今年の10冊

 どうだったかなと思って振り返ってみたところ2005年から2023年まで、2008年と2012年を除いて17回「今年の10冊」を選んでいるようです。もともと多読雑読乱読の人なのですがそれなりにその年の気分とか(笑)、選書傾向の変化が見えていて自分としては面白い。ということで今年が18回めとなりますが飽きずにやります。例によって1著者1冊、著者名50音順です。

稲葉振一郎『宇宙・動物・資本主義-稲葉振一郎対話集』

 人文科学の多岐にわたる分野に関する第一人者との対談が12本収録された対話集です。私レベルの「人文系ヘタレインテリ」(の部類だと自分では思っているのですが)でも、人文科学の今日的・論争的話題を面白く知ることができる非常にありがたい本。いなば先生はなぜどんな球でも打てるのかと感服すると同時に、なぜ第一人者がいなば先生を対談相手に選ぶのかということがたいへんによくわかります。

岩井圭也『いつも駅からだった』

 昨年から今年にかけて、京王電鉄が「いつも駅からだった」というキャンペーンイベントを開催しました。
keionovel.com
 京王沿線主要5駅にまつわる短編小説を、途中まではウェブで読めるのですが、全編を読むには現地に行って冊子を入手する必要があり、小説として通読するもよし、せっかく現地に行ったなら冊子片手に現地を散策しながら謎解きに挑むもよし、というものでした。私は調布市民であり、コロナ期の職場(サテライトオフィス)が府中市にあったことから、調布駅と府中駅の2話は読了しておりましたが、今般5話をまとめた文庫が刊行されたとのことで、小説の舞台にもなっている府中駅の啓文堂書店で買い求めてまいりました。
 ということで、内容としては「今夜は謎トレ」みたいなパズルを解きながら読み進める娯楽小説集であり、まあ調布市在住、府中市在勤経験ありの京王沿線民である私にはそうでない皆様のたぶん2倍くらい面白かったのと、すでに5話読破済みの読者も楽しめるような追加コンテンツも加えられるなどなかなか意欲的でもあるので選んでみました。

大橋重子『個人と組織の心理的距離ー距離をとる行動のバリエーションと影響』

 たった今(笑)簡単なご紹介を書きました。
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国立博物館筑波実験植物園『植物園へようこそ』

 私はご近所の神代植物公園に足しげく通っているので、書店で見つけて買ってみました。岩波科学ライブラリーということで、基本的な事項が要領よく、たいへんわかりやすく解説されています。なにより、著者たち(数えてみたところ研究員11人の共著のようです)の植物への愛が行間からほとばしっているのが魅力的です。

坂本貴志『ほんとうの日本経済』

 先日丸の内オアゾの丸善に立ち寄ったところ入口正面の平台に山積みにされていて驚きました。多くの人に読まれてほしい良書であり、丸善の書店員さん、さすがの慧眼です。
 簡単なご紹介はこちらです。
roumuya.hatenablog.com

滝原啓允『欧米のハラスメント法制度』

 修復的正義に関しては依然として私はやや懐疑的なのですが、諸外国の現状をまとめて整理されているのは貴重と思います。
 簡単なご紹介はこちらです。
roumuya.hatenablog.com

日本体育・スポーツ経営学会編『スポーツ観戦を科学する』

 私はアマチュア野球だけで球場で年100試合以上(2024年は52日・124試合)現地観戦する筋金入りのスポーツ観戦愛好家なので、非常に興味深く読みました。執筆者は版元のウェブサイトによれば15人、学会の総力を挙げて、というと大げさでしょうが、スポーツ観戦の文化的意義、観戦リテラシーの育成、メディア報道の傾向と問題点などから始まって、スタジアムの構造といった工学分野まで含めてきわめて多角的に論じられています。

萬代悠『三井大坂両替店ー銀行業の先駆け、その技術と挑戦』

 中心的な関心事は江戸期金融業の信用調査です。前半ではやはり副題にある「銀行業の先駆け」たる三井大坂両替店とはどのようなビジネスでどのような組織、管理だったのかが紹介され、後半では信用調査がいかに行われたか、顧客たちの実態はどうだったのか、結果としてどれだけの融資が実施されたのかについて、三井文庫の膨大な史料を元に解説されており、まことに興味深い一冊となっています。

八木谷涼子・鈴木元彦『日本の美しい教会』

 府中市美術館のショップで見つけて即決で買いました。美しい図版がふんだんに用いられ、眺めているだけで幸せになる一冊です。10年ほど前に仕事で(なぜだ(笑))福江島を訪問する機会があり、その際現地で時間があったのでいくつかの教会(すべて現役で使用されていた)を見学させていただいたことを懐かしく思い出しました。

矢島洋子・武石恵美子・佐藤博樹『仕事と子育ての両立』

 中央経済社から刊行されていた「シリーズダイバーシティ経営」がこの一冊で完成しました。
 簡単なご紹介はこちらにあります。
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 本年も本ブログをお読みいただきありがとうございました。よいお年をどうぞ。