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2009年2月25日 (水)

全国紙の名が泣く日経新聞かんぽの宿「検証」記事

日本経済新聞が2月25付朝刊に「検証「かんぽの宿」問題」と題する特集記事を掲載した。昨年12月26日に日本郵政株式会社が「かんぽの宿」など79施設をオリックス不動産に一括売却することを発表した。年明けの1月6日に鳩山総務相が「出来レースではないか」と「待った」をかけた。ここから問題が表面化した。

日本郵政の西川善文社長は「公明正大な手続きに従って取り運んできている。疑いをもたれるようなことはまったくないと確信している」と発言した。ところが、実態が明らかになるにつれて不透明なプロセスが次々に表面化し、結局、日本郵政は一括譲渡を白紙撤回した。

公明正大なプロセスを経ており、オリックス不動産への一括譲渡が最善の経営判断であるのなら、日本郵政はすべての情報を開示して、総務相を説得すべきだった。いとも簡単に日本郵政が白紙撤回したことが、プロセスの不透明性を如実に物語っている。

中立公正の見地に立って見ても、「かんぽの宿」一括売却には重大な疑惑が存在している。巨大な疑獄事件に発展する余地さえ感じられる。

日経、朝日、産経の全国紙三紙は問題が表面化した際に、鳩山総務相を批判するスタンスを取った。「民営化された日本郵政の経営判断に政治が介入することは正しくない」との主張を社説等に掲載した。

しかし、その後、一括売却先決定プロセスに不透明な部分が多く存在することが明らかにされ、朝日は主張を大きく転換した。産経新聞は基本スタンスを転換していないものの、野中広務元自民党幹事長と鳩山邦夫総務相のテレビ番組での「郵政民営化批判」を紹介するなど、日本郵政批判の主張も紹介する変化を示した。

このなかで、ひたすら日本郵政-オリックスラインを擁護しているのが日本経済新聞である。日本経済新聞は現在の杉田亮毅会長が社長に就任して以降、新聞の論調を大きく転換した。鶴田卓彦氏が2003年3月まで社長を務めていたが、不祥事が表面化して杉田亮毅氏が後継社長に就任した。鶴田氏は2004年3月には相談役も退き、退社した。

杉田氏は小泉元首相と長期間親密な関係を維持しており、2003年以降、日本経済新聞は新聞をあげて小泉竹中路線を支持してきたと評価できる。私は2004年3月まで日経系列のテレビ東京で11年半、コメンテーターを務めたが、2003年以降は本紙が小泉竹中路線を全面支援する下で、さまざまな圧力を受けた。

日本経済新聞は2004年6月にプロ野球オリックスと近鉄の合併をスクープ、同年7月には三菱東京フィナンシャルグループとUFJグループの合併をスクープしたが、その情報源がどのようなものであったのかについても関心が寄せられる。

私は小泉元首相が首相に就任する1年半ほど前に、小泉元首相に1時間半ほどのレクチャーをしたことがあった。会合をセットしたのが杉田氏だった。詳細は拙著『知られざる真実-勾留地にて-』を参照いただきたいが、杉田氏も小泉元首相が首相に就任するために尽力した貢献者の一人である。その杉田氏は一貫して小泉元首相を支援し続けていると見られる。

小泉元首相と近い中川秀直氏は日経新聞記者出身である。日経新聞は小泉竹中政治、中川秀直氏を支援し続けて現在に至っていると考えられる。テレビ東京番組「週刊ニュース新書」でも中川氏はたびたびゲストとして招かれている。

この日本経済新聞が「かんぽの宿」疑惑で、日本郵政サイドの説明を執拗に繰り返している。

2月25日付記事「検証「かんぽの宿」問題」を検証してみる。

 主な論点は以下の点にある。

①「かんぽの宿」の赤字
②日本郵政の「かんぽの宿」評価額の妥当性
③「企画提案コンペ」のような透明でない売却先決定プロセス
④宮内義彦氏と郵政民営化、規制改革との関係
⑤「雇用維持」の売却条件

①の「赤字」について。
記事は、
「もともと収益を目的としていないこともあり、今でも年五十億円規模の赤字を抱える」、
「売却施設の七十施設のうち、黒字はわずか十一施設だ」、
「「かんぽの宿」事業は年五十億円規模の赤字で、早期に売却しなければ赤字の垂れ流しが続く。」
と記述する。正体不明の「赤字」を「動かせない真実」として扱い、読者にイメージを刷り込む。

