いまこの瞬間の混沌に応えたい──Have a Nice Day!、アルバム『Rhapsodies 2020』をリリース
東京のアンダーグラウンドに身を置き、この街を見つめ歌うバンド、Have a Nice Day!がニュー・アルバム『Rhapsodies 2020』をリリースする。ライヴ活動が停止したこのコロナ禍において制作された本作は、楽曲の制作工程をすべて生配信で公開し、作業が進むたびに音源がSoundCloudで共有されるという、楽曲完成までの道筋をあけっぴろげに晒す姿勢がとられた。さらには、作曲者の浅見北斗自身がnoteに綴った各楽曲のライナーノーツではバンドのルーツとなる楽曲の紹介からいま関心のあるアーティスト、さらには刺激を受けた映画までと、今作を構成するありとあらゆる成分の出典を細やかに解説し、手の内を隠すことなくリスナーに開示した。『Rhapsodies 2020』制作にあたり彼の頭の中にはどの様な思考が駆け巡っていたのか、チャンシマ脱退前のラスト・ライヴとなった2月のワンマン公演から自粛期間を振り返り、Have a Nice Day! の浅見としての観念を語ってもらった。さらに、最後には「売れなかったら恥ずかしい」と自らを追い込むほど大きな力をもった新曲の存在を示唆。「不気味」と話すその曲の正体とは一体。
先の見えない日常を吹き飛ばすニュー・アルバム!
2.27の恵比寿LIQUID ROOM公演の模様も同時配信!
INTERVIEW : 浅見北斗(Have a Nice Day!)
このインタビューは、楽曲のことはあまり聞いていません。だって浅見北斗は本アルバムの楽曲に関しては、すでに多くをさらけ出しているから。だから、インタヴューでは浅見北斗の心の奥底と対峙することにした。それがずっと彼らを応援してきたOTOTOYにしかできないこのアルバムを紐解く鍵だと確信している。
『Rhapsodies 2020』参考文献
noteに綴った各楽曲のライナーノーツ
https://note.com/powpow
https://www.instagram.com/haveaniceday_insta
Soundcloud
https://soundcloud.com/blackchinpilaboy
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 綿引佑太
誰かのためのロックじゃない、テメェがやりたいから鳴らすんだ
──メジャー・レーベルであるavexとの関係には慣れて来ましたか?
浅見 : 俺たちをマジで売ってくれって思います(笑)。韓流スターみたいにスタイルもバッチリで歌も上手くて曲もいい、だったら売れるじゃないですか。でも、俺らみたいな造形もぼやっとしていてカチッとしない、こんな雑なバンドでもセルアウトさせて一流のバンドに…なんて(笑)。avexっていう会社を傾けてでもHave a Nice Day! をセルアウトさせてくださいっていつもお願いしています。
──傾けてでも!?(笑)
浅見 : そうです。Have a Nice Day! の曲が広まることの方が普遍的な意味では優先順位は高いんじゃないかなって(笑)。
──昨年のメジャー・デビューはいちリスナーとしてかなり衝撃的でした。浅見さんにとってこの決断は勇気がいるものでしたか?
浅見 : 別に思い切った話というわけでもないですね。成り行きって感じで。
──もともと、メジャーで活動しようという狙いはあった?
浅見 : いやいや、全然。もともとは自分たちでアルバムを出すつもりで曲を作っていたんですけど、どのタイミングでリリースしようかなと考えているときに声をかけてもらって。自分たちだけでは手が回らないこともたくさんあるんで一緒にやってもらおうかなあと。
──“東京アンダーグラウンド”代表と宣言していたので、メジャー・デビューには抵抗があったのかなと。
浅見 : 別に“東京アンダーグラウンド代表”じゃないです(笑)。
──ええ!!
浅見 : いやいや(笑)。真面目に答えるなら、メジャーに行ったからって自分の精神性まで変わるわけじゃないんだから別にどこ行ってもいいじゃん、いちいち文句言うなよって感じですね。メジャーなのかインディーなのかなんてわれわれにとっては非常に些細なことですからね。
──チャンシマ(dr.)さんが今年の2月に脱退されましたが、脱退までの経緯について教えていただけますか?
