月刊「現代」は、12月に発売される2009年1月号をもって休刊になる。ついこの間には、「論座」が休刊した。ようやく「コイズミカイカク」を否定的に総括しようとする言論が広がってきた時期に、これらの雑誌が相次いで休刊するのは残念だ。今後は、「世界」くらいしか参照したいと思う雑誌がなくなる。昨年、小沢一郎がISAFへの自衛隊参加を主張する論文を「世界」に発表したが、難解な左派の論文ばかりが載っているとっつきにくい雑誌という印象があった昔を思えば、「世界」もずいぶん変わったものだ(もちろん、必ずしも肯定的な意味で言っているのではない)。
「現代」に戻ると、11月号に長谷川幸洋という東京新聞論説委員が、中川秀直が新党を結成して民主党と手を組むのではないかとする記事を書いている。飛ばし読みしただけだが、要はネオリベ(新自由主義)政権の復活を待望する内容である。東京新聞も、朝日新聞と同じで、8月頭の福田改造内閣発足の際に「改革の後退」を批判する社説を掲載して失望させられたが、あるいはこの長谷川が執筆したのだろうか。リベラルといわれる新聞でも、東京にいるジャーナリストの感覚というのはそんなものなのか、と思う。
私は、ブログをご覧いただければわかるように、政治学にも経済学にも素人のわけだが、このところのアメリカ発の金融危機のニュースに接して、1998年から2001年頃に買い集めた新書の類を引っ張り出して、当時、学者やジャーナリストたちはどんなことを書いていたのかと読み直している。たとえば小野善康著『景気と経済政策』(岩波新書、1998年)という本があり、ネット検索したらこちらに要旨が出ていた。小野氏は、不況期にこそ財政出動をせよ、不況期の財政赤字は余剰資源の有効活用ができるからかえって好ましい、不況期に必要なのは、政府が民間では吸収し得ない余剰労働力を積極的に使って、意味のある公共財を供給することである、国債発行は将来世代の負担になるというが、この議論自体にも多くの誤りがあり、特に不況期には負担にならないなどと主張している。
1998年当時からこのような主張があったのに、コイズミはその逆をやってしまい、日本をぶっ壊した。小野氏は、「官から民へ」という中曽根以来の新自由主義政権が使い続けたスローガンについても、「官から民へと騒げば、官は何もしないことになり、失業が放置されてかえって無駄が発生する」と批判している。
私には、中川秀直ら「上げ潮派」の、小さな政府と金融政策の組み合わせで、というか政府は財政出動などしなくても、適切な金融政策だけで景気を浮揚させるという主張(としか私には思えない)が、私の頭が悪いせいかもしれないが、どうしても理解できない。新自由主義者は、これは高度に洗練された理論であって、だからエスタブリッシュメントはみな支持しているのだと言うのだが、私には富裕層をさらに富ませるための詐術としか思えない。
そして、いまや麻生内閣の中川昭一財務相も、民主党が提示した政策も、ともに財政出動による景気対策を主張している。「コイズミカイカク」による格差社会の出現という高い高い代償を支払って、ようやくまともな政策が実施されようとしていると私には思えるのだが(但し、自民党の景気対策は金持ち優先だから効果は野党案に劣る。社民党や国民新党は民主党よりさらに踏み込んだ景気対策の必要性を主張している)、そんな時に、民主党の政策が「上げ潮派」と親和性が高く、両者が手を組むのではないかという東京新聞論説委員氏の主張は、何を考えてそんなことが言えるのかさっぱり理解できない。
相変わらず中央のマスコミはアナクロな社説を掲載し続けているが、その中で比較的評価できると私が考えているのが、毎日新聞である。コイズミの引退表明を受けて、9月27日に朝日新聞と読売新聞がそれぞれ、コイズミを部分的には批判しながらも、全体としては肯定的に評価する社説を発表した時は、そのネオリベぶりに頭痛がしたが、毎日新聞は遅れること2日、9月29日に「小泉氏引退へ 「改革の総括」を聞きたい」と題する社説を掲載した。「小泉政治の評価は功罪相半ばしている」として、劇場型の政治手法を肯定的に評価していることには全く同意できないが、コイズミカイカクによって「自由競争や市場原理、自己責任を重視し過ぎた結果、日本社会では格差が拡大した」と指摘した。当たり前の指摘だが、朝日は「たしかに多くの劇薬を含んでいた小泉改革は、日本の社会に負の遺産も残した」、読売は「経済政策でみられた「市場万能主義」は、拝金主義の風潮を生んだ」という書き方しかしておらず、「格差拡大」がコイズミカイカクの帰結であると指摘したのは、三大紙では毎日だけである。