しかし、問題の根源に、
「「かんぽの宿」は旧郵政省時代に簡易保険加入者の福祉増進のために造られた施設」であるとの事情が存在する。この記述は日経の記事中の表現だ。赤字を生み出すように料金が設定されてきたのだ。

「民間の経営判断」を活用すれば、①料金体系の見直し、②人員の合理化、③外部委託業者の見直し、などを全面的に実施できるはずだ。これらの経営努力を注いだ上での赤字かどうかが最大の問題である。この点についての記述が皆無である。

また、減価償却費が収支にどのように影響しているのかも不明だ。減損会計を実施して、償却負担が軽減された上での赤字なのかどうかによっても状況は変わってくる。

②の評価額について、
記事は2007年2月に一括売却された「かんぽの宿」などについて、売却価格が日本郵政公社の鑑定評価額を上回った事例があると強調するが、問題の本質をまったく捉え違えている。

いま問題にされているのは、「かんぽの宿」を「ホテル事業」と事実に相違して位置付け、経営努力を施していない「かんぽの宿」の営業収支をベースに不当に低い鑑定評価額を設定したことである。

「赤字」の問題も、「不動産鑑定評価」の問題も、国会で論議されている核心にまったく触れず、日本郵政が発表している「赤字」や「鑑定評価額」を「正当なもの」との大前提を置いて、「検証」などと主張しているのだ。まったく「検証」になっていない。

③「企画提案コンペ」のような売却先決定プロセスに対する批判に何も答えていない。国会論戦での保坂展人議員が明らかにした事実すら踏まえていないのではないか。あるいは「頬かむり」しているのかも知れぬ。

記事は、
「産業界におけるM&A(合併・買収)の手法では、よりよい売却条件を探るために、ある程度絞り込まれた応札者を対象に条件を見直すことも珍しくない。」
「今回の譲渡が単なる不動産売買でなく、従業員も含めた事業譲渡であることを念頭に置くことが重要だ。」
などと、疑惑の核心にまったく触れないたわごとを並べている。

「転売規制」、「雇用維持条件」以外に、どこに複雑な事情が存在するのか。企業機密の範疇に分類されるM&A交渉とはまったく性格が異なる。条件を明示して一般競争入札を実施して、国民資産を出来るだけ高い価格で売却する努力を注ぐべきである。

④の宮内氏と郵政民営化との関わりについては、
①宮内氏の著書における「かんぽの宿」の記述
②規制改革会議等における郵政民営化についての論議の有無
③総合規制改革会議委員とオリックスとの関係および、日本郵政株式会社人事との関わり、
④日本郵政で「かんぽの宿」売却を担当した執行役とオリックスとの関わり、
⑤「かんぽの宿」の鑑定評価を行った承継財産評価委員会委員とオリックスとの関わり、
など、多くの疑問点が浮上している。「検証」記事には、これらの分析が皆無である。

⑤の「雇用維持」について、
オリックスの雇用維持が「1年」に過ぎず、他社に提示された条件よりも緩いとの証言、2年の転売規制に抜け穴条項が用意されていたこと、3200人の雇用維持と伝えられているが、3200人には非正社員も含まれている。非正社員および正社員の雇用維持条件の詳細はどのようなものだったのか。

日本郵政サイドの弁明としか受け取れない記事に「検証」のタイトルを付けるのは読者を誤導するものだ。

また、記事は「かんぽの宿」を郵政民営化法で2012年までの廃止または売却を決定したことについて、「本業と関連が乏しい」ことを正当性の根拠としているが、日本郵政が現在、主力事業に位置づけていると見られる「不動産事業」は「本業」なのか。

「かんぽの宿」を売却して、「不動産業」に注力することは、「郵政民営化法」および「日本郵政株式会社法」からは導かれない。「かんぽの宿」を不正払い下げし、他方で「不動産事業」の拡大を目論んだのではないか。

「全国紙」の名前が泣いている。「検証」記事を特集するなら、国会で論議されていることを踏まえ、「かんぽの宿」疑惑で指摘されている主要論点についての最低限の「検証」が求められる。

このような記事を掲載するなら、
「検証「かんぽの宿」問題 日本郵政サイドの主張」
とのタイトルを付けなければ、見出しと内容が齟齬(そご)をきたす。

日本経済新聞が小泉竹中政治を擁護したい気持ちは理解できるが、このような我田引水の分析だけを掲載し続けるなら、優良な読者はますます日経新聞離れを強めてしまうのではないか。過去日経新聞を信頼していた外野席にいる一読者からの忠告として耳を傾けてくれることを願う。

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