小畑明『労働者代表制の仕組みとねらい』

エイデル研究所出版部の清水皓毅さんから、小畑明『労働者代表制の仕組みとねらい−職場を変える切り札はこれだ!』をお送りいただきました。ありがとうございます。第2章の座談会に参加されている荒木尚志先生にご配慮いただいたとのことです(ありがとうございます)。著者は運輸労連中央書記長で、ヤマト運輸労組出身の活動家です。ヤマト運輸が労使で思い切った改革に取り組んでいることは、この本の説得力を間接的に高めているのではないでしょうか。時宜を得た出版といえそうです。

労働者代表制の仕組みとねらい Q&A 職場を変える切り札はこれだ!

労働者代表制の仕組みとねらい Q&A 職場を変える切り札はこれだ!

第1章はQ&A形式による集団的労使関係と労働者代表制の重要性・必要性の解説で、中小運輸労働者のおかれた厳しい状況から書き起こし、労働者代表の好事例でまとめられています。第2章は著者の小畑氏と荒木先生、中小企業家同友会の平田事務局長による座談会で、労働者代表制のより具体的な構想が語られ、その課題と方向性が展望されます。第3章は資料集で連合の文書やJILPTの報告書などのポイントが紹介されています。著者の活動家としての自負、信念と決意が感じられ、たいへん好感を持ちました。
集団的労使関係の重要性については私もまったく同感ですし、現行の過半数代表に対する問題意識も共有するものです。いっぽうで、過半数代表の法制化(特に必置規制化)については、やはり私はきわめて懐疑的です。もちろん労働者代表そのものには否定的ではなく、まあ労働組合への期待は大きいわけですが労組に限定する必要もなく、労組ではない従業員代表が集団的労使コミュニケーションを担って成功している例は大企業にも見られるところです。したがって、集団的労使コミュニケーションへの理解はあるものの労働組合と言われるとちょっと…という経営者に対して、ではまずは労働者代表で、という持ち掛け方が有効な場面というのは多そうですし、それが組織化への第一歩となるなら非常に望ましいことではないかと思うわけです。
そのためにはやはり労働者代表が使用者にとってもメリットのあるものとして理解されることが重要で、まずは労使コミュニケーションの充実が企業経営に好影響を与えることにしっかり納得してもらうことが必要でしょう。ヤマト運輸にしても、小倉昌男氏が労使関係を非常に重視していたことはよく知られていますし、信頼関係に裏付けられた労使関係があればこそ、現在のような思い切った取り組みを進めることができるわけですし。加えて、制度的にも第2章で荒木先生が指摘しておられるように労働条件変更の合理性判断にあたって考慮されることを明確化するとか、集団的合意によって法規制を弾力的に運用できるとかいったメリットを与えるとか、さらにはたとえば専従者の賃金を使用者が便宜供与する場合にその一定割合を国が助成する(これは筋悪かな)とかいうものも考えられるかもしれません。
したがって、まずは労使の努力によって任意で労働者代表を拡大普及させていくことが望ましいのではないでしょうか。それが一定程度の拡大をみて、必置規制化に必要な環境条件が整った段階では、法制化も十分視野に入ってくる可能性はあると思います。逆に、性急な必置規制化は、多くの企業労使にとっては対応が困難であり、連合の地協とかがおおいに頑張るだろうとは思いますが遺漏が出る危険性も否定できず、使用者サイドに対してもいかに簡単にとりあえず形だけ整えるかという指導をする社労士さんというのが出てこないとも限りません。実態を伴わない一律の義務化は往々にして形骸化を招いて終わるということになりかねないわけで、まずは本書に登場するような志ある労使によって実態をつくることが重要なのだろうと思います。