目黒強先生講演会
こうべ子ども文庫連絡会の研究会に行ってきました。(9月23日)
会員対象の絵本研究会としての開催です。
テーマは子どもを取り巻くメディア環境から読書活動を考える
講師は目黒強先生(神戸大学大学院人間発達環境研究科准教授)です。
目黒先生は神戸市立図書館協議会の委員を4期務められていて、お話を伺う機会を持ちたいと思ってきました。「近代日本における児童文学の成立」がご専門の先生のお話を文庫連のみなさんとともに聞けて良かったと思います。
さて講演です。
明治期における小説観、児童文学観
多くの資料をもとに、明治期の読書に対する考え方の変遷を丁寧に説明してくださいました。写実主義の流行に伴い「小説」が青少年に及ぼす影響が社会問題化し、そこから有害図書観が生まれました。一方では児童文学に教育的価値を認める動きも出てきました。
現代でも「小説」「テレビ」「ゲーム」の子どもたちへの影響が問題とされ有害図書の規制が唱えられたり、反対に教育的価値について語られ子どもたちに「よい本」を与えようとしたりしています。
では、明治期と現代では同じ価値観なのか? というと、そうともいえません。なぜなら、その基準が恣意的だからです。時代によって、有害なもの、価値のあるものが変わるからです。
そもそも子どもの読書に教育的価値を認める読書観は歴史社会的産物であり、それは選書基準の恣意性を示すものです。
その時代時代の社会状況や背景によって「常識」が変わるということです。
明治期には、昔話は恐るべき弊害をもたらすものだと考えられていたそうです。今では、私たちは子どもたちに「昔話」を語ることはよいことだと思っています。自分が信じている「常識」にとらわれないことが重要なことです。
今の子どもたちの読書量と読書傾向
子どもたちの読書量は各年代とも増えています。2000年ごろからの10分間読書の影響もありそうです。
マンガ・アニメの原作本、児童文庫(創作)、オンライン小説原作本、テレビゲーム原作本、ボカロ本などが子どもたちに好まれているとのこと。それぞれについて詳しい紹介と解説をしていただきました。
「ONE PIECE」「名探偵コナン」「アオハライド」「ストロボ・エッジ」「若おかみは小学生」「モンスター・ハンター」「カゲロウデイズ」と知っているタイトルが続きます。しかし読んでいないというのも事実。子どもたちの好みを理解するのは簡単ではなさそうです。
マンガ・アニメ的リアリズム、オンラインRPGのリアリズムという言葉は初めて聞きました。アニメやゲームをノベライズする際にはそれぞれ特有の流儀や手法があるようです。これはもしかしたら、安倍工房や清水邦夫、唐十郎や寺山修二の演劇を見るときにいったん日常の常識を取っ払って、演劇世界に没入しないとわからないといったことと同様なのではないか…とかつての演劇少女は思ったのですが、違うのかな?
ボカロ小説については、図書館ネットが主催している「KOBE ブッククラブ(読書会)」で紹介されたことがありますし、音楽からインスパイアされた小説というのは昔からあるので、なるほどと思って聞いていました。
ここまではまだ理解できそうだったのですが、ゲーム実況(プレイヤーが実況中継するようにしゃべりながらゲームをプレイする動画)にいたっては、物語体験なのだと言われても想像を超えてしまいました・・・。
インターネットを通して物語に参加して読者がつくり手にもなる現代の読書体験については、非常に現代的であり、私たちが体験することがなかった読書の楽しみ方なのだろうと思います。これは私も体験してみたい楽しみ方です。
子どもの読書活動の支援・学力と読書文化資本
2001年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が施行されてから、様々な支援の方策がなされてきました。「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」も第三次が定められ、神戸市でもそれに基づいた「第3次子供読書活動推進計画」が策定されています。学校図書館法も改正され、神戸市の小中学校への学校司書配置も進んでいます。
そんな中、読書量の多さと学力の相関関係がよく話題になります。先生が用意された資料からも、読書量の多い子どもや読書が好きな子どもの学力テストの正答率が高いことははっきりとわかります。
しかし、それは読書をすれば学力がつくということではありません。読書をする環境が整っている場合学習する環境を整っている場合が多いということなのでしょう。
先生は家庭における読書文化資本量は学習態度の形成につながり、それが学力となって表れているとおっしゃいます。
家庭における読書文化資本の格差の是正手段として家庭以外における読書活動の支援があるのです。
その支援のためには学校図書館や公共図書館を整備・充実させるとともに、司書教諭・学校司書・読書ボランティアなどの人的環境の充実と支援の強化が必要です。
先生は、家庭における格差をなくし、どの子どもにも充実した読書環境をもってもらうために活動し続けているのだとおっしゃいます。私たち、読書にかかわるものすべての思いです。
最後に、読書ボランティアへの期待として
①読書観が歴史的社会的産物であることを踏まえながら、自らの読書観を更新し続けてほしい
②子どもたちの物語の楽しみ方に理解を示してほしい
③子どもたちが読書文化に触れる機会を保障する担い手であってほしい
とお話しくださいました。
私たちはこれからも、子どもたちとともに子どもたちに寄りそって、物語を届ける役割を担っていきたいと思います。
