不幸な善人と陽気な悪人
この世は、ままならぬものだ。
嫌なこと、面白くないことばかりが起こり、何事も思い通りにはいかない。
これには、ほとんどの人が同意いただけるのではないかと思う。
アメリカには、成功教の教祖のように思われている高名な啓発家や光明思想家が沢山いる。
「思い通りになるのが人生だ」と力強く説く大富豪でもある牧師や、「人生は、富だけでなく、家庭や健康等、あらゆる面で成功してこそ幸福なのです」と言って、人生の全ての分野で成功するための高価な自己開発プログラムを世界的に普及される大事業家もいる。
しかし、彼ら自身の家庭は悲惨な問題を抱え、実際は何事も思い通りにならず、人生のあらゆる部分で失敗している。最大のセールスポイントである富においてすら、実際は膨大な負債を背負っている場合も多い。
そして、彼らの教えを宣伝し普及させている者達も、上位者になるほど不幸なのである。
あるいは、人々が憧れ羨む芸能界やスポーツ界の有名人達が、ろくでもない問題を隠しているのは当たり前であり、とりたてて特ダネ番組やゴシップ記事で騒ぐほどのことではない。
そして、そんな有名人に対して、有名な宗教家、占い師、自称霊能力者に意見を聞くと、この人はこんなところが悪いからとか、これを止めないといけないとか言う。ところが、そう言っている宗教家や占い師の方も本当は問題だらけなのだ。
さて、人生とか、この世は、なぜかくもままならぬのだろうか?
例えば、泥棒で財を築き、立派な生活をしている人がいるとする。しかし、彼の妻が浮気を繰り返し、子供はちょっと不良になったとしよう。
そんな時、上にもあげたような宗教家や占い師や自称霊能力者に相談し、職業が泥棒であると言ったら、当然、泥棒をしているのが悪いということになるだろう。
泥棒をやるのもまた宿命である。悪いことほど、やるのにエネルギーがいる。無気力なサラリーマンはいても、無気力な泥棒の話など聞いたことがない。
泥棒をやるような者は、天によくよく選ばれて、特別な使命が与えられているのだ。
彼らもまた、世の中はままならぬと思っている。しかし、彼らはサバサバしている場合が多い。いろいろな不運や不幸に対しても、「世の中、ままならぬなあ」と言いながら、特に深刻でなく、笑ってケロケロしている場合すらある。
別に、悪いことをしている罪悪感から、天罰を受け入れるような心がけでいるのでもない。特に、優秀な泥棒というのは、自分の技量に誇りすら持っている。
ある詐欺集団は、長く高収益を続けていたが、そこでは、普通の会社など比較にならないほど厳格に規律が守られ、また、その組織内では皆が公平に扱われていた。ある意味、正義に貫かれていたのだ。そうでないと、こんな難しい仕事がうまくいくはずがない。
最近よく、鉄道会社や郵便事業や医療で、うっかりミスや職員の怠慢による事故の話をよく聞くが、そんな連中では決して勤まらない。
不幸の原因とは、よくご存知の方も多いと思うが、心の中に巣くったネガティブな思いであることは間違いがない。
しかし、問題は、なぜそんな困った想念を持つかである。
不幸な善人、人生を楽しむ悪人。それが世の中である。
そして、興味深いことに、うじうじした善人から大聖者が生まれることは無いが、大悪人は、ちょっとしたきっかけでそうなることがある。
最近、ブルース・リーの映画が放送されていたので見たが、有名な「燃えよドラゴン」(原題は“ENTER THE DRAGON”)の、最初のあたりの、リーと師匠との会話が興味深かった。
「敵にどう備える?」(師)
「敵はいません」(リー)
「なぜだ?」(師)
「私がいないからです」(リー)
・・・
「チャンスでも私は撃たない。拳自ら撃つ」(リー)
・・・
「表面の幻を破れば、隠れたものが見える」(師)
映画自体は、あくまでエンターテインメント(高度な娯楽)だったが、賢人の話でも借りてきたのだろうか?なかなかのセレクトとマッチングだと思った。
鍵は、良いことか悪いことかは問わぬが、それを誰がやっているかだ。
行為者がいなければ、善事も悪事も存在しない。
誰が行為しているのか?誰が言っているのか?誰が思っているのか?
