【書評】『藁を手に旅に出よう』で学ぶキャリアにおける3つの分岐点。
『藁を手に旅に出よう』
『藁を手に旅に出よう』は、Voicyの「bookcafe」チャンネルでもお馴染みの荒木博行氏の著作です。
Voicyのヘビーリスナーである僕は、お気に入りのパーソナリティの著書はほぼ購入しています。
理由は、Voicyを通じたパーソナリティの思考や人間性を感じながら著書に触れることで、深く憑依して入り込むことができるからです。よって、普通の本よりも多くの感性の刺激を受けることができると感じています。
もう一つは、日頃無料でVoicyにて有益配信をしてくれているパーソナリティへ「書籍の購入」を通じた応援の意味もあります。
今回ご紹介する『藁を手に旅に出よう』は、ビジネス書というジャンルでありながら、新入社員研修を舞台にストーリー形式で展開されていく切り口が斬新です。
中堅システム会社に新入社員として入った登場人物たちは、「伝説の人事部長」と呼ばれる石川さんから研修の度に、キャリアセッションが行われます。
このキャリアセッションの中では、石川人事部長が新入社員たちの直面するキャリア上の問題や悩みを、寓話になぞらえて進むべき方向性のヒントを示していきます。
ここで示される本質的な考え方からは、新入社員以外のすべてのビジネスパーソンにとっても大切なことを多く学ぶことができます。
個人的に特に印象に残った部分を3つのポイントに抜粋してご紹介したいと思います。
キャリアにおける3つの分岐点。
仕事でやりたいことの見つけ方
主人公たちが配属希望面談に向けて悩むシーンがあります。
「とりあえず会社には入ったけど、自分は何がしたいだっけ?」
こんな悩みは、誰しもが一度は抱えるものだと思います。
会社という大きな組織の役割分担や仕組みがわからない中で、自分が何をすべきなのか?という明確な答えを持つことは非常に難しいことです。
そのヒントとして提示される寓話が「わらしべ長者」です。
「わらしべ長者」といえば、貧乏だった主人公の男が、豊かな生活を願い観音様にお祈りすると「最初に触ったものを、大事に持って旅に出なさい」というお告げをもらいます。
最初に触ったのは、たまたま転んで手元にあった藁。
すると、顔の回りに煩わしいアブが飛んできます。
そこで、男はアブを藁に括り付けると、「それが欲しい」という一人の男の子が現れます。男の子の母親がミカンと交換して欲しいというタイミングから、誰かと出会う度に、ミカンが反物になり、反物が馬になり、馬が屋敷になり、主人公は大金持ちになるというストーリーです。
ここからキャリアの話に転換できる点は2つです。
- マイクロスキルの認識
- 組み合わせの着想
- マイクロスキルの認識とは、「わらしべ長者」の主人公からも学べるように、たとえ「藁」のようなものでも、ちいさな強みになる。ということです。
- 組み合わせ着想とは、主人公が「藁」と「アブ」を組み合わせたことによって、新しい価値が生まれたと言えます。
また、この2点を通じてさらに深めるべき視点は、「需要」と「付加価値」です。
一見、「藁」と「アブ」の組み合わせに意味はあるようには思えませんが、それに付加価値を感じる男の子との出会いがあったからこそ、そこに需要が生まれたのです。
つまり、この話から得られるキャリアにおける教訓は
- 自分の小さな強みを見つける
- 自分の小さな強みを組み合わせる
- そこに付加価値を認めるのは相手次第。
転職の選択をする基準
主人公が入社3年目を迎えるタイミングで、社内で上司からは否定ばかりされ自分の力が発揮しきれていないことに不満を感じ、スタートアップへの転職を迷う場面があります。
「今の会社に残るか?転職すべきか?」
これも誰もがぶつかる障壁だと思います。
この問題に対して提示される寓話は「浦島太郎」です。
なぜ、浦島太郎はカメの未知の場所である竜宮城への誘いに軽々と乗ってしまったのか?
という問題提起から始まります。
結果的に、竜宮城へ行くという選択によって浦島太郎はハッピーエンドとは言えない結末で物語は終わります。
ここから得られる教訓は、断片的で短絡的な思考による判断は破滅を招きかねないというものです。
転職に置き換えて考えても、人は外には完璧な世界があるという理想に捉われがちです。
実際に、行った先が理想と違えば、また違う外の世界が理想的に見える…
それは、いつまで経っても決して幸せにはなれない選択です。
そうではなく、今の場所も視野を広く持つことで、「自分は何をすべきか?」「何の為に仕事をしているのか?」を問い直すことで、世界の見方を変えるということが大切なのです。
キャリアビジョンの描き方
「自分は何をすべきか?」「何の為に仕事をしているのか?」という問いは、ビジネスマンであれば、どんな立場や役職になっても意識しなければいけないものです。
この問いに対して提示される寓話は「レンガ積み職人」の話です。
話の内容は、三人のレンガ積み職人が何をしているのか?という問いかけに、それぞれ全く違う受け答えをしたというものです。
一人目、「レンガを積んでいる」
二人目、「壁を作っている」
三人目、「人が祈る教会を作っている」
この話からは、どんな目的を持つかによって仕事のモチベーションとクオリティは変わってくるというものです。
つまり、目的の高さとそれを具体的に言語化がカギになっていると言えます。
ここで、自分の目的を明確化させる実践的なフレームがあります。
それが、「目的ピラミッド」です。
主人公のサカモトのシステム営業の仕事においてピラミッドを引用すると、
以下のような形です。
ここでのポイントは、2つです。
- ウソの線を見極める。
ウソの線とは、目的を具体的に言語化できなくなるラインです。
このピラミッドの中では、4階層以上がそのラインだと言えます。
つまり、このラインより上が意識的に探る必要のある部分だということです。
- 下の階層を充実させる。
ピラミッドの中では、「目的」の下位の階層は必ず「手段」になる構造になっています。
つまり、現在目的が明確になっている3階より下の階層に別の手段を検討することもできるということです。
以下の図のように、上の階層を高めつつも、横展開と下層を充実させることで、自分のキャリアを描くピラミッドが完成します。
感想
10年前の新入社員の自分の気持ちを改めて振り返るきっかけになったこと、そして現在の自分の仕事に対しても仕切り直して考えられるきっかけになった1冊だと感じました。
また、人事部長の石川さんと研修生たちとの会話のリアル感も絶妙で、部下とのコーチングのヒントになるような言い回しや表現などもたくさん盛り込まれている点もポイントが高いです。
Bookcafeファンのみならず、すべてのビジネスマンにおすすめしたい1冊です。