『ボーン・コレクター』から始めなさい
読書クラスタには、「屈辱」というゲームがある。各人、メジャーだけど未読の作品を挙げてゆき、既読の人が多ければ多いほど高ポイントになる。「おまえソレ読んでないなんてどんだけw」と笑われる人が勝ち、というゲームだ。
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ミステリの屈辱ゲームで、「ジェフリー・ディーヴァー読んでない」と言い放ったら、笑われるだけでなく、羨ましがられた。ディーヴァー知らないミステリ好きは、("ミステリ好き"と名乗って良いかどうかは別として)幸せ者らしい。なぜなら、睡眠時間と引き換えに、ジェットコースターミステリーを堪能できるから(寝かせてくれない面白さ、だそうな)。そして、ディーヴァーの作品は沢山あるけど、必ず最初は、『ボーン・コレクター』から始めなさいと、しつこいくらい念を押された。
残念ながら、眠くなる前に読み干してしまったので、徹夜小説とはなり得なかった。だが、これは確かに、やめられない止まらない。わずか数日の間に、次々に起こる誘拐監禁殺人事件を、時間制限つき謎解きアクション濃縮サスペンス全部入りにした作品だから。要するに「やめ時」が無いのだ。もし読むなら、わたしのように休日朝から始めるといい。
数時間おきに犯行を繰り返すボーン・コレクターと、限られた時間でメッセージを解読し、次の被害者を救わねばならないリンカーン・ライム(しかも四肢麻痺の身体だ)。成り行きで彼の鑑識を手伝う婦警アメリア・サックス。科学捜査の薀蓄やプロファイリング推理戦だけでなく、それぞれの過去や苦悩が絶妙なブレンド比で絡んでくるのは、上手いとしかいいようがない。
ただ、期待値MAXに従って、フルパワーで読んでしまったのが悔やまれる。読解精度を上げすぎて、アラや綻びが気になってくる(whydoneitで納得いかないし、"ライム"を捜査の主役にする必然性は、作者以外に持ちえない)。そして、途中で「分かってしまった」ところが残念なり。
これは、わたしの読み方が問題だ。「この展開なら、次はこの方が面白くなる"お約束"」と複数の仮説を立て、進めるに従って取捨選択していく。すると、半分過ぎたあたりから、一定方向に収束されていくのだ。この時代の作家なら、こういう「意外な犯人像」を出してくるだろうから、こいつが怪しいなんてアタリをつける。
さらに、残りページ数と物語の盛り上がりを加味してパターン精度を上げる。たとえば、後半で「犯人が分かった!」というシーンがあっても、「まてまて、あと何十ページあるから、もう一波乱あるはず。しかも、こんな"分かりやすい"展開にするはずがないから、これはデコイ」なんて考えてしまうのだ。この嫌らしい読み方のせいで、「驚愕の結末」とか「意外などんでん返し」と煽るほどに見えてしまう。
しかし、こんな極道な読書にもかかわらず、わたしが間違っていた。最後の最後になって、わたしの「読み」が、さらにひっくり返される。ニアだったけれど、かわされて背負い投げ一本を喰らった感じ。警察が犯人を追い詰めるプロセスと、わたしが物語を解き明かす過程が、併行し、交錯し、ぎりぎりラストで一致する。この瞬間が、気持ちいい。
これで、ディーヴァーの「やりかた」は、分かったつもり。『ボーン・コレクター』を最初に読めと忠告してくれた方は、最高傑作を『ウォッチメーカー』と言っていた。行儀の悪い読み方にも耐えられるだろうか。ちょっと時をおいたほうが良いだろうか。

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