「生きてるってすばらしい」とかそんな綺麗なことは言ってない——シンガー・ソングライター石井翠(amenoto)へのロング・インタヴュー後編
「幸せになれるはずがないのが当たり前」。ロング・インタヴュー前編で、こう言い放ったシンガー・ソングライター石井翠。彼女によるソロ・プロジェクト、amenotoでは、その独特な憂鬱さと、世界へのあきらめを表した詞世界がシューゲイザーを彷彿とさせる激しく歪んだギター・サウンドともに展開されている。もっと彼女の魅力を知っていただくべく、ライヴハウス〈Zher the ZOO YOYOGI〉の10周年コンピにしか収録されていない楽曲『アンドロイドの夢』を歌詞ブックレットとともに無料配信。そして長編インタヴューの第2部を公開。彼女にしか抱けないであろう人生観に迫った。
「アンドロイドの夢」のフリー・ダウンロードはこちらから(2015年9月13日まで)
6月に発売したamenotoのニュー・シングル
amenoto / 逆エントロピー
【配信形態 / 価格】
WAV / ALAC / FLAC / AAC / mp3 : 単曲 205円 アルバム 463円
※アルバム購入で歌詞ブックレット(PDF)が付属します
【Track List】
01. 逆エントロピー
02. 暗転
03. 見えなくなるまで手を振ろう
INTERVIEW : amenoto
幸せの捉え方を真っ向から否定し、現状が不幸ではないと言い切る。そんなシンガー・ソングライターamenotoとの闘いの記録第2章。ぜひ前編から読んでください。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 鶯巣大介
写真 : 大橋祐希
ロング・インタヴュー前編はこちらから
大体幸せって感じる状態のときって、なんかぼやっとしてる
——幸せにはなれないっていうのはなんで?
人は不幸か、不幸じゃない状態というか。それくらいしかないと思っていて。幸せってあるんですかね(笑)。例えば付き合っていて「あー幸せだ」とかその瞬間に思っていても、いつかは別れるわけじゃないですか。そしたら結果的には幸せじゃないですよね。何事もいつか終わるのが当たり前だと思うんです。やっぱり、先のこと先のことを考えちゃうじゃないですか。
——「幸せなんてない」っていうのは、石井さん自身に限らず、みんなってことですか?
はい。不幸です、みんな。えっ、だって辛くないですか?
——僕は全然大丈夫ですよ! 別に人生辛くない(笑)。ただなぜ石井さんから見て、僕も辛そうに見えるのかっていうところが気になる。
生まれてくるじゃないですか、幼稚園行きたくないじゃないですか。で小学校上がっても、行きたくない。けど行かなきゃいけない。だから「あー辛いな」って。
——いや、僕は行きたかったです(笑)。だから大丈夫です。でも石井さんは行きたくなかったんですね。
みんな行きたくないんじゃないですか? 社会人になったら今度は「仕事だるいけどお金ないから、稼がなきゃな」とか。
——そういう人もいるけど、そうじゃない人もいると思うけどなぁ。なんでみんなが不幸にみえるんだろう。
いやぁー、不幸が基準だと思ってた(笑)。なんか虚しいというか、なにやってんだろみたいな。いま幸せだと思っていたとするじゃないですか、でもどうせ死ぬしって。
——「いまから彼女とデートだ!」っていう状態で交通事故にあったら不幸かもしれないですけど、人生を全うして死ぬんだったら、不幸じゃないかもしれないじゃないですか。
それはおめでたいだけ…。
——おめでたい(笑)。
大体幸せって感じる状態のときって、なんかぼやっとしてるじゃないですか? あれって脳みそがなんかぱぁーって幸せになる物質が出てて「あ、幸せ!」みたいな感じになっちゃってボケてるだけなんですよ! 普通に楽しそうに生きてる人とか見ても、それってどうなんだろうって思うし。
不幸がしっくりくれば、楽しくは暮らせると思う
——例えば、さも居酒屋から出てきましたみたいなハッピーオーラ満載で渋谷で大騒ぎしてる人と、お子さんを連れてすごい楽しそうに歩いてる親子がいたとして、両方ともにそう感じる?
はい。それが許せないわけじゃないです。けどなんで幸せでいられるのか、すごい不思議なんです。絶対嫌なことあるじゃないですか。なのに幸せって思えるのってなんでだろうって。
——じゃあギャンブルで大当たりした人とかは? これは楽しそうな状態っていうよりも、確実に幸せですよね。
でも当てるような人は散々外れてるわけじゃないですか。その当たりでなんか調子乗っちゃって、次どんどんマイナスを出して不幸になるかもしれない。だからその当たりは不幸じゃないですか? そこで当たらなかったら、そんな不幸にならなくてもすんだかもしれない。
——石井さん自身の話に置き換えたとして、作品が100万枚売れたらこれは幸せじゃないですか?
