人間の測りまちがい/スティーブン・J・グールド
Posted: 2008.12.25 (Thu) by うちゃ in 本の感想
このとき買った本命の方。読み終わったので、少し感想を。人間の測りまちがい-上
人間の測りまちがい-下
「差別ではない区別だ」というのは、差別を肯定しようとする人がよく使うロジックである。客観的に違っているのは明らかなのだから、扱いを変えるのは当然、という主張である。本書で取り上げられている科学者たちも、客観的な”差異”を見出し”区別”しようとする。しかしグールドは、彼らの研究は偏見と予断にとらわれていたことを明かしていく。
本書の前半で取り上げられている人たち、頭蓋の計測や脳の重さによって人間をランク付けしようとした人たちは、現代の視点からは奇妙な考えにとりつかれているようにも見える。しかし、後半、IQと知能テストの項目を読めば、彼らを全く笑えないことがわかるはずだ。先人たちと全く同質の誤りが、今もまだ繰り返されている。
本書で一貫して批判されているのは、「知能というのは生得的な能力であり、単一の尺度で直線的にランク付けできるものだ」という考えだ。科学者たちはこのことを証明しようと多くの”客観的な”データを集め、統計を取り、自説の正しさを主張してきた。だが、データの収集、統計処理、そして結果に対する考察、すべてのプロセスに予断や偏見が入り込んでいたことをグールドは明らかにしていく。それはこうした丹念な検証が行わなければ見過ごされていたかもしれないことではある。そしてこれは、この問題に限った話ではあるまい。おそらく彼ら自身、自分の中にある偏向を意識してはいなかったのだろう。自身はあくまで中立で客観的な考察を行っていたと考えていたようである。自らの偏見に気づくことができるかどうかというのは、科学者にとって大きな分岐点なのだろう。懐疑主義者であろうとするなら、まず最初に疑うべきは自分自身なのかもしれない。
本書が単に一つの分野への批判で終わっていない点はここにある。とりあえず、自称中立の人たちは本書を百回くらい読んだらいいと思う。