浅見 : 前作『DYSTOPIA ROMANCE 4.0』をリリースしてから、対バンやイベントでこれまで共演して来なかった自分たちより少し若い世代のアーティストとライヴをする機会が増えて、ふと、これはダメだと思ったんです。自分たちの演奏が下手なのは知っていたけれど、目指している場所に向かうためには、自分たちの演奏に対して「大丈夫かな」っていつまでも不安を抱えていちゃ無理だなって。いちばん長く一緒にバンドを続けてきたし、チャンシマがいいやつなのも知っているけど、俺は「こう叩いて欲しい」って彼に上手く伝えることができないし、彼もそれに応えることができない。別にavexがどうとかではなく、これからいこうとしている場所にはこれまでのハバナイでは難しいと思った結果です。
──確かに彼ならすぐそのことを理解してくれそうですね?
浅見 : そうですね。本人もそうだよと。求められたときに応えられる自信も正直ないし、多分できないと思うと。自分がいることによってブレーキになるであろうことも感じていたみたいです。
──チャンシマさん以外のお2人、中村(むつお)(gt.)くんと遊佐(春菜)(key.)さんは技術的にもパッション的にも浅見さんについてこれている感じなんですか?
浅見 : 技術的なことで言えば自分も含めてまだまだ厳しいですが、Have a Nice Day!云々ではなく自分自身がミュージシャンというものになろうと手を伸ばそうとしている。そういう意味では「もっとこうしてもらいたいんだ」って言える相手ではあるかな。
──なるほど。2月27日には恵比寿LIQUIDROOMでのライヴが決行されましたが、思い切った判断でしたよね。
浅見 : そうですね。その前日にはLIQUIDROOMとかO-EASTみたいな1000人くらいのキャパのライヴが全部中止になって。「俺らしかやらないんじゃないかな」と思ったんですけど、この瞬間を逃したらチャンシマとの最後のライヴもやれそうにない。それにあの時はまだ、自分たちのことは自分たちのルールの中で決めようとしていた時期だったから、ライヴ開催を決めました。
──自分たちのルールというのは?
浅見 : それはもう、Have a Nice Day! が東京の街を歌うバンドなんだから、東京の街がストップしない以上、自分たちの活動は止めないということ。ライブやコンサートは中止の判断をしているけれど、電車に乗れば死ぬほど人がいて、会社に行こうとみんなが動いている。そんな中でライヴだけが中止になるほど、音楽ってお行儀のいいものなのかい?って。ライヴハウスに行くことが危険か否かってことより、自分だけ安全な場所にいることのほうが不自然な感じがして。テレビやネットだと「外出たらヤバイ」っていう情報しかないから、やっぱり危ないのかなって思っていたけど実際、街はいつも通り動いてるわけでしょ。それなら自分たちのアイデンティティーとしてはやる方向に進むだろうなあと。
──「もう音楽なんて必要のないものだよ」って“SPRING BREAKS 2020”の歌詞で歌っているのは、その時の体験ですか?
浅見 : 「音楽は不要不急」みたいな言説がネットに上がったじゃないですか。俺はその通りだと思うんです。音楽は別になくても生きていけるし、必要ない。でも、これって聴き手側の意見なんですよね。じゃあ、俺たちミュージシャンはなんで音楽を作るのか。これは非常にロックンロール的な考え方ですけど、必要とされ、求められたからやっているわけじゃない、テメェがやりたいからやってるんですよ。そもそも、ロックっていうのは誰かのためのものじゃないっていうのが俺の根底にあって。自分の「音楽やりてぇ」っていう気持ちにたまたま共感してくれた人がいるだけであって、本来、いま目の前にいる人のために作っているわけじゃねぇじゃんって思っているんですよ。だから「音楽は不要不急なんだ」っていう言説に対して怒りもない。そうだよね、あたりまえじゃんって。ただ、なんかそれに傷ついて怒っている人がいるっていうのが、なんか俺は「う〜ん」ってなる。だってそういうもんじゃんっていう。全世界の人に「お前のやっていることは間違っている」と言われたとしても、自分が正しいと思うことを貫くっていうのが最大のカウンターになるわけじゃないですか。
矛盾を受け入れ、自分の信じる物を肯定し続けるというロマンス
──「音楽は不要不急だ」という投げかけに対して浅見さんは、「音楽とは必要不必要に関係なく、自分でやるものだからその通りだ」と。でも、それに対して「それはおかしい」であったり、「音楽がないと死んじゃう」みたいな反論をする人たちに対しては疑問符が浮かぶということですよね。
浅見 : そうですね。そこで議論をするのはおかしいなと。そもそも音楽は不要不急だっていう議論を投げかけてくること自体も俺は違うなって思うけど、それはそれとして。だけど、不要不急じゃないですよって議論しても意味がないし、それは議論すべきことではなく音楽や歌にすることによって吐き出されていくべき問題であって。リスナーとして「不要不急なんかじゃない」って訴えるのはいいと思うんですよ。でも、音楽を作っている人間がここで議論するっていうのはちょっと違うなと。議論よりも、あなたが作った音楽によってそれを証明するんじゃないのかなって。
──だから、自粛期間中は楽曲制作に活動をシフトしていった?
