対談:川瀬拓(ぐるぐる回る)×飯田仁一郎(BOROFESTA)
前代表・竹内氏の急逝により、昨年新たな体制で再スタートを切ったインディー・ミュージック&カルチャー・フェスティバル“ぐるぐる回る”。主催者不在という状況のなか、「終わらせたくない」という気持ちで代表を継いだ川瀬拓は、今年からは“ぐるぐる回る”の名のもとで、新たな試みを次々とスタートさせた。いっぽう、“ぐるぐる回る”にもキュレーター(イベント等の企画を担う専門職)として参加し、今年で12年目を迎える西のインディー・フェス、BOROFESTAの代表である飯田仁一郎。10年以上フェスを作り続けてきた彼に、“ぐるぐる回る”はどのように映るのか、また彼自身がBOROFESTAを続ける理由とはなんなのか。異なる背景を持つ2人の対談は、互いのフェスの話題にとどまらず、これからのローカル・フェスの在り方、ライヴハウスへの目線にまで及び、2人の見つめる音楽シーンの未来像が浮かびあがる内容となった。
インタビュー&文 : 柳川春香
写真 : 松井誠
つぎのぐるぐるは「ぐるぐるTOIRO2013」!
2013年6月8日(土)、9日(日) 会場 : さいたまスーパーアリーナTOIRO
開場 : 12時30分 / 開演 : 13時
前売 : 1日券 3,500円(1ドリンク付き) / 2日券 6,000円(2ドリンク付き)
当日 : 1日券 4,000円(1ドリンク付き) / 2日券 7,000円(2ドリンク付き)
【6月8日(土)出演アーティスト】
曽我部恵一BAND / BiS -新生アイドル研究会- / かせきさいだぁ&ハグトーンズ / チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン /A TATA / KONCOS / 虚弱。 / 3markets(株) / 大森靖子 / (M)otocompo / 4 bonjour's parties / LAGITAGIDA / もらん / The eri-nyo Quintet / batta / This is not a business / and more
【6月9日(日)出演アーティスト】
ギターウルフ / DE DE MOUSE + Takashi Yamaguchi / younGSounds / 田我流 / SuiseiNoboAz / uri gagarn / 下山(Gezan) / Crypt City / Limited Express(has gone?) / ゲスの極み乙女。 / 転校生 / CRYV / はなし / ライムベリー / 戰車倶楽部 / and more
>>>ぐるぐるTOIRO2013 HP
ぐるぐるTVの放送大決定!
2013年6月6日(木) @OTOTOY TV♭
ぐるぐるTV~ぐるぐるTOIRO2013大スペシャル!~
一色に染まっていないのが、“ぐるぐる”のいいところ(川瀬)
——改めてお二人と、“ぐるぐる回る”の関わりをおさらいしたいんですが。
川瀬 : 前身だった廃校フェスの2度目の開催のとき、「廃校フェス」って名前に惹かれてボランティア・スタッフとして参加しました。飯田さんが最初に参加したのも同じ年ですよね。
飯田 : 2009年ですね。それは当時の主催だった竹内さんから誘われて、やっぱり新宿のど真ん中の「廃校」っていう場所、名前に惹かれて、絶対やろう!と思いました。でも、タイトルと場所は100点だったんですけど、実はやり方の違いには最初びっくりして。僕らは各アーティストに主催がきちんと挨拶してっていう、自分たちのやり方しか知らなかったけど、竹内さんのやり方は、キュレーターに丸投げしちゃうんです。それは、アーティストから見るとドライにうつってしまうし、そのやり方を消化するには、イベントが終わるまでかかりました。でも終わってみて、お客さんが1000人来て、来た人がみんな楽しかったって言ってくれて、そういう結果が出たときに初めて「このやり方って全然アリなんだ」って思いましたね。
川瀬 : 僕はそもそもフェスやイベントの作り方についてそこまで知らなかったので、竹内さんのやり方を疑問に思ったりはしなかったんです。竹内さんの作った“ぐるぐる回る”のやり方は、キュレーターや企画をやりたいって人がいたら、まず企画書を見せてもらって、それでオッケーを出したら予算を渡して、あとは全部任せるってやり方で。
