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五輪どころではなかった人々、想像して 田中優子・法政大前総長

田中優子・法政大前総長=本人提供
田中優子・法政大前総長=本人提供

 東京オリンピックが閉幕した。選手の活躍が連日報道された一方、大会期間中に新型コロナウイルスの感染者が増え、医療態勢は逼迫(ひっぱく)。国民は開催の賛否で二分された。異形の五輪は何を残したのか。法政大前総長で江戸文化研究者の田中優子さんは、社会の分断について「五輪後も怖い」と危惧し、なぜ五輪を楽しめなかった人がいたのか、「想像することが大切」と話す。【山下智恵/デジタル報道センター】

コロナに楽観的な政府

 ――五輪が8日、17日間の日程を終えて閉幕しました。どんな感想を持ちましたか。

 ◆今回の五輪、あまり見ることができなかったんです。母の老老介護に加え、私の体調も良くなかった。その時、今の日本に「五輪どころではない人々」がたくさんいることに想像が及びました。コロナの感染患者、対応する医療従事者。コロナ禍で仕事を失って求職中の労働者や、食べ物を得るために配給に並ぶ人など。賛否以前に五輪を楽しめるか否か。ここに大きな分断がありました。これが「五輪後」の日本で、どんな亀裂になり、影響をもたらすのか、怖いです。

 五輪を通じ、政府の楽観的な考え方が明らかになりました。コロナの感染拡大も、異常な暑さの中の開催も、まあ大丈夫だろうで済ませて開催を強行しました。「五輪が始まれば国民は夢中になる」「五輪は感染拡大につながっていない」との見方をどれだけの人が信じたでしょう。結果は、今の感染爆発と医療逼迫です。

 なぜ今、五輪を開いたのかも分からないままです。菅義偉首相は6月の国会での党首討論で1964年の東京五輪の思い出話を延々と語りました。ただただ、五輪を開催することで、当時みたいな経済成長につなげたいと思っているように見えます。

 ワクチンについても、米英などはその重要性を国として認識し、巨額の資金を投入して開発や接種の体制整備を進めましたが、日本は出遅れています。開発から実用化まで何年もかかり、副作用に関する訴訟リスクなどもあって経済成長に結びつくか分からず、政府が国内のワクチン産業の育成を怠ったツケだと思います。政府の楽観的な姿勢は一貫しており、それを見せつけられるような五輪で楽しくもなく、憂いばかりが募りました。

地方の豊かさを知る機会だったのに…

 ――2017年には、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の開閉会式での演出の基本方針などを決める有識者懇談会のメンバーになりました。

 ◆コロナ禍の前から五輪に良いイメージはありませんでした。何より疑問なのが東日本大震災からの「復興五輪」。東京電力福島第1原発事故の影響で今も数万人が避難し、ふるさとに戻れない以上、「復興」はあり得ません。競技会場の多くを東北にするわけでもなく、会場建設など東京への投資の言い訳を「被災地の復興」にした、まやかしです。

 懇談会のメンバーを引き受けたのは、当時、法政大に在学する五輪選手を送り出す総長だったからです。五輪には懐疑的なのに、助言する立場になることは、やりにくいなあという思いはありました。

 政府の楽観姿勢や現場を見ない政策立案、五輪報道の過熱ぶりなど、今回の五輪を太平洋戦争に突き進んだかつての日本に例える評論もありました。(東京の)国立競技場は、太平洋戦争中の1943年10月に学徒出陣の壮行会が開かれた…

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