あらかじめ決められた恋人たちへが放つ、もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』
叙情派シネマティック・ダブ・バンド、あらかじめ決められた恋人たちへ(通称、あら恋)から、ニュー・アルバム『響鳴(きょうめい)』が届けられた。今作で鳴らされているのは、あら恋が活動を開始して以来、常に大切にしてきた "オルタナティヴとしてのダブ" だ。原点と進化の両面が刻まれた今作について、OTOTOYではグループの中心人物である池永正二にインタヴューを実施。ショッキングなニュースで溢れ、混沌の時代を生きながらえる私たちにあら恋が提示するのは、希望や綺麗事ではなく流されないタフネスである。その裏には、バンドマン池永正二の音楽に対する実直な姿勢が垣間みえた。あら恋が鳴らす強靭なダブによって身体が、感情が突き動かされ、どんなときにも指針となってくれるだろう。
もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』
1月17日以降購入可能となります。
INTERVIEW : 池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
戦争、物価高騰、地震…… こんな時代だからこそ、あらかじめ決められた恋人たちが鳴らすダブの力が、我々には必要だ。最新アルバム『響鳴』からは、強くそう思わされた。だから本インタビューでは、なぜこんな力強い音楽が生まれるのかを知りたくて訊いてみたら、いやはやめちゃくちゃ面白い! あら恋の音楽の出来方の片鱗を見た!
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 石川幸穂
photo by 原田昴 (@shohnophoto)
不穏なときほど重くて粘り気のある、タフなダブが必要
──最新アルバム『響鳴』は前作『燃えている』(2022年)から1年半ぶりのリリースとなります。構想はどんなタイミングで浮かんだのでしょうか。
池永正二(以下、池永):『燃えている』を作っているあたりで、次は短くて初期衝動的なダブがしたいって思っていて。そのイメージを形にしていった感じ。やりたいことがあったので作りやすかったです。
──ダブ曲というと、“Round”、“Stance”、“Dawn”でしょうか。ここまでダブ色の強い曲をやるのかと、僕はちょっと意外でした。
池永:うん、あら恋(あらかじめ決められた恋人たちへ)(以下、あら恋)ではやるべきではないとなぜか思っていて。
──“共振”、“Come”、“Contact”のほうが、いままでのあら恋のイメージに近いなと思いました。
池永:アルバムのはじめと終わりの曲が先にできていたんですけど、全編ダブっていうのはあら恋っぽくないというか、盛り上がりが欲しいと思って。最後に作った“共振”がなかったらサラっと引っ掛かりもなく曲が並べられただけのアルバムになってたかもしれない。
シングルがメインの時代だけど、やっぱりアルバムとしての作品が、俺らのスタンスなんですよね。それをちゃんと成立させるために、あっちいったりこっちいったり、ロードムービー的に物語として聴き飽きない構成にしました。ダブじゃない曲でも今回、低音をかなり効かせたんですよ。最近は音像まで作曲の領域だと思っていて、自分でミックス、マスタリングまでやっています。
──どうしてダブがやりたくなったのでしょうか?
池永:多分いまって、共通認識としてみんな“不穏”を感じてると思うんですよね。不穏なときになにを音楽でやるべきかって考えたときに、タフなものがいいのかなと。寂しい、悲しい曲よりも「タフ」な曲。それで、タフってなにかといったらダブだなと。リズムとベースが効いてるダブですね。あとは、自分自身もタフに生きていきたいなと思って。いちいち落ち込んだりしないで、流されないタフさが必要だなという考えになったんです。そういう音楽がしたいと思って、ダブに行き着きました。
──池永さん自身のなかで、タフに、強くあろうと思わせた具体的なことがあったんですか?
池永:社会情勢とか、物価上昇とかかな。SNSは地獄だし、戦争もあるし、どんどん状況が混沌としていってる気がして。僕自身は落ち込むほうでもなくて、暗くなってもしょうがないと思っているんだけど。いまこそ我々みたいなバンドマンの真価が問われる時代になってきた感じがする。
──確かに、音楽が持っている強さって大事ですよね。例えば、お笑いにはお笑いの強さ、演劇には演劇の強さがありますけど、それとはまた違う強さが音楽にはある気がします。
池永:そうそう。やっぱり音楽のライヴは特に迫力あるし。低音で体毛が震える感じとか、演奏と一緒に盛り上がったり、リズムに合わせて踊ったり、なんか強烈にグッときて脳が痺れるみたいな、ちょっと予測不可能な部分もあるし。それは音楽独特のものなんじゃないかな。それに、ちょっと前の時代より希望が持てない不穏ないまの時代のほうが、アンダーグラウンドの反骨精神のような、強烈で極端なものが合うと思う。
──なるほど。ダブの強さはどういったところにあると思いますか?
池永:リズムとベースかな。重くて粘り気のある、うねりのあるあの感じ。しかも昔のジャマイカのほうじゃなくて、ブリストル・ダブステップとか〈ON-U Sound〉とかの冷たくて硬派な音のイメージです。
──音にも温度の違いがあるんですね。
池永:あると思います。イギリスの楽曲からは曇り空が浮かぶし、ジャマイカの音楽は太陽が強い風景が浮かぶ。俺の見ている風景は燦々と日差しが降り注いでる風景ではなくて、ビルとかイオンのでかいファッション・モールが建っている、コンクリートな感じ。硬いアスファルトの上ばかり歩いてる。でもアスファルトを剥いたら実は下に土があるわけで。それってやっぱり異様な風景だと思うんです。でもずっとそういう景色で生活しているので、そんな感じの音楽になっていると思います。