嬉しいです。でもそこまで行ったら調子に乗って、いまもそんなよくはないけど、人間としてダメになるんじゃないかなと。
——そうか。とにかくすべてのものには確実に終わりが来るというか、そういう考えが根底にあるんですね。そういう視点から描かれた石井さんの歌詞って、そういう事象を風景画のようにただ捉えただけなのか、それともなにかメッセージみたいなものがあるんですか。
世間一般的な常識からした不幸の状態にある人がいたとして、それをその人が受け入れる。自分自身も「友達もいないし、収入も少ないから、私は不幸だ」って世間の常識に騙されていたというか。でも、そのいわゆる不幸がしっくりくれば、楽しくは暮らせると思うんです。
やっぱり、社会に対して長年受けてきた嫌な感じがあって
——なるほどね。世間で不幸って思われてる状態で生きてみたら、自分としてはそんなに不都合はないから、これは不幸じゃないんじゃないかと。でもだからって、それが幸せってことにはならないんですよね?
はい。それに嫌いな社会のなかで、幸せになったら、なんか負けた気もするんですよね。社会のことだいたい嫌いなんですけど、その枠組で幸せになったら、社会を認めてることになっちゃう。自分が負けたっていうか。やっぱり、社会に対して長年受けてきた嫌な感じがあって。拭えないんですよね。
——そういう社会に向けて作品を発表することって、どういう意味があるんですか?
よく社会に溶け込めない人が犯罪をしたり、ってことあるじゃないですか。それってやっぱり社会に対して仕返ししてやりたいみたいな気持ちがあると思うんですけど、そんな感じです。今回の歌詞のなかでも、例えば「生きてるってすばらしい」とかそんな綺麗なことは言ってない。むしろそうじゃないっていうことをやんわり言ってるんです。
——なるほど。仕返しなんですね。
はい。売れれば、売れただけ、社会に対してざまぁみろって。
——つまり買ってくれる人は、みんな不幸とされていることを、自分のなかで受け入れてる人かもしれない。
やっぱ同じような人ってきっといると思います。
ロング・インタヴュー前編はこちらから
過去作はこちら
社会からこぼれ落ちた孤独でネガティヴな魂が、UKロック / ポストロック / オルタナティヴ / シューゲイザーをベースに、自らの生を切り刻むように激しく切なく歌い上げる、amenotoのデビュー・ミニ ・アルバム。
amenotoによる、初のリリース音源。このころから現在のスタイルに通ずる、鋭いロック・サウンド、歌詞スタイルが垣間見える。
LIVE INFORMATION
2015年8月14日(金)@代々木Zher the Zoo
2015年8月19日(水)@下北沢CLUB251
2015年8月28日(金)@新宿Motion
2015年9月10日(木)@新宿Motion
PROFILE
amenoto
全詞曲&編曲を手がける石井翠のソロ・プロジェクト。社会からこぼれ落ちた孤独でネガティブな魂が、Radiohead / MUSEをはじめとしたUKロック / ポストロック / シューゲイザーや、中村文則 / 伊藤計劃らの日本文学をベースに、自らの生を切り刻むように激しく切なく歌い上げる。
2013年夏より新宿Motion、下北沢CLUB251、高円寺HIGH、渋谷eggman等を拠点に、UK直系のギター・サウンドを奏でる4人のバンド編成でライヴ活動をスタート。2013年11月7日、初の自主音源『amenoto ep』をライヴ会場 / 配信 / disk union限定で発売。同時に初のレコ発ツアーも東京 / 大阪 / 神戸 / 名古屋にて敢行。2014年4月23日、サウンド・プロデュースに深沼元昭(PLAGUES, Mellowhead, GHEEE)を迎えた初の全国流通盤となるデビュー・ミニ・アルバム『すべて、憂鬱な夜のために』発売。レコ発ツアーも仙台 / 名古屋 / 大阪 / 京都 / 東京にて実施。2015年3月18日発売の、Zher the ZOO代々木10周年記念の女性ボーカル・コンピ『HERE COME THE GIRL'ZOO』(UKプロジェクト)に参加。新曲「アンドロイドの夢」を収録。2015年5月27日、2nd ep『逆エントロピー』をライヴ会場 / 配信 / disk union限定で発売。