浅見 : そうですね。これまで自分は世界を見つめてそれを歌にしてきたわけで、いまこの瞬間の混沌に応えるためには歌を作るしかないなと。ずっと考え続けたことを歌に落とし込むことしか出来ないから。
──2月27日のライヴは実際にやってみてどうでしたか?
浅見 : やってよかったです。チャンシマを見送ることもできたし、Have a Nice Day! として自分のアイデンティティを貫徹できたというか。何より動員があったということは、その場にいたお客さんがそれを肯定してくれたわけだから。あのライヴがなかったらきっと、今回のアルバムはそもそも作ることはなかったんじゃないかな。2月27日の恵比寿LIQUIDROOMでのライヴを決行したっていう一つの向き合い方は、全世界としての正解ではなく俺たちの中の正解なんです。でも、それって幸せなことだと思うんですよ。ライヴを決行するっていう向き合い方を周りが赦してくれているわけだから。いろんな思いがあって自分の意思とは違う選択をしなきゃいけなかった人もいるわけだし。
──2月27日の時点ではこんなに長引くとは当然思っていなかった?
浅見 : 思ってないですよ。4月くらいには終わると思っていました。それまでは、この混沌とした状況の中で自分が作れる曲ってどんなものだろうってなんとなく考えてはいたけど、なかなか形にできなくて。ただ、4月になっても兆しが見えず「もしかしてずっと続いていくかも?」と思ったときに、自分のものの見方を確認するためにも曲を作ってみようとようやく踏ん切りが着いたんですよ。普段は曲作りにすごく時間がかかるんですけど、今作はさっと出来ました。そもそもこのアルバム自体リリースする予定は全然なくて。
ーSoundCloud上に曲を発表している期間にはアルバムを作るつもりはなかった?
浅見 : 1曲目を作り始めたときに「この混沌とした状況を1曲では絶対言い切れないな」とは思っていました。あの期間って1日ごとに状況が変化したり、みんなの意見がどんどん食い違っていく様子を目の当たりにしていた時期だったから、何回も言い直さないと伝わらないと感じていたし、既に言ったことでも別の角度からアプローチしなきゃダメだなとは考えていました。レンジを広げて表現してしまうと別の意味を含んでしまうから、1曲ごとのレンジをかなり絞って作ったんですよね。
──レンジというのは?
浅見 : 自分の言いたいことですね。
──なるほど。聴いている我々としては、どんどん発表される楽曲がアルバムになるとは当然想像もできずにいて、さらには歌詞をnoteに公開したり、制作の様子を生配信したりという、あの全部見せてやる感は一体どうして?
浅見 : 勘ぐられないためかな。
──どういうこと!?
浅見 : 俺含め、全ての人が不穏な気持ちになっている中で、自分の曲に裏があると思われるのがすごい嫌だったんです。たとえインターネット上だったとしても、この曲が生まれる瞬間を共有できた人たちとは、俺目線から捉えた曲の意味をより伝えることができるんじゃないかなと思って。
──補足事項はnoteに書いて。
浅見 : 今回は1曲ずつ曲の意味を絞って書いているので、Have a Nice Day! に近いリスナーには特に俺と同じ目線から曲を見てほしかったんです。
──浅見さんの言う「俺と同じ目線」というのはどういう目線ですか?
浅見 : 楽曲においてはロックンロールが中心にあるってことですかね。
──なるほど。浅見さんが初期から使っている「ディストピア」という言葉通りに世界が変化しているように感じましたが、それについてはどう捉えていますか?
浅見 : 自分が思っていた以上にデカく、なおかつ根が深いなと。この中にロマンスはあるのだろうか、いやこの中でロマンスを感じられるのだろうかっていう、不穏な気持ちになりましたね。だからこそ、とにかく自分のやってきたことを1回確認してみようと思って『Rhapsodies 2020』を作りました。
これが売れなかったらハバナイを諦める
取材終了間際....
