Posted: 2009.11.17 (Tue) by うちゃ in
意見など
既にニュースで流れているが、次世代スーパーコンピュータの研究開発予算が仕分けによって凍結に近い縮小という結果になった。
「2位ではだめなのか」 次世代スーパーコンピュータを「仕分け」した議論 - ITmedia News こんな記事も流れたことから、ネットでは仕分け作業に対する批判的な意見も多く見られ、それを受けてか、文科省はこんなことを始めたようである。
世界一のスパコン本当に不要? 文科省、仕分け結果の意見募集 - ITmedia News だが、どうも色々調べてみるとこの研究開発事業、そのまま存続させるのは非情に疑問に思える点が多々ある。なんかヤバそうなプロジェクトの匂いがするのだ。
上記の記事にもあるが、このプロジェクトは平成24年からの本格稼働に向け開発が進められているもので、総額1230億円を投入して、計算速度10PFlops(ペタフロップス)という、現在最高速の十倍の性能をもつスパコンを開発しようというものである。実現すれば世界でもトップクラスの性能であり、地球シミュレーター以来のトップ1も夢ではないというシステムである。
だが今回、この価値を理解しない人たちによって阻まれ、計画は頓挫しようとしている……という感想を抱かせる報道である。文科省の動きもこの報道に合わせてのものであろう。
だが、私にはやはりこのプロジェクトは凍結した方が良いように思われる。以下にいくつか理由を挙げよう。
1.目標と目的が混同されている
このプロジェクトの目的は世界一の性能を持ったスパコンを作ること、ではない。”世界一の性能”というのは達成するべき目標値であり、正確に表現するなら、稼働時においてトップレベルの性能を確保すること、と表現するべきものだ。「2位ではだめなのか?」というツッコミはこのことを理解していればただの言いがかりではないことがわかるはずだ。
では本来の目的は何か。大きく二つあるはずである。一つはスーパーコンピューターというハイテク技術の養成そのもの。そしてもう一つは圧倒的な計算力を持ったコンピューターの所有である。そしてどちらの方がプライオリティが高いかと言えば後者である。現在の先端研究では高い計算力を持ったスパコンによるシミュレーションというは必須であり、その意味では「(スパコンなしで)科学技術創造立国はありえない」というのはまったく正しいのだ。
また、高額の開発費を投入するのであるから、稼働時に時代遅れになるようような性能のものを作ったところで意味が無い。そのときトップレベルの性能を出せるものを作ることで、結果として世界一となるかもしれない。が、それ自体を目的としているわけではないはずである。
しかし、どうも”世界一のスパコン”というキャッチーなフレーズが一人歩きして、本来の目的を見失ってないだろうか? そして、圧倒的な計算力の確保ということだけであれば、国産にこだわる必要は無い、ということも考慮すべきであろう。
2.実現可能性に疑問符がつく
目標性能10PFlopsというのは現在の世界一のスパコンに対しては約5.5倍、日本一である地球シミュレーターに対してだと約80倍の性能になる。となれば、現在日本が保有している技術でどこまでできるのか、目標を達成するにはなにが足りないのか、といったところが気になるところなのだが、開発に関する情報は機密扱いでそのあたりは公開されていない。当然実現可能である、という報告は上がってきているわけなのだが、どうもこれがかなりあやしいらしい。
というのもこの次世代スパコンは計画時に比べると大きな構成の変更があり、当初スカラ計算機、ベクタ計算機、専用機という三つの構成だったものから、まず専用機の部分が無くなり、ついでNECの撤退によりベクタ計算機も無くなってしまった。にもかかわらず、目標性能は最初の計画時に設定した10PFlopsから変わっていないである。ちなみに、今残っているスカラ計算機の計画時の目標性能は1.0PFlops、要するに最終目標の1/10でしかない。いや、それでもちゃんと実現できる目処が立っているなら文句はないのだが、現状ではその情報が開示されていない、当初目標値の十倍にあげなければならないのに、である。1.0PFlopsというのは現時点での世界トップレベルであり、このままプロジェクトを進めたところで、世界一どころか稼働する頃には時代遅れ、外から調達した方が結局は安かった、なんてことになる可能性は充分ある。
もちろんこれは、今のところ憶測でしかないけれど、事業を存続させたいなら、充分実現可能です、といえるだけのエビデンスを提示してくれないと納得いかない。そういう意味では今の文科省の態度は精神論というか感情論に訴えすぎに思える。
3.日本独自技術というのはもはや意味がないのでは?
先にも触れたけれど、次世代スパコンからベクタ計算機の部分は既に脱落している。だが日本独自というかもっとも強いとされているのがこのベクタ部である。それが脱落した今となっては、国策として勧める価値はどのくらいあるのか。更に今日になってこんなニュースが流れている。
インテル、スーパーコンピュータ向けプロセッサの開発を発表--NECとの提携も:ニュース - CNET Japan次世代スパコンから脱落したNECはベクトルプロセッサの技術を持って、なんとインテルと協業だそうである。これはその方が商売になる、という経営判断だろう。こうなると、もうなんのために続けているのか良くわからない。
というわけで、私としてはこのプロジェクトは潔く中断すること。必要となるスパコンはこれで浮いた費用を使って外部から調達(このままずるずる続けるより、たぶんその方が安い)、あとは若手研究者の待遇改善なんかに費用を回した方が科学技術立国に貢献するんじゃないかと思うが、どうだろう?
なお、私の情報は主に
こちらのブログから得ている。もしかしたら偏りや事実誤認があるかもしれない。気づいたことがあったらご指摘いただきたい。