« カテゴリー項目、「アニメバナー紹介」を新設しました。 | トップページ | 6月2日の地方紙:沖縄タイムス、琉球新報、東京新聞、河北新報、京都新聞 主要紙:朝日、毎日、読売、産経、日経の社説&コラムです。 »

2007年6月 1日 (金)

参院選の投票日まで主要紙、地方紙の社説とコラムを毎日アップし資料として保存します。これからわれわれはどんなマスコミを目撃するのだろうか。

 来る参院選は(※注)、これからの日本の運命を決定付けてしまう重大な選挙だと思います。それにつけても思い出すのは、あの日本の9・11、2005年9 月11日の小泉の郵政選挙でした。ほとんど小泉の詐欺的と言ってもいい「争点は郵政改革だけです、改革をやるんですかやらないんですか」のワンフレーズ、 やらなければ日本がまるで沈没でもするような迫り方でした。

※注:第21回参議院議員通常選挙、投票日は2007年(平成19年)7月29日。

 結果、われわれの目の前に現れたのは自公独裁体制・強行採決オンパレードの国会でした。

 いま振り返ってみると、特に朝日系列に顕著だった、小泉政権へのすり寄り、地方紙以外の中央主要マスコミの翼賛体制はひどいものでした。

 はたして、これから参院選までのあいだ、どのようなマスコミをわれわれは目撃することになるのかここに資料として保存しようと考えました。以下の社説とコラムです。ちょと大変ですが、これから参院選投票日まで毎日続けるつもりです。

地方紙:沖縄タイムス(社説コラム)、琉球新報(社説コラム)、東京新聞(社説コラム)、河北新報(社説、コラム)、京都新聞(社説コラム

主要紙:朝日(社説コラム)、毎日(社説コラム)、読売(社説、コラム)、産経(社説、コラム)、日経(社説、コラム

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【沖縄タイムス・社説】

社説(2007年6月1日朝刊)

[米兵氏名非通知]こんなことが許されるか

 これでは復帰前と全く変わっていないと言わざるを得ない。

 沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故で、米側が処分した二等軍曹や伍長ら整備士四人の名前を明らかにしないと日本側に通知したことである。

 政府がこのことを容認したのであれば、それ自体、県民を裏切る行為といっていいのではないか。

 事故は民間地で、しかも大学の構内で起きている。事故原因もまた、整備員が後部回転翼を固定するボルトにピンを付け忘れた結果だというのがはっきりしているではないか。

 にもかかわらず、米軍は軍法会議で整備士四人の降格と減給、けん責処分をしただけで、日本側には氏名を通知しないことを決めたという。

 重家俊範外務省沖縄担当大使は、通知できない理由について「米国のプライバシー保護法に基づき、米国防長官の権限で判断された」と述べている。

 米側の説明に政府は「仕方なし」と判断したのだろうか。もしそうなら、それこそ重大な瑕疵といっていい。国民を守るべき政府が自らの責任を放棄したと言われても仕方がないからだ。

 県民は復帰前、米兵による殺人事件や重大事故なのに当時の警察は手が出せず、MPの処理で、犯人は米本国に送還されたまま罪も罰も受けなかった事例があることを覚えている。

 政府は、このような記憶を持つ県民の心情を考えたことがあるだろうか。

 私たちには米側が問題を深刻に受け止め、かつ四人の氏名公表について真剣に検討したとはとても思えない。

 「外務省にこう伝えれば、きっと納得するはずだ」としか考えていなかったのではないか。これまでの米軍の対応を見ると、そう受け取らざるを得ないのである。

 これでは法治国家とはとてもいえず、対等で健全な関係を標榜することにも疑問を覚える。同盟関係の強化を目指すのであれば、まずこのような法的関係をきちんとすることから始めるべきだろう。

 日米地位協定の壁だが、この事故では県警も航空危険行為処罰法違反の疑いで被疑者不詳のまま書類送検し、捜査を終結する方針だという。

 容疑者ははっきりしているのに、それを特定できない「被疑者不詳のまま」にしなければならない県民の悔しさ。政府には、そのことが持つ意味をしっかり把握する責任がある。

 在日米軍基地の75%を沖縄に背負わせたまