夢の在処
明晰夢をめぐる好奇心がたどりついたのは、「夢の劇場」…スゴ本なり。ただし、いつものわたしの趣味とは毛色が違うので注意。
まずボリューム、400頁超の物量で広範な視点から「明晰夢」を解いている。知覚の機能に対する諸理論、シャーマンの実践、東洋の瞑想法、現代科学の「仮説」(これがクセモノ)―― 用意周到に、「明晰夢」を説明しようとしている。一歩まちがえるとトンデモなんだが、断定できなかったのは、自分の経験で裏書されていたから。
しかし、「なぜ夢を見るのか」という単純な問いへの明快な解は得られなかった。それでも、安易にフロイトへ逃げ込むのではなく、生理学的性質からの説明がイイ。REM期において、ニューロンがでたらめに発火したのを、視覚野でムリヤリ意味付けをするそうな(しかも、後付けで!)。賦活合成理論と呼んでいる。
さらに、明晰夢を見るためのテクニックが山ほど紹介されている。カンタンにできるやつから何年も修行(!)が必要なものまで。簡単なやつは前出のエントリ[好きな夢を見るための10の方法]にまとめてある。本書をまとめると、以下のようになる。どれもスグに使えるテクニックというわけではないので、注意が必要。
■夢を忘れないために
p.48 夢だと思い出す場所を意識づける
p.83 夢日記をつける
p.86 睡眠前の行動(呼吸法、緊張のときかた、入眠儀式)
p.89 本質に対する誓い(対象への集中のしかた)
p.91 回想のテクニック(想起せよ、ただし囚われるな)
p.93 狐の託宣(「寝て考える」テクニック)
p.95 目覚めるときの注意(すぐに目を開けるな!)
p.122 夢への焦点のあて方
■明晰夢を見るために
p.27 視覚化(ふつうのイメージングのテクニック)
p.154 松果腺の扉(要修行:わたしにはムリですな)
p.191 シャーマンの視覚化(ふつうでないイメージング・テクニック)
p.201/208 ガイドつき白昼夢(実験室で見る夢)
p.223 MILD(忘れ物しないよう手にマジックでかくやつ)
p.224 手(もっとも馴染み深いものに注意を振り向ける、夢の中でも)
p.225 自己催眠(脳オナニー)
p.228 催眠術
p.280 アティシャの技法
最後の「アティシャの技法」がスゴい。ヒトコトでいうならば、「一期は夢よ」なんだが、「ただ狂へ」と続かない。なぜなら、本気でこの世を夢だと信じさせる方法だから。ついていけませんな。
■明晰夢の確認方法
p.299 変化する自己(真っ暗にしてローソク一本で鏡に向かう)
p.350 魔物が召喚できるか?(現実性の検査)
■オススメの明晰夢
p.228 夢の部屋(夢の出発点を決める)
p.229 障害や病気を持つ人向けのテクニック
p.259 一一ニ(アージュニャー・チャクラを使う)
p.276 偽りの目覚め(入れ子の夢から脱出する方法)
p.280 夢の体の投影(幽体離脱!?)
明晰夢を体験すると、そのあまりの生々しさに、目覚めたこの現実は、実は夢じゃないかしらん、と思えてくる。冗談ではない。わたし自身、「夢から覚めた、夢」を見たことがあるから。じゃぁ現実とは、醒めない夢なのかもしれない―― 大丈夫、「荘子の蝶」も「プラトンとテアイテトスの夢問答」もちゃんと出てくるぞ。
■目覚めない明晰夢
p.245 光の修行(花京院がスタンドを夢の中へ持ち込んだ方法)
p.269 世界の間隙への落下(落下先は「現実」でないところが怖い)
多面的、悪く言うと雑多な観点の紹介からはじまり、夢とは何かの問いかけが、現実とは何かの問いかけに発展し、ついに意識そのものへ探求の目が向けられる。一種スリリングな感覚を味わえるかもしれない。ただし、著者のいう「悟り」とはすなわちMATRIXでしょー、とか、ゲシュタルト性質だと説明すればいいのに、というツッコミはない方向で。
ユニークだなぁ、と感じたのは、本書そのものの仕掛け。知識として識るよりも、この本を読みとおすことが一種の経験として扱われるような仕掛けとなっている(随所に出てくる絵画がこれまた気味悪いんだ、そう、「夢」に出そうなぐらい)。さらに、著者が警告しているように、「読者の世界観に修正を要求しかねないものが数多く」ある。しかも、明晰夢を見ようと試みた人なら、笑って過ごせないほど身に覚えがあるはずだ。
わたしの趣味じゃないけれど、圧倒された一冊。次に見る明晰夢では「世界の中にいながら世界の一部ではない」ところまでたどり着くかもしれない。けれど、目覚めたら「ここ」に戻ってこれるか、いささか心配… いやいや、漢(おとこ)はDO MY BESTでしょ。
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