会員対象の絵本研究会としての開催です。
テーマは子どもを取り巻くメディア環境から読書活動を考える
講師は目黒強先生(神戸大学大学院人間発達環境研究科准教授)です。
目黒先生は神戸市立図書館協議会の委員を4期務められていて、お話を伺う機会を持ちたいと思ってきました。「近代日本における児童文学の成立」がご専門の先生のお話を文庫連のみなさんとともに聞けて良かったと思います。
さて講演です。
明治期における小説観、児童文学観
多くの資料をもとに、明治期の読書に対する考え方の変遷を丁寧に説明してくださいました。写実主義の流行に伴い「小説」が青少年に及ぼす影響が社会問題化し、そこから有害図書観が生まれました。一方では児童文学に教育的価値を認める動きも出てきました。
現代でも「小説」「テレビ」「ゲーム」の子どもたちへの影響が問題とされ有害図書の規制が唱えられたり、反対に教育的価値について語られ子どもたちに「よい本」を与えようとしたりしています。
では、明治期と現代では同じ価値観なのか? というと、そうともいえません。なぜなら、その基準が恣意的だからです。時代によって、有害なもの、価値のあるものが変わるからです。
そもそも子どもの読書に教育的価値を認める読書観は歴史社会的産物であり、それは選書基準の恣意性を示すものです。
その時代時代の社会状況や背景によって「常識」が変わるということです。
明治期には、昔話は恐るべき弊害をもたらすものだと考えられていたそうです。今では、私たちは子どもたちに「昔話」を語ることはよいことだと思っています。自分が信じている「常識」にとらわれないことが重要なことです。
今の子どもたちの読書量と読書傾向
子どもたちの読書量は各年代とも増えています。2000年ごろからの10分間読書の影響もありそうです。
マンガ・アニメの原作本、児童文庫(創作)、オンライン小説原作本、テレビゲーム原作本、ボカロ本などが子どもたちに好まれているとのこと。それぞれについて詳しい紹介と解説をしていただきました。
「ONE PIECE」「名探偵コナン」「アオハライド」「ストロボ・エッジ」「若おかみは小学生」「モンスター・ハンター」「カゲロウデイズ」と知っているタイトルが続きます。しかし読んでいないというのも事実。子どもたちの好みを理解するのは簡単ではなさそうです。
マンガ・アニメ的リアリズム、オンラインRPGのリアリズムという言葉は初めて聞きました。アニメやゲームをノベライズする際にはそれぞれ特有の流儀や手法があるようです。これはもしかしたら、安倍工房や清水邦夫、唐十郎や寺山修二の演劇を見るときにいったん日常の常識を取っ払って、演劇世界に没入しないとわからないといったことと同様なのではないか…とかつての演劇少女は思ったのですが、違うのかな?
ボカロ小説については、図書館ネットが主催している「KOBE ブッククラブ(読書会)」で紹介されたことがありますし、音楽からインスパイアされた小説というのは昔からあるので、なるほどと思って聞いていました。
ここまではまだ理解できそうだったのですが、ゲーム実況(プレイヤーが実況中継するようにしゃべりながらゲームをプレイする動画)にいたっては、物語体験なのだと言われても想像を超えてしまいました・・・。
インターネットを通して物語に参加して読者がつくり手にもなる現代の読書体験については、非常に現代的であり、私たちが体験することがなかった読書の楽しみ方なのだろうと思います。これは私も体験してみたい楽しみ方です。
子どもの読書活動の支援・学力と読書文化資本
2001年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が施行されてから、様々な支援の方策がなされてきました。「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」も第三次が定められ、神戸市でもそれに基づいた「第3次子供読書活動推進計画」が策定されています。学校図書館法も改正され、神戸市の小中学校への学校司書配置も進んでいます。
そんな中、読書量の多さと学力の相関関係がよく話題になります。先生が用意された資料からも、読書量の多い子どもや読書が好きな子どもの学力テストの正答率が高いことははっきりとわかります。
しかし、それは読書をすれば学力がつくということではありません。読書をする環境が整っている場合学習する環境を整っている場合が多いということなのでしょう。
先生は家庭における読書文化資本量は学習態度の形成につながり、それが学力となって表れているとおっしゃいます。
家庭における読書文化資本の格差の是正手段として家庭以外における読書活動の支援があるのです。
その支援のためには学校図書館や公共図書館を整備・充実させるとともに、司書教諭・学校司書・読書ボランティアなどの人的環境の充実と支援の強化が必要です。
先生は、家庭における格差をなくし、どの子どもにも充実した読書環境をもってもらうために活動し続けているのだとおっしゃいます。私たち、読書にかかわるものすべての思いです。
最後に、読書ボランティアへの期待として
①読書観が歴史的社会的産物であることを踏まえながら、自らの読書観を更新し続けてほしい
②子どもたちの物語の楽しみ方に理解を示してほしい
③子どもたちが読書文化に触れる機会を保障する担い手であってほしい
とお話しくださいました。
私たちはこれからも、子どもたちとともに子どもたちに寄りそって、物語を届ける役割を担っていきたいと思います。