飯田 : ほんとに他のどのフェスとも違うんですよ。「僕らが運営やお金の管理はしますから、あとはとにかくいいもの作ってください」って任せてくれてる。実績とか経験がある人にお願いしているわけでもない。俺なら怖くてそんなことはできないから、じつは凄いんですよ。
川瀬 : キュレーター制に関しては、今は良い方向に向かっているから成り立ってると思うんです。普段アンダーグラウンドでやっているような人たちが、フェスっていう表舞台に出てきて、メジャーな人と一緒にやるっていうのもロマンがあると思うし。一色に染まっていないのが、“ぐるぐる”のいいところだと思っています。
——廃校フェスから“ぐるぐる回る”に場所が変わっても、“廃校フェス”時代のカオスな雰囲気は見事に引き継がれていますよね。
川瀬 : 去年の“ぐるぐる回る”にthe telephonesを観に来てくれた17歳の高校生が、「“ぐるぐる回る”に来て、自分の音楽のキャパシティが広がりました」ってことをTwitterに書いてくれていたのを見て、すごく感動したんですよね。やってる意味があるなと思いました。
飯田 : “ぐるぐる回る”の理想は、ジャズ・ステージがあったりクラシック・ステージがあったり、っていう状況ですよね。
川瀬 : ジャンルもそうですし、年齢や活動ペースに関わらず、いろんな人に出てもらいたいです。お客さんも、埼玉スタジアムなら設備も整っていて、休憩スペースもトイレも沢山あるので、普段ライヴに行きづらい年配の方や子供連れの方でも来てもらえたらと思います。
飯田 : “ぐるぐる回る”は俺やゆーきゃんのような、何年も音楽販売の最前線にいたり(ゆーきゃん : BOROFESTA主催、SAUNRAIN RECORDSの店長)、イベントをやってきたような人間はいないから、ブッキングで勝負するのは難しいと思うんです。でも実は絶対的にBOROFESTAが負けてると思うのは、そのカオス感。BOROFESTAでは、「ブッキング以外になにができるか?」ってことを、わざわざ何時間も話し合いしなきゃいけないんですよ。やぐらを組んだらどうかとか、龍をつったらどうかとか(笑)。それをぐるぐる回るはしなくていい。会場はスタジアムで、一周回ったらステージ全部見られるって、意味がわからない(笑)。そういうオリジナリティがあるのは強いと思います。
——逆に川瀬さんも前回のBOROFESTAに参加されたそうですが、“ぐるぐる回る”と比べていかがでしたか?
川瀬 : すごいなって思ったのは、スタッフひとりひとりが、自分たちがBOROFESTAを作っているっていうことへのプライドを持っているんですよね。主催の人たちも、「君たちもBOROFESTAの一員なんだよ」ってことをちゃんと伝えていて、その意識の高さはすごいと思いました。
飯田 : この前、NHKで放送してたAIR JAMのドキュメントを観たんですけど、横山健さんがステージから降りて、いろんな人に挨拶している姿を映してたんですよ。それはつまり、「あのハイ・スタンダードの健さんがスタッフのところに降りてきて挨拶してくれた!」っていうことを描いてたと思うんです。それを見て、俺たちは違うなって。俺たちは逆に降りないんですよ。「上がってこい」って言うんですよ。出演者だって俺らだってどのスタッフだって、お客さんに対する責任は一緒だから、ここまで上がって来いと。
——その「上がってこい」ってメッセージを、具体的にどうやって伝えるんですか?
飯田 : 担当になった人に、とにかく任せる。それが人を伸ばす一番の方法だと思うんです。で、ボランティアでも、ミュージシャンでも、代表でもみんな立場は一緒で、お客さんを一人でもよぶ以上、そこには責任が発生するってことを伝えるんです。だから俺らのフェスっていうのは、どんどんリーダーが表れてくるんですよ。
川瀬 : BOROFESTAのボランティア・スタッフを、ずっとやってる人はいるんですか?
飯田 : 社会人で長く続けている人も多いけど、大学生はみんな卒業していきますね。みんな人生があるから。あとは現場を経験して、もっとステップアップしていく子もいるし。
——“ぐるぐる回る”もキュレーターやボランティア・スタッフから、次のリーダーになるような人を輩出したいという気持ちはあります?