イラク戦争についても、「対米従属に過ぎたとの批判もある」などと、毎日新聞の主張では必ずしもありませんという及び腰の表現ながら触れているし(驚くなかれ、朝日は「不良債権の処理やイラクへの自衛隊派遣、そして、長年の悲願だった郵政民営化が実現したのは、小泉氏一流のそうした「突破力」があってのことだった」などと、肯定的に評価しているのだ!)、コイズミ自身にカイカクの総括を求め、安倍、福田、麻生と続いた後継首相がコイズミ路線を継承するのかどうかあいまいにしたまま、麻生が小泉路線から決別しようとしていることに対し、「なし崩し的印象が強い」と批判している。
毎日新聞も、これまでずっと朝日に追随するかのようにコイズミカイカクを肯定的に評価する社説を掲載してきたわけだから、毎日にもこれまでの報道の総括を求めたいところだが、朝日や読売、東京新聞(中日新聞)などに一歩先んじてカイカク離れをしようとしている(ように見える)ことだけは歓迎したい。
「景気テコ入れ策 家計の元気付けが第一だ」と題した最新の3日付社説でも、毎日は「政府・与党の政策では相変わらず、企業側を強くすることに力点が置かれている。供給側をてこ入れすれば、家計はいずれ元気になるという発想だ。それでいいのか」、「勤労者の収入増は家計消費増加をもたらし、企業自身も潤す。非正規雇用の正規化や雇用機会の拡大も所得拡大を通じて、景気を盛り上げる効果を持つ。政府・与党は家計の元気付けが、最も有効だと知るべきだ。この観点から緊急対策を組み直すことが最も時宜にかなっている」と主張している。ようやく大新聞にもまともな社説が載るようになったと評価したい。
朝日や読売がネオリベにこだわっている間に、毎日が「反カイカク」路線を打ち出していくことができれば、現在毎日新聞が陥っている苦境を脱出する目も出てくるだろう。今後に期待したい。
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「現代」に戻ると、11月号に長谷川幸洋という東京新聞論説委員が、中川秀直が新党を結成して民主党と手を組むのではないかとする記事を書いている。飛ばし読みしただけだが、要はネオリベ(新自由主義)政権の復活を待望する内容である。東京新聞も、朝日新聞と同じで、8月頭の福田改造内閣発足の際に「改革の後退」を批判する社説を掲載して失望させられたが、あるいはこの長谷川が執筆したのだろうか。リベラルといわれる新聞でも、東京にいるジャーナリストの感覚というのはそんなものなのか、と思う。
私は、ブログをご覧いただければわかるように、政治学にも経済学にも素人のわけだが、このところのアメリカ発の金融危機のニュースに接して、1998年から2001年頃に買い集めた新書の類を引っ張り出して、当時、学者やジャーナリストたちはどんなことを書いていたのかと読み直している。たとえば小野善康著『景気と経済政策』(岩波新書、1998年)という本があり、ネット検索したらこちらに要旨が出ていた。小野氏は、不況期にこそ財政出動をせよ、不況期の財政赤字は余剰資源の有効活用ができるからかえって好ましい、不況期に必要なのは、政府が民間では吸収し得ない余剰労働力を積極的に使って、意味のある公共財を供給することである、国債発行は将来世代の負担になるというが、この議論自体にも多くの誤りがあり、特に不況期には負担にならないなどと主張している。
1998年当時からこのような主張があったのに、コイズミはその逆をやってしまい、日本をぶっ壊した。小野氏は、「官から民へ」という中曽根以来の新自由主義政権が使い続けたスローガンについても、「官から民へと騒げば、官は何もしないことになり、失業が放置されてかえって無駄が発生する」と批判している。
私には、中川秀直ら「上げ潮派」の、小さな政府と金融政策の組み合わせで、というか政府は財政出動などしなくても、適切な金融政策だけで景気を浮揚させるという主張(としか私には思えない)が、私の頭が悪いせいかもしれないが、どうしても理解できない。新自由主義者は、これは高度に洗練された理論であって、だからエスタブリッシュメントはみな支持しているのだと言うのだが、私には富裕層をさらに富ませるための詐術としか思えない。
そして、いまや麻生内閣の中川昭一財務相も、民主党が提示した政策も、ともに財政出動による景気対策を主張している。「コイズミカイカク」による格差社会の出現という高い高い代償を支払って、ようやくまともな政策が実施されようとしていると私には思えるのだが(但し、自民党の景気対策は金持ち優先だから効果は野党案に劣る。社民党や国民新党は民主党よりさらに踏み込んだ景気対策の必要性を主張している)、そんな時に、民主党の政策が「上げ潮派」と親和性が高く、両者が手を組むのではないかという東京新聞論説委員氏の主張は、何を考えてそんなことが言えるのかさっぱり理解できない。
