財務省のSNS(ネット交流サービス)に異変が起きている。「財務省解体」「財務省は国民の敵」といった中傷コメントが急増しており、こうした動きは国民民主党の躍進と密接に関わる。国民民主の玉木雄一郎代表も「中傷や陰謀論はやめて」と火消しを図るが、収束の気配は見えない。
公式X投稿ごとに数百件
「この度、令和6年10月版を公表しましたので、是非ご覧ください」
10月31日に財務省が公式X(ツイッター)で「日本の財政関係資料」の刊行を伝える投稿をしたところ、刊行とは無関係の2000件以上のコメントが集まった。「やってきたことは国賊そのもの。解体して歴史に幕を閉じましょう」「財政なんか考えるより国民から搾取することを止めて欲しい」。ほとんどが財務省に対する中傷だ。足元では、公式Xで投稿をするたびに数百件以上の批判コメントが寄せられている状態だ。
こうした異常事態について、加藤勝信財務相は11月15日の閣議後の記者会見で「財政や税制などについてさまざまな意見をいただいているが、意見を真摯(しんし)に受け止めた上で、適切な経済財政運営を財務省としても引き続き図っていけるように努力していく」と述べた。一方で、ある財務省職員は「単なる広報しかしていないのに、これほどまでに財務省に対する中傷が殺到するとは」と肩を落とす。
財務省への中傷は、衆院選(10月15日公示、27日投開票)を境に急増した。9月の財務省のXの投稿に対しては、批判的なコメントはあるものの、数十件程度。衆院選後から「#財務省解体」「#財務省は国民の敵」などのハッシュタグ(検索目印)をつけた投稿が目立っている。
「やり玉」戦略 対立構図生む
異変のきっかけと見られるのが、衆院選での国民民主の大幅躍進だ。
国民民主の代表である玉木氏は財務省出身だが、衆院選では消費減税などを公約として打ち出し、たびたび財務省をやり玉に挙げてきた。10月16日に福岡県内であった街頭演説では、榛葉賀津也幹事長が「今、永田町、霞が関には、ある宗教がはびこっている。ザイム真理教。やたら税金取る」と熱弁。「ザイム真理教」とは、財政健全化を唱え続ける財務省をカルト教団に例えた言葉で、この演説動画はXで拡散された。
さらに、SNS上での財務省批判に拍車をかけたのが国民民主が主張する「年収103万円の壁」を巡る議論だ。国民民主は、基礎控除など非課税枠を178万円まで引き上げ手取りを増やすことを主張。一方の政府は衆院選直後、控除などを引き上げた場合、年7兆~8兆円の税収減になると試算を出し、「財務省対国民民主党」という構図が固まった。
玉木氏が10月31日に「財務省がマスコミを含めて『ご説明』に回っている効果はさすがです。今朝の朝刊は各紙こぞって『7・6兆円の減収』『高所得者ほど恩恵』とネガキャン(ネガティブキャンペーン)一色」とXに投稿すると、「財務省は国民から選ばれた国会議員より偉いんか?」などとSNSでは財務省批判がさらに過熱。11月11日に発覚した玉木氏の不倫問題もX上では「財務省のリーク」などとして玉木氏を擁護する投稿も目立った。
「玉木氏はビシッと言って」
財務省に対する「陰謀論」(政府関係者)がSNS上で拡散していることに玉木氏も対応を迫られた。11月27日の記者会見で「中傷や陰謀論はやめていただいて、データと数字にもとづく建設的議論をしていきたい。財務省を敵視しているという批判は当たらない」と述べるなど軌道修正を図っている。
ただ、財務省に対するSNS上の中傷は収束する見通しは見えない。ある財務省幹部は「玉木氏は財務省批判をやめるようにもっとビシッと言ってほしい」と嘆いており、国民民主関係者も「過激なことを言いすぎて、極端な考えの支持層が増えてしまった。この党は大丈夫なのだろうか」と懸念する。【古川宗】