わたしは18歳で、青春五月党を旗揚げした。
旗揚げしたと言っても、わたしは独りで、はじめて書いた戯曲「水の中の友へ」だけを握りしめて途方に暮れていた――。
16歳の時に高校を退学処分になり、家出したくて「東京キッドブラザース」というミュージカル劇団に入ったが、2作だけ舞台に立って自分は俳優には向いていないということがわかり、退団したのが18歳の時だったのだ。
高校、劇団、二つのことをやめたわたしは、挫折感に打ちのめされ、絶望の淵に立っていた。
十代半ばから太宰治の小説を繰り返し読んでいた。神田の古書店に行っては、評伝を探して買い求めていた。檀一雄の『小説太宰治』に、都新聞(現在の東京新聞)の入社試験に落ちた若かりし頃の太宰治を励ます会を友人たちが開き、五月だったことから誰かがふざけて「我ら青春五月党」と言った、というエピソードが書いてあった。
青春五月党、に決めた。
しかし、仲間がいなかった。
「水の中の友へ」は自画像を描く少年が主人公だったので、芸大の校門に立って、良さげな学生を見つけては、「青春五月党という劇団を主宰している者なんですが、旗揚げ公演に出ませんか?」とスカウトしたり、BARに呑みに行ってはバーテンに声をかけ、病院に行っては看護師に声をかけた。
俳優に出演してもらいたい、とは思わなかった。
俳優ではない職業の人の肉体を舞台上で見てみたい、と思った。
出演者を集めるのに1年かかった。
旗揚げ公演を行ったのは、19歳の時だ。
10作目の『Green Bench』から23年が過ぎた。
四半世紀も演劇から離れるつもりはなかった。
1、2年小説を書いたら、また戯曲を書いて上演しようと思っていたが、次から次へと休みなく書き続け、気づいたら小説を書くことを仕事にしていた。
いま、わたしは、福島県南相馬市小高区で本屋「フルハウス」を営んでいる。
人生は不思議だ。
どこで、どうなるか、全くわからない。
思いがけない縁が繋がると、何か意味があるのだろう、とわたしはとりあえず自分の力を抜く。何も考えず、引き寄せられる力に自分を委ねることにしている。
そしてまた、縁の糸の端を握りしめていたら、ふたば未来学園の演劇部と繋がった。
わたしは、50歳。
校長先生と同じ歳になっていることに驚いた。
浦島太郎の気持ちがよくわかる。
何もかも違っていて、19歳の時以上に途方に暮れているけれど、でも、わたしには、まだ時間がある。
ふたば未来学園高校演劇部の部員たちもいる。
青春五月党、復活します。
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青春五月党 復活公演 vol.1「静物画」
たった一人の少女の不在によって世界は充たされる。
公演期間:2018年9月14日-17日(全6公演)
昼公演 14:00(午後2時)開場/14:30(午後2時30分)開演
夜公演 17:30(午後5時30分)開場/18:00(午後6時)開演
9月14日(金) 夜公演のみ
9月15日(土) 昼・夜2公演
9月16日(日) 昼・夜2公演
9月17日(月) 夜公演のみ
作・演出 柳美里
出演 福島県立ふたば未来学園高等学校 演劇部
会場 La MaMa ODAKA(福島県南相馬市小高区東町1-10)
チケットぴあにて発売中
http://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1839039&rlsCd=001