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ハタチのわたしに読ませたい「うらおもて人生録」

 憎悪と劣等感のカタマリだった、昔のわたしに読ませたい。

うらおもて人生録 雀聖・阿佐田哲也が、人生のセオリーを語りかける。裏街道で修羅場をくぐった人だけに、どんな厳しい箴言があるやと恐る恐る読むのだが、あたたかい、やさしいまなざしに満ちている。

 たとえば、ばくち打ちを例に挙げて、「勝てばいい、これは下郎の生き方なんだな」と断ずる。自分だって博徒だったのに、と当然のごとくツッコミ入れたくなるのだが、ここは逆に考えてみる。博徒だったからこそ、鉄火場で生きのびたからこそ、そう言い切れるんだ。そして、「勝てばいい」下郎のロジックを推し進めた場合、どんな運命が待っているか、淡々と伝えてくれる。目先の勝ち負けに踊らされる下郎だった、20代の"わたし"に読ませたい。

 あるいは、優れた企画なのに通らないといって嘆く友人に、「それは貴方が、ただで説得しようとするからじゃないか」とアドバイスする。この「ただで」が肝心で、企画の善し悪しは関係がなく、「いいものだから納得しろ」というやり方では絶対うまくいかない。ここはいったん相手にリード点を贈って、動いてもらうよう"演技"せよというのだ。要するに「もちつもたれつ」なのだが、同じ事を、あるコンサルタントが理論化している [影響力の法則]

 もう手遅れかもしれないが、それでも実践してみようと思ったのは、「欠点」の件。よく、「長所を伸ばせ」とか「短所をなおせ」とか言われるが、そうではない。若いうちから意識的に守り育て、適当で洗練された欠点を持て、というのだ。「生きにくくてなやむくらいでちょうどいい、その欠点を自分でつかんで飼っていないとね」という言葉にはハッとさせられる。良いことと悪いことは表裏であるとか、禍福はあざなえる縄とか、そんなことは知っている。だが、それを自分の人生にどう活かすか、ということに、ついぞ気が回っていなかった。

 こういう「つぼ」のようなものは、なかなか言ってもらえないもの。親子なら気恥ずかしさや上から目線が邪魔をするだろうし、上司部下だと立場が屈託して伝えづらい。この本を読むことは、行き付けの飲み屋の常連さんと、ふと親しくなって教えてもらうようなものだ。ましてや、どこかの自己啓発本に太字で書いてあるわけがない。言葉で伝えることが難しいことを、経験談や相手の応答を測りつつ、一対一で、手渡すもの。

 著者が伝えたいことを「まとめ」るのは、それこそ簡単なこと。西部邁の解説を読めばいい。でも違うんだな、サマリだけで分かることはできない。相手の経験と、自分の経験を照らし合わせながら、納得できるところ、できないところ、分からないところをコツコツ拾い上げるんだ。西部解説とわたしが反応したところが、かなり合ってて、ちょっと可笑しかった。たとえば、このあたり。

魅力とは、自分が生きているということを、大勢の人が、なんとか、許してくれるようにさせるような力量のこと。勝ちも負けもどこかに魅力がないと駄目だ。人がなんらかの意味で許し認めてくれるようなものでないとね。

原理原則は愛嬌のないものだと知りつつ、わかる、ってことは、どういうことかというと、反射的にそのように身体が動くってことなんだ

当たり前のことを憶えるためには、大勢に関心を持ち、白紙の状態に還って、あらゆるものの下につくが、そのかわり、ひたすら眺めている(博打でいう見[けん]の状態)。そしてなによりも、大勢を好きになることで、自分の感性の枠を広げろ
 これは読み手の年齢というか、経験値によって反応するところが違ってくるのではないか、という気になってくる。20代の"わたし"だと絶対にピンとこなかっただろうが、いま読んでハッとさせられた文の最たるものがこれ。いくつか線引きをしたので、未来の読み返しが楽しみだ。
生きている、というだけで、すでになにがしかの運を使っているんだな
 本書を知ったのは、[finalventの日記2009-09-10]より。finalventさん、ありがとうございます。おかげで良い本にめぐりあえました。変わるというより、意識して効いてくる、それも後になって分かってくるような感覚です。


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コメント

>裏街道で修羅場をくぐった人だけに、どんな厳しい箴言があるやと恐る恐る読むのだが、あたたかい、やさしいまなざしに満ちている。

ハゲ道ですた。浪人時代~大学生までの、歪んだまま抱えた劣等意識をほぐしてくれた一冊でした。ポンコツな自分は今でも変わりませんがw当時熱中した中島らもとともに、日輪というよりは月光の優しさを浴びていた感じでした。そして今、読み返してもやっぱり優しい。なんでしょうね、某新聞の人生録には成功者たる人種の何処か「計算」めいたものを文章に感じてしまうのに。

投稿: TH | 2010.02.17 21:20

最近、普通のSF本の紹介が無いので、
円城塔 作品群と 飛浩隆の廃園の天使シリーズを薦めてみます。
一度お読みあれ。

投稿: MASU | 2010.02.17 22:20

>>THさん

ああ、色川氏の「計算のなさ」は感じました。自分を上手に「見せる」よりも、うまく伝わっているか、活かせてもらえそうかに心砕いているなぁ、と感じながら読みました。わたしが若いころに読んだなら、もうちょっと自分にも他人にも優しくなれたかもしれません。幸いなことに、わたしの子どもには早すぎるので、成長を待って、渡してみようと思います。


>>MASUさん

オススメありがとうございます、SFですか……たしかに最近、レビューしてないですね。SFぽくないけれど、今年はピンチョンやレムの読み直しをしようと考えています。ピンチョンは新潮から出るみたいだし、レムは「完全な真空」と「ソラリス」「虚数」が楽しみです。

オススメいただいた中では、「グラン・ヴァカンス」が読むぞリストに入っているので、そのうち手を出してみようかと。

投稿: Dain | 2010.02.18 23:55

いきなりamazonの古書の値段が上がってて吃驚しました、前は1円だったのに・・・。

https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2010/02/post-7ee8.html#comments

そこのブログのおすすめは良く読んでて、
上の記事のも半分位読みました。

自分はジェイルバード注文しました(*´∀`*)

投稿: nanasi | 2010.02.28 00:54

>>nanasiさん

「ジェイルバード」も読みたいです。finalventさんは、いい本をオススメしてくれますね。

投稿: Dain | 2010.02.28 14:21

 「もし、二十代であるならば、読んだ方がいいよ」というアドバイスを受けてから、何ヶ月も経ってしまいましたが、ついに読み終わりました。
 端的に感想を言うならば、「ああ、十代に読んでおけば!」です。僕には、これ以上の言い回しが思い浮かびません。
 今、二巡目に入ってます。久々に、本に救われた気分です。すばらしい書評とアドバイスを、ありがとうございました。

投稿: のどぼとけ | 2010.07.26 09:24

>>のどぼとけさん

そういうものかもしれません、その本の良さが分かるようなくらい経験を積んだからかもしれません。それでも、「いま」読めてよかったですね。わたしも一緒になって喜びたい気分です。

投稿: Dain | 2010.07.26 23:46

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» 絶対に読んで欲しい−『うらおもて人生録』 [書評テトリス]
素晴らしい書評は以下↓ https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2010/02/post-7ee8.html#search_word http://www7.atwiki.jp/siritori_review/pages/43.html 「プロは持続を旨にすべし」 「プロは一生を通じてその仕事でメシが食えなくちゃならない」 「だからプロの基本的... [続きを読む]

受信: 2010.03.25 07:49

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