浅見 : 俺、飯田さんにすごい言いたかったことがあるんですよ。
──え、どうしました?
浅見 : すげぇ強力な曲ができたんですよ。
──そうだそうだ! この前Twitterで「もうハバナイやめる」みたいなこと呟いてたじゃないですか。
浅見 : これはネガティヴな意味では一切ないんですけど、こんな強力な曲を作ってもヒットしなかったらHave a Nice Day! というバンドの構造自体にそもそも問題があると思うんですよ。こんな才気溢れる俺みたいな作詞作曲家が、自分のためだけにひたすら売れない曲を作り続けるっていうのは流石にちょっともったいないと思って。俺はもしこの曲がヒットしなかったら取り敢えずこのバンドを諦めようと思ってる(笑)。
──そういうこと新作出す度毎回言ってません(笑)?
浅見 : まじすか(笑)、でも今回はガチです。いい曲はいくらでも書けるんですけど、この新曲みたいに楽曲をこういう風に持ち上げることはもう無理だなって思うくらい、自分にとっても遠い曲が生まれてしまって。
──いつ発表されるんですか?
浅見 : 来年の2月とかですね。
──え! そんな遅いんですか? 1曲なのに?
浅見 : 次のアルバムに入る曲なので。
──なるほど。“わたしを離さないで”よりいい曲?
浅見 : 不気味です。
──不気味!? 不気味なくらいすごい?
浅見 : 日本という国で歌謡曲を本気で作ろうとするとこういう超不気味な曲になっちゃうんだなと。はっきり言って俺もよくわかんないです。でも、とにかく強い曲ってことはわかる。「オレめちゃくちゃ才能あるぜ!詩もいい!メロディーもいい!もちろん売れる気満々!」みたいな曲作っておいてもし売れなかったら本当に恥ずかしい(笑)。
──そんなに。
浅見 : 曲を作るってやっぱり、すげぇ変な行為なんだなと思いましたよ。“フォーエバーヤング”とか“Blood on the mosh pit”までは、自分の心の範囲の中で作れていたんですけど、“わたしを離さないで”あたりから心の範囲をちょっと越えたような感覚に突入し始めていて。でも、今回の曲はどう冷静に考えても心の範囲にない、この感じは初めて。“Night Rainbow”を書いたときはまだ自分を残せているかなあという感覚があったんですけど、いよいよそこすらも越えてしまった気がしています。自分は溶けてなくなってしまったような感じがするな。まあそれはそれで非常に清々しいですが。
──“Night Rainbow”とか“僕らの時代”からすると、『Rhapsodies 2020』の雰囲気って全然違うじゃないですか。
浅見 : そうですね。さっきも言いましたけど、自画像的な作品になりました。
──今回、『Rhapsodies 2020』をリリースしたことで耐え切れなくなったんですね。それでまたそっち側に(笑)。
浅見 : どっち側に!?
──自分じゃないものというか。
浅見 : 確かに。でもここで一度『Rhapsodies 2020』を作ったからこそ自分じゃない方向に振り切れたかもしれないですね。今作みたいな頑丈な足場がなかったら、こっち側の不気味な曲は作れなかったです。とりあえずそんな曲ができたんで来年セルアウトできなかったら羞恥心に耐えられない気がしますね(笑)。
編集 : 安達瀬莉
『Rhapsodies 2020』のご購入はこちらから
『Rhapsodies 2020 [NEO TOKYO OLYMPIA!!! at 恵比寿 LIQUID ROOM_2020.2.27]』のご購入はこちらから
LIVE SCHEDULE
“Rhapsodies 2020” リリース・パーティー Have a Nice Day! ワンマン・ライヴ C19 Rhapsodies
2020年10月2日(金)@渋谷TSUTAYA O-EAST ※観客300人限定
開場 : 18:30 / 開演 :20:00
チケット : 前売り券 ¥4000 / 当日券 ¥4700(ドリンク代別途 ¥600)
ライヴの詳細はこちら
過去作もチェック!
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PROFILE
Have a Nice Day!
通称"ハバナイ"は東京を中心に活動するニューウェーブ。ジャンルを超えた踊れる楽曲と、そこに乗せられるロマンティックな歌詞で魅せる。シンガロングを生み出す熱狂的なライブが特徴。
【公式HP】
http://habanai.jp/
【公式Twitter】
https://twitter.com/scumparkhand