミュージック」の順に読めという[参照]。でもって、読んでわかった、多くの人がSFオールタイムベストに挙げる理由が。そして、本作の影響を受けた作品がたっぷりとあることも。
amazonレビューはこんなカンジ…
二十世紀後半、地球大国間の愚劣きわまる宇宙開発競争のさなか、突如として未知の大宇宙船団が地球に降下してきた。彼らは他の太陽系からきた超人で、地球人とは比較にならぬほどの高度の知能と能力を備えた全能者であった。彼らは地球を全面的に管理し、ここに理想社会が出現した。しかしこの全能者の真意は……? SF史上不朽の名作
スゴいSFなだけでなく、優れたミステリとしても楽しめる。読み進めながらも、「なんでそんな設定なの?」と立ち止まるときがある。―― 「全能者」の姿が、なぜ○○なのか? 、なぜ地球にやってきたのか? そして、"childhood's end"(幼年期の終わり)が意味するところは…? ―― 展開の先読みをしつつ、その乖離を愉しむというイジワルな読み方をしているが、これらの謎あかしの瞬間は、ホントにびっくりさせられた。
SFだから何でもアリと思いきや、「そうキたかー!!」とか「な・る・ほ・ど・ッ」と呻く。「2001年宇宙の旅」あるいは「2010」のデビット・ボウマンの台詞"Something Wonderful"がシンクロする――
「どういう義務かと定義するのはなかなか困難だが、いわば難産の手助けをする助産婦、とでも考えていただこうか。なにか、新しくてすばらしいものをこの世に送り出す手助けをしているわけだ」
上のくだりを読むとき、ボウマン船長の声でハッキリと聞こえた。同時に、
「世界はあいかわらず美しい。いつかお別れしなければならぬ世界だが、別に急ぐ必要もないのではないか?」
でグッとこみ上げてくるものがあり、ラストの「実況放送」でポロポロと涙がこぼれてくる。わたしは、悲しいのだろうか? それとも、喜ばしいのだろうか? 登場人物の心情にシンクロするのではなく、彼が見ている世界そのものと一体化して嗚咽する―― なるほどセカイ系SFの大傑作ナリ。
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コメント
セカイ系ねぇ。
投稿: 遠島島流し | 2007.04.02 14:15
『幼年期の終わり』は私もかなりショックを受けた本ですが……。セカイ系、なのでしょうか……。
投稿: K | 2007.04.02 19:54
>> 遠島島流し さん、 K さん
「セカイ系」── こいつの説明にシンジ君やハルヒ様を持ってくると違和感があるでしょうが、個人と世界の間に段階的に存在する社会やコミュニティを『すっとばして』、直接世界(ここでは宇宙、あるいは主上心"Overmind")の行く末に、個人がかかわってくるテーマが取り上げられているよ、といえば、理解の一助になりますかな。
具体例で申し上げますと、2点── 「"子供たち"の最初の一人であるジェフと、その親ジョージ」、もっと端的に行動したのが、ラストで『実況放送』をしたジャンが、それに相当するかと。
「ジャンが取った選択は、(そんな状況下なら誰でもするだろう)センチメンタリズムそのものだよ、そのセンチメンタリズムをセカイ系というなら、あらゆるセンチメンタリズム小説がセカイ系と称されてしまうよ」── そんな反論が待ち構えていそうですが、予めいっておくと、まさにその通りですね。ただ、そう言い切ると揶揄ってしまうので、そんな含みは持たせないまま、本文では使用しておりマス。
投稿: Dain | 2007.04.02 23:39
こんばんは。
セカイ系ですか。
では、マンガですが『愛人』(田中ユタカ)白泉社
http://www.amazon.co.jp/gp/product/459213351X/249-5050446-0058728?v=glance&n=465392&s=books
は、如何ですか?
セカイ系ではない、かも知れませんが。
投稿: 夜半杉 | 2007.04.11 01:35
田中ユタカはお世話になったクチですが、青年誌で描いてるんですか!?
出世されて何よりです。相変わらずトーンの足りない絵柄のようですね…一見したところ「愛人」、まんまセカイ系のように見えます。
投稿: Dain | 2007.04.12 00:55
おお!Dainさまの反応があった!
ありがとうございます。
うれしいですね。
さて、田中ユタカは、『愛人』をヤングアニマルで連載して、
現在は、『ミミア姫』という作品をアフタヌーンで連載中です。
平行して、ほぼ前の路線に近い『愛しのかな』というのも連載中。
私自身が、いわゆる世界系を全然読んでいないため、
ピンとこないんですが、『愛人』の2巻以降、
「カレルレン」や「キリト」が登場して以降、
すごい重たい感じになります。
5巻は、雑誌連載から2年以上も間を空けて、
結局ほとんど書き直したそうです。
投稿: 夜半杉 | 2007.04.14 00:49
すいません、長くなったので、
分割しました。
とにかく強烈でした。
「世界は人殺しの夢で出来ている」
私は、マンガはもう30年くらい読んできているはずですが、
こんなに泣けたことはなかったです。
私は2巻から、強烈に引き込まれました。
ぜひ、Dainさんの感想が読みたいなあ。
以上、長々とすいませんでした。
投稿: 夜半杉 | 2007.04.14 00:53
>> 夜半杉 さん
「アフタヌーン」にまで!そうとう出世しましたね。「愛しのかな」は某誌で読んだ記憶が。「愛人」はブックOFFでの出会いに期待しておきます。解説&オススメありがとうございました。
投稿: Dain | 2007.04.15 22:50
またまたご返事ありがとうございます。
「アフタヌーン」での連載は、まだまだ序盤のため、
どういう展開になるかは分かりません。
でも、きちんと連載し続けられれば、大丈夫でしょう。
ブックOFFですか・・・。
早く出会えるよう、祈っています。
マンガ喫茶という手もありますが・・・。
投稿: 夜半杉 | 2007.04.17 23:45