
ウクライナではロシアによる直接的な軍事作戦と同時並行でフェイクニュースによる攻撃が続いている。サイバーセキュリティー問題に詳しい湯浅墾道・明治大教授は「フェイクニュースが戦争の一環としてこれほど大規模に使われたのは歴史上初」と指摘する。【聞き手・宇田川恵】
ロシアの偽情報戦略は多種多様
――ロシアは2014年のクリミア併合のときと同様にウクライナ侵攻でもフェイクニュースを巧みに操り、有利な戦いを進めようとしていると言われています。
◆フェイクニュースや特定の意図を持って流布する「ディスインフォメーション」のレベルと目的が非常に多種多様になっているのが今のロシアの特色です。国際社会に向けてロシアへの支持を集めようとするもの、ロシア国民向けに軍事侵攻を正当化しようというもの、さらにゼレンスキー政権に対するウクライナ国民の信頼を失墜させようとするもの――とさまざまです。こうしたすべてが最終的に武力行使につながる形で展開されている。フェイクニュースがこれほど大規模に戦争の一環として使われたのは史上初と言えるでしょう。
――以前のプロパガンダ戦略とは異なると?
◆かつてはマス(大衆)を対象にしたプロパガンダしかできませんでした。しかし、今はSNS(ネット交流サービス)によって、ターゲットをかなり特定できます。トランプ氏が当選した16年の米大統領選や、欧州連合(EU)からの離脱を問う英国の国民投票ではターゲットを明確に絞り込み、効果的な情報が流されました。その結果、有権者の意思決定に大きな影響を与え、結果を左右したと言われています。
人々の不安をあおる偽情報
――同じような問題は日本でも起きる可能性がありますか。
◆その可能性はどんどん高まっていますが、日本ではフェイクニュースの問題がいまだに対岸の火事だと思われる傾向が強い。最近、岸信夫前防衛相がウクライナを非難したように装う偽の画像が拡散されました。これでようやく政府も少し慌てたのではないでしょうか。
米大統領選が直面したような大規模な問題が日本で起きるとしたら、私は憲法改正の国民投票に絡んでのことだと思います。…
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