川瀬 : いや、今のところはやれればいいというのが第一ですね。僕らにとっては去年がスタートだから、輩出とまではまだ思ってないです。もちろん去年参加した人が今年も参加してくれたら嬉しいですし、巻き込んでいきたいとは思っているので、そのためには「次にこうしたい」ってヴィジョンを語ることも大事かなと。“ぐるぐるTOIRO”や“ぐるぐる回らない”も、みんなのパッションがあるうちに、次のおもしろいことをやりたいなと思って。
——その“ぐるぐるTOIRO”や“ぐるぐる回らない”についてですが、そもそも廃校フェス時代のアイデンティティは「廃校でやること」にありましたよね。それが埼玉スタジアムに会場が変わって失われたとき、引き継がれたのは「キュレーター制度」だったと思うんです。でも今度の“ぐるぐるTOIRO”や、ライヴハウスで行う“ぐるぐる回らない”では、その制度もなくなっていて。そうなると、“ぐるぐる”の名前を冠してやるイベントのアイデンティティって、どういうところにあると思いますか?
川瀬 : “ぐるぐる回る”ほど、はっきりとしたキュレーター制度ではないけれど、自分一色のイベントにはなっていないと思います。たとえば“ぐるぐるTOIRO”では、プラレール演奏という企画をBlack Boxって集団にやってもらうんです。それはTOIROの一室でおもしろいいスペースがあったので、「このスペースでなにか企画をやりませんか」って声をかけて、あとは完全に彼らに任せているんです。個人の力では発想に限界があるので、責任は僕が取りますが、あとは任せるってやり方はしていきたいと思っています。
新しく入って来れる、戻って来れる、そして今を楽しむ(飯田)
——では、“ぐるぐるTOIRO”のメインのブッキングに関しては、どのように決めていっているんでしょうか?
川瀬 : 今回は色々な人の意見を参考に、スタッフで話し合いながら決めていますね。ただ、これまでの“ぐるぐる回る”や廃校フェスに出てもらった人や、これから出てほしい人というのはある程度意識しています。あとはフェスをやる上で、一組の集客に頼るようなことはしたくないと思ってます。BOROFESTAはどうですか?
飯田 : もし3000人呼んでくれるアーティストが一組決まったら、あとの99%好きなことしますよ(笑)。もちろん組み合わせというのは意識しますけど、BOROFESTAがしたいことは、実は「継続」なので、絶対に赤字を出したらダメなんです。以前大阪の野音で開催したときに、2日間で200万の赤字を出して、そのときはもう続けられなかったんですよ。現実的に赤字を返していくってことの辛さもそうですけど、精神的に負けた感が大きくて。でも、負けたときに初めて気づいたこともありましたけどね。
——なぜ「継続」が一番大事だと思うんでしょうか?
飯田 : 僕はいままで手伝ってくれた人を悲しませたくないから。俺の理論はそこなんですよ。関わってくれた人たちに、「BOROFESTAっていうものが昔あったんだよ」って言わせたくない。続けてきたものがなくなったときの、関わってきた人たちの喪失感ってハンパないじゃないですか。それが嫌だから続けたいんですよ。だから、沢山のバンドがプレゼンしに来てくれるけど、「俺たちはお前ら大好きだから出させてあげたいけど、申し訳ないけどリキッド・ルームをソールドアウトできるところまでいかないと出せないんだ。俺たちにとって、集客はとても大事なんだ。」ってことを、はっきり言います。もちろん、おもしろいことができなくなったらやめるとか、「続けない」ってことの格好良さもあるんですけど、俺らは続けたいんです。
——その「続けたい」って気持ちは、最初からあったわけではなく、続けていくうちに生まれてきたものなんですよね?
