ハードウェア・チップによるサイバー攻撃と、「ホワイト・ハウスの暗殺者」
サイバー攻撃の常套手段といえば、マルウェア(悪意あるソフトウェア)を用いるものと思っていた。攻撃コードと防衛コードのせめぎあい、プログラマ vs プログラマの闘いのようなものを思い描いていたが、違っているようだ。
「フォーリンアフェアーズ」2月号の、NATOの元軍事司令官によると、ハードウェア方面の防衛対策が遅れているらしい。誤動作を起こすよう欠陥を埋め込まれた集積回路が流通し、あるタイミングで「発火」する。もっとも、脅威と認識するからには上手く利用されているようだ。2007年9月のシリアへの核関連施設へのイスラエルの空爆が成功したのは、遠隔操作による監視レーダーを停止させる「キルスイッチ」が奏功したからだと報告されている。
こうしたハードウェア・チップを用いた攻撃には、ソフトウェアと違ってパッチをあてて修復することはできない。普段は何事もなく動作しており、いざとなればテロリストに化ける、究極の「スリーパー・セル」のようなものだという。このレポートでは、はっきり「時限爆弾のようなもの」と表されている。
数年前、IBMのパソコン事業の売却が取り沙汰される際、米政府が安全保障上の懸念を示したことを思い出す。あるいは、米政府が使用するPCやネットワーク機器を、中国から調達することに反対する動きがあった(ソース失念、The Economist だったかも)。その結着は見極めていなかったが、「安いから」というだけの理由で安易に決定していたとするならば、ここに示すようなリスクが混入していた可能性がある。
かなり古いが、「ホワイト・ハウスの暗殺者」(ジョン・ワイズマン/1984)というミステリがある。アメリカ大統領の前で、ひとりの青年が銃を抜くという事件から始まる。青年はすぐに取り押さえられるのだが、彼の経歴は何の問題もなく、そもそもそんなことをするような人物ではなかったのだが……これは某国で洗脳された冬眠テロリストの例だが、ロボットのように、スイッチのように人格を切り替えられている。
ハードウェア・チップとしての「トロイの木馬」は、存在するだろう。しかし、その発動は、わたしのあずかり知らぬところ。最悪のタイミングで、何かが誤動作したり、あるいは全く動かなかったという"故障"が起きる。仮にその結果が報道されるとするならば、それは"事故"として扱われるに違いない。
レポートではインフラを多様化させてリスク管理せよと強調する一方で、防衛はソフトウェア側よりも難しいと結論付けている。「ホワイトハウスの暗殺者」はもちろんフィクションだ。しかし、これだけ"懸念"がおおっぴらに議論されているところ見ると、「木馬」はすでに展開されているのかも。
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コメント
中国製とみられる偽シスコ製品がアメリカ国内で見つかって騒ぎになった事件を思い出しました。
検索したら、武田圭史先生のブログの以下の記事にFBIのリポートへのポインタがありました。
参考までにどうぞ。
中国製偽シスコ・ルータが米国の重要インフラに流通している件
http://motivate.jp/archives/2008/04/post_153.html
投稿: | 2010.02.19 18:52
>>名無しさん@2010.02.19 18:52
情報ありがとうございます、偽ルータという形で既に入っていたのですね。サイバー攻撃用か否かは分かりませんが、「工業製品」という形をとれば、たやすいようです。
投稿: Dain | 2010.02.20 12:34