それは、「私」であるに決まっている。
その私とは誰か(何か)を見出せば不幸は消える。
私とは、思考であり想念だ。そして、それは幻であり、実際は存在しない。
科学的かどうかはともかく、フロイトもそれに気付いてはいた。しかし、彼は頭が良過ぎて、その幻の思考で論を進めたので、全体的には重要な示唆を人類に与えたが、ところどころでけったいな理論を導いてしまったのだ。
ニーチェあたりもそうで、誠実な彼は結局発狂した。発狂してすら、彼は賢かった。ルドルフ・シュタイナーは精神が崩壊した彼の知的な雰囲気に圧倒された。
だが、幸い、我々は頭が悪い。捨てて惜しい知性ではない。その分、腹を創れ。
日本人なら、腹を切って誠意を示した馬鹿な連中を浮かばせてやろうではないか?彼らも、心の奥では気付いていたから、腹を切れたのだ。腹の大切さを。
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Comments
毎日拝見しています。kayさんの言葉は日に日に色々なものがそぎ落とされて鮮やかになっていく印象を受けています。大雨の降ったあとの山奥の一条の滝が、加速度をつけて透明度を増していき、いつか本当に見えなくなってしまうのではないかと思われるほどの。
Posted by: dandan | 2010.08.13 09:23 PM
★dandanさん
勇気の出るお言葉、ありがとうございます。
どうも、dandanさんの、前回の神経衰弱のお話では、誤解を与えるようなレスをしたような気がします。多分、眠かったのでしょう・・・と言い訳する^^;
何事も、なかなかままなりません。まあ、挫けながらも希望を持ってやっております。
Posted by: Kay | 2010.08.13 10:41 PM
あぁ。思い出しました。本当に、忘れていました(^ニ^)
先日、テレビで養老孟司氏が、「幼い頃の思い出は不思議で、思い出せばそこに自分が見える。自分が見ているのだから、自分の姿は見えないはずなのに」というようなことを言っていました。
私も自分自身のことを振り返れば、やはり、夏の思い出は、白昼に捕虫網を持って歩いている自分自身の姿が見えます。蝉時雨が激しいのに、とても静かだった思いが蘇ってきます。不思議ですね。不思議ですが、あの感覚をきちんと取り戻すことができれば、不安など一切無くなるように思っています。
Posted by: dandan | 2010.08.15 12:10 AM
Kayさん、こんにちは!
今日の文章の特に最後のあたりのところ・・・フロイトやニーチェに対しての知識が乏しいため
ちょっと難しい部分もありましたが、とても感動してしまいました!
そして最後のあまりにも圧巻されるような言葉に、
恥ずかしいですが思わずブラボーと叫びたくなる気分でした。^^
普段から、理想の社会の在り方(他人の家を自由に行き来できる)だとか、
ホームレスに関する考え方だとか、心の広い考え方に感動させられています。
Kayさんのブログを読むと、日常のストレスから解放され、
素に戻れる感じがして癒されます☆
ありがとうございます☆
Posted by: mia | 2010.08.15 05:21 PM
★dandanさん
私の場合は、夏休みの前日の気分を思い出すと高揚してきます。その日、学校帰りに見た、小雨降る公園の風景は忘れられません。
思い出の中に自分が存在することについては、いろいろな人が語っていますが、カラーで情景が明るいと尚良く、意識的にそうするのが楽しくなる方法だと言う人もいます。
★miaさん
こんばんは!