相変わらず中央のマスコミはアナクロな社説を掲載し続けているが、その中で比較的評価できると私が考えているのが、毎日新聞である。コイズミの引退表明を受けて、9月27日に朝日新聞と読売新聞がそれぞれ、コイズミを部分的には批判しながらも、全体としては肯定的に評価する社説を発表した時は、そのネオリベぶりに頭痛がしたが、毎日新聞は遅れること2日、9月29日に「小泉氏引退へ 「改革の総括」を聞きたい」と題する社説を掲載した。「小泉政治の評価は功罪相半ばしている」として、劇場型の政治手法を肯定的に評価していることには全く同意できないが、コイズミカイカクによって「自由競争や市場原理、自己責任を重視し過ぎた結果、日本社会では格差が拡大した」と指摘した。当たり前の指摘だが、朝日は「たしかに多くの劇薬を含んでいた小泉改革は、日本の社会に負の遺産も残した」、読売は「経済政策でみられた「市場万能主義」は、拝金主義の風潮を生んだ」という書き方しかしておらず、「格差拡大」がコイズミカイカクの帰結であると指摘したのは、三大紙では毎日だけである。
イラク戦争についても、「対米従属に過ぎたとの批判もある」などと、毎日新聞の主張では必ずしもありませんという及び腰の表現ながら触れているし(驚くなかれ、朝日は「不良債権の処理やイラクへの自衛隊派遣、そして、長年の悲願だった郵政民営化が実現したのは、小泉氏一流のそうした「突破力」があってのことだった」などと、肯定的に評価しているのだ!)、コイズミ自身にカイカクの総括を求め、安倍、福田、麻生と続いた後継首相がコイズミ路線を継承するのかどうかあいまいにしたまま、麻生が小泉路線から決別しようとしていることに対し、「なし崩し的印象が強い」と批判している。
毎日新聞も、これまでずっと朝日に追随するかのようにコイズミカイカクを肯定的に評価する社説を掲載してきたわけだから、毎日にもこれまでの報道の総括を求めたいところだが、朝日や読売、東京新聞(中日新聞)などに一歩先んじてカイカク離れをしようとしている(ように見える)ことだけは歓迎したい。
「景気テコ入れ策 家計の元気付けが第一だ」と題した最新の3日付社説でも、毎日は「政府・与党の政策では相変わらず、企業側を強くすることに力点が置かれている。供給側をてこ入れすれば、家計はいずれ元気になるという発想だ。それでいいのか」、「勤労者の収入増は家計消費増加をもたらし、企業自身も潤す。非正規雇用の正規化や雇用機会の拡大も所得拡大を通じて、景気を盛り上げる効果を持つ。政府・与党は家計の元気付けが、最も有効だと知るべきだ。この観点から緊急対策を組み直すことが最も時宜にかなっている」と主張している。ようやく大新聞にもまともな社説が載るようになったと評価したい。
朝日や読売がネオリベにこだわっている間に、毎日が「反カイカク」路線を打ち出していくことができれば、現在毎日新聞が陥っている苦境を脱出する目も出てくるだろう。今後に期待したい。
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意外と中川秀直らと民主党は親和性があるように感じます。まず、小沢は元々はネオリベであった。今は修正資本主義に傾いているだけだと思います。現に彼の口から公共事業の拡大については何も言ってないと思います。まして前原を筆頭とするネオリベの勢力は健在です。
週刊文春では民主党の躍進を予想する記事を出しましたが、民主党の勝ちすぎは第2のネオリベ政権を生み出す危険性があるような気がします。社民、共産がもう少し元気になってほしいところです。
2008.10.03 08:10 URL | バク #- [ 編集 ]
毎日新聞よ同社の英字ヘンタイ雑誌ではバカウヨ共の攻撃にあって傷口を広げ攻撃材料を作ってしまいそうになって日本のジャーナリズムも終わりかに見えたが、やれば出来るというところを見せてくれた。これからは未だにネオリベを在り難がって崇拝しているバカウヨ共に反撃をすべきだ!!あしたのジョーのように燃え尽きるまでバカウヨ共に
クロスカウンターばりの攻撃でやり返せ!!
2008.10.03 12:35 URL | 右も左もいりません #- [ 編集 ]
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