飯田 : 考え方が変わったのは、3年前に、「俺はもしかしたらBOROFESTAをデカくしたいんじゃないか」って思ったんですよ。BOROFESTAが軌道に乗ってきて、「もしかしたら京都で1万人、2万人規模のフェスをやれるんじゃないか?」って。それでめっちゃ悩んで、JOJO広重さんに占ってもらったんですよ。で、言われたのが、「飯田君のやろうとしてることは、1回目は失敗する。でも2回目に成功する。で、2回目に成功したとき、飯田くんの周りにいる人は全員変わってる」って。俺はそれを聞いたときに、ああ5千人でいいやと。1万人規模のイベントになったらリスクも大きくなるし、そのリスクを自分の仲間は背負えないだろうと思って。そんなことを俺はしたいわけじゃない、やっぱり自分の仲間と一緒にやりたいから、5千人規模でおもしろいことがやれればいい。デカくなっていくアーティストが途中で出るフェスであればいいと。だから僕らのフェスは、「新しく入って来れる、戻って来れる、そして今を楽しむ」ってところだけで成立してていいと思ってるんですよ。
川瀬 : それは12年続けてきたからこそできた哲学ですよね。“ぐるぐる回る”は、去年に関しては開催することが第一でしたけど、今年はちゃんと続けるための覚悟を決めたいと思っています。ただ、埼玉スタジアムってやっぱりサッカー場で、音楽をやる場所ではないから、毎年必ずやれるわけではないんです。じつは今年の“ぐるぐる回る”は、埼玉スタジアム側とギリギリまで交渉したんですが、さまざまな事情から、開催を断念せざるをえない状況になってしまったんです。場所を変えてやらないかって話もあったんですけど、やっぱり埼玉でやりたいから、今年はお休みして、“ぐるぐるTOIRO”や“ぐるぐる回らない”を頑張ろうと思っています。
——「埼玉」っていうアイデンティティは、川瀬さんに代表が変わったことで加わった点ですよね。
川瀬 : そうですね。僕自身が大学時代を埼玉のバンドマンとして過ごして、西川口Heartsのブッキングをやっている伊藤(大輔)さんなんかとも一緒に作っていっています。逆に、そこに頼るしかなかったっていうのもあるんですよ。DIYのローカル・フェスだから、地域を巻き込んでやっていかないと、続かないかなって思ってて。
飯田 : これからのフェスは、それがなくちゃ。僕は、地元のお祭りがフェスに変わる時期が来た、と思ってるんですよ。つまり、祇園祭とかねぶたまつりとか、そういう既にあるものではなくて、これから若い子が新しく作るものはロック・イベントであればいいと思う。どんどん同じようなフェスが地方に起こればいい。そうすれば地方独自のものが出てくるから。それも東京のバンドばかりを呼ぶんじゃなくて、地元の人たちがもっと出て、メジャー・レーベル所属バンドもたまには出て、町の魚屋が出て、みたいな。もう東京でフェスをやっても仕方がなくて、ローカルの人たちが自分の街を盛り上げて、新しい産業を作るために、ロックなりフェスなりを利用すればいいと思う。だから“ぐるぐ回る”も、去年から埼玉に寄ったのはいいことですよ。
——逆に東京はフェスの乱立によって、通常のライヴハウスのイベントに足を運ばずとも満足できる状況にもなってきている気がするんですが。
飯田 : 地方ではフェスを媒介にしてライヴハウスに足を運ぶ状況はまだ起こってます。東京は、小さいフェスがどこの街よりもあるんだから、そのアイデアに負けないライヴハウスのノリを出す方がいいと思いますね。小さいフェスってやっぱりリスクがでかいから、みんなアイデアを出すんですよ。そうじゃないと勝てないから。そういう工夫が楽しいからアーティストもフェスに出るのであって、ライヴハウスも負けないようにアイデアで勝負したり、もっとバイタリティを発揮する人が出てくれば、変わってくるんじゃないですかね。
川瀬 : フェスを観に来てくれたお客さんが新しいバンドと出会って、そのあとライヴハウスでのイベントやワンマンに足を運んでもらうっていうのが、やっぱり理想なので。“ぐるぐる回らない”は、埼玉じゅうのライヴハウスを回るイベントにもしたいんです。次は熊谷でやろうと思っているんですが、川越でも所沢でもいいですし、秩父でもいい。そして東京でもやれたらと。埼玉でイベントをやりたい人には“ぐるぐる”の名前を使ってもらって、一緒におもしろいイベントを作っていきたいと思ってます。“ぐるぐる”をきっかけに、埼玉のライヴハウスが盛り上がってくれたらいいなと思って。埼玉のバンドマンにも、埼玉スタジアムでの“ぐるぐる回る”に出ることを目指してもらえるようにしたいですね。
——ありがとうございました!
ぐるぐるTOIRO2013 出演者の配信楽曲もチェック!
PROFILE
川瀬拓
ぐるぐる回る実行委員会代表。普段は自営業。
川瀬拓の過去のぐるぐる回る特集はこちら!
>>埼玉音楽の未来会議第2弾
>>川瀬拓(ぐるぐる回る)×辻友哉(ETERNAL ROCK CITY.)対談
飯田仁一郎
海外を飛び回るオルタナ・バンドLimited Express(has gone?)、配信サイトOTOTOYの編集長、オトトイの学校長、DIYフェスBOROFESTA主催、レーベルJUNK Lab Records主催、さらには大人気のリアル脱出ゲームをブレイクに導く。現在ニュー・アルバム制作中!!
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