元気の出るお言葉、ありがとうございます。
私は、自分が今、ニートやホームレスでないのが不思議なくらいです。
どんな人間も、無条件で、そのまま幸せでいられる世の中であればと思います。
Posted by: Kay | 2010.08.15 09:38 PM
Kayさん、お返事ありがとうございます。
私も、Kayさんが仰るように一人ひとりが、変に無理をすることなく、自分自身のまま、
ありのまま存在できる社会が理想だと思います。
私もニートだったことがありますが、
ニートやホームレスは今の日本社会、物質社会に迎合できない人・したくない人は
誰でもなりえますよね。そして本来はとても生きる意欲の強い人達で、
人間らしく素晴らしい感性を持っている人が多いように思います。
私は、一つの夢があって自然の豊かな所に広い土地を買って、そこで動物も沢山一緒に暮らし
そして、繊細で優しくて一般社会になじめないような人々(現在ひきこもっている人々など)と
一緒に有機農業や手作りの生活をしたいのです。変に和を保つ必要もなく、
協力できるところは協力して、自分自身気取らずありのままで暮らしていける、
空気を読んでしゃべる必要のない自由な世界を作りたいのです。
表面的で、空気を読んだ上っ面の会話ほど嫌なものはありません。(今の日本社会では絶対必要条件ですが・・)
ぼそぼそっと一言でも、その人の心の底から出た言葉は、心に響くし、心に届きます。
そういう本当の真の人間関係を結べていけるような世界を作っていくのが今の夢 目標です。
すいません。ついついながながと書いてしまいました☆☆
Posted by: mia | 2010.08.16 09:16 PM
★miaさん
これは驚きました。
まるで、私の心をテレパシーで読んだように、私の想いそのまま、いえいえ、それ以上です。
本気になれば、資金はなんとでもなると思います。ただ、あせらず、時期を待つことも必要で、今はまだ他に解決すべき問題もあるかもしれません。
しかし、同じようなことを考える人もいるんだと感激しました。他にも沢山いれば、夢の実現は早いかもしれません。何事も、1人ではできませんからね。
資金を私が用意できればいいなあと思います。
Posted by: Kay | 2010.08.16 11:03 PM
Kayさん、こんばんは!
Kayさんも、同じこと考えていらっしゃったなんて、とても感激です!!
まさかKayさんがこのようなことを思っていらっしゃったなんて想像もしませんでした☆
Kayさんのおっしゃるとおり、一言で自給自足的な暮らしといっても、難題が山積みです。
土地選びもかなり慎重にしなければいけないと思うし、やっぱり資金が一番の問題だと思います。
まだ資金を確保できているわけではなく、100%確定ではないのですが、
ちょっと策があって、それを実現して成功させようとしているところです。
田舎に行って、初めから自給自足のスタイルで生活することは難しいので、
定期的な収入なり、貯蓄なり、かなりの資金を用意しなくてはいけないと思っています。
実際に実現させるには、Kayさんもおっしゃるように、
焦らず、きちんと準備しないといけませんね。
でも、自然が好きなので早くそのような生活をしたいと急ぐ気持ちもあります。
なんといっても自然の中で変なストレスのない気楽な生活を送りたいです。
Kayさんも、何か具体的に考えていらっしゃることなどありますか?
教えて頂けるとうれしいです☆☆
Posted by: mia | 2010.08.17 06:51 PM
★miaさん
あせらずいきましょう。
大きなことは、拍子抜けするほどの気楽さがなくてはやっていけない部分もあります。
何事も、時期を間違うとうまくいきません。
私は、お金に関してはあまり気にしていないのですよ。問題は、そこまでの心構えがあるかだと思っています。ある意味、本気であれば、すぐにもやれそうですけどね。
Posted by: Kay | 2010.08.17 10:48 PM
Kayさん、お返事ありがとうございます。
そうですね。焦ってはいけませんね。
やり方によっては少ない資金からでも初めることができるのかもしれません。
でも、できるだけ住み心地のいい快適な環境を作りたいと思うので、資金はしっかり貯めてから実行したいです。
一歩ずつ焦ることなく、前に進んでいかなくてはと改めて思いました☆☆
また何かありましたら相談させてください。
いろいろとアドバイスありがとうございました☆☆
Posted by: mia | 2010.08.18 08:41 PM
★miaさん
たのもしく感じますよ。
苦労はあるかもしれませんが、きっと豊かな実りがあるに違いないと思います。
また、いろいろお話して下さい。
Posted by: Kay | 2010.08.18 10:49 PM