ネット交流サービス(SNS)は生活に欠かせないコミュニケーション手段となった。だが、偽情報拡散のリスクも高まっている。
能登半島地震でも偽情報が広がった。発生の約3時間後にX(ツイッター)で「北陸新潟能登半島の方逃げてください」などの文言のついた大津波の動画が瞬く間に拡散した。しかし、それは2011年の東日本大震災の際に岩手県宮古市で撮影された映像だった。
架空の救助要請や支援金詐取目的と疑われるケースもあった。
「石川県川永市宮の区」という住所に氏名を添え「たすけてください」と記した投稿が広がった。しかし「川永市」は実在しない。
「無事救助されました!」「今後のための資金を寄付していただけると幸いです」と書き、決済アプリ「PayPay(ペイペイ)」の送金用とみられるリンクを添付した投稿もあった。このアカウントは発信後に消えた。PayPayは被災者を装った詐欺行為に注意を呼びかけている。
能登半島地震でも拡散
偽情報が出回れば本当に助けが必要な人への救助活動や支援が遅れる恐れがある。地域社会を混乱させ、しわ寄せは被災者に及ぶ。
デマや陰謀論も出回っている。「『外国系強盗盗賊団』が能登に集結している」「人工地震だった」といった投稿だ。
過去の大地震でも同様のことが起きた。人は不安な状況で新奇な情報に接すると、真偽を確かめずに周囲に知らせようとする傾向があるためだ。
感情をかき立てる内容の場合はなおさらだ。関東大震災では「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などのデマによって虐殺が起きた。
口コミで流言が広がった時代と違い、今はSNSで誰もが発信可能だ。広がる速度も圧倒的に速い。
Xの仕様変更が事態の深刻化に拍車をかけている可能性もある。
Xはフォロワーと表示回数(インプレッション)が多いアカウントに広告収益を配分する仕組みを新たに導入した。その結果、非常事態に便乗して偽情報で注目を集めようとする「インプレッション稼ぎ」が問題化している。
行政当局も動き始めている。
政府は能登半島地震に関連した偽情報について、主要なプラットフォーム企業に削除などの対応を取るよう要請した。
パレスチナ自治区ガザ地区をめぐるイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘でも偽情報が横行していることから、欧州連合(EU)の欧州委員会はXなどを調査している。偽情報の拡散防止を企業に義務付けたEUのデジタルサービス法に基づくものだ。
ただ、国家権力による直接的な規制には、表現や言論の自由をおびやかすリスクもある。プラットフォーム企業による投稿管理のさらなる強化を求めたい。
リテラシーの向上が鍵
SNSの利点は迅速に情報の収集・発信ができることだ。東日本大震災では、ツイッターが有力な情報共有の手段となった。
利用者自身が正確さを見極める「情報リテラシー」を身につけることが大切だ。
誰かに教えたくなるような情報を受け取ったら、すぐに送信ボタンを押さずに一呼吸置く。検索で報道や公的機関など信頼できる情報源からも発信されているかどうかを確認する。状況は日々変化している。発信日時も要注意だ。
国際大がグーグルの支援を受けて23年、日本国内を対象に行った研究によれば、情報リテラシーが低い人ほど偽情報に気付かずに拡散していた。若い世代よりも50代、60代を中心とした中高年のほうが偽情報や陰謀論を信じやすい傾向も明らかになった。
学校現場の一部では情報リテラシー教育が行われているが、全世代を視野に入れた啓発活動の充実が不可欠だ。
非営利団体や報道機関など独立した組織が情報の真偽を検証するファクトチェックも欠かせない。
23年の情報通信白書によれば、日本ではファクトチェックを知っている人の割合が5割弱しかなく、9割を超える米国や韓国に比べて格段に低かった。
SNSの投稿や検索結果にファクトチェック記事を優先的に表示させるなど、プラットフォーム企業の協力も必要だろう。
偽情報がもたらす混乱や疑心暗鬼から社会を守るため、企業、政府、メディア、個人による重層的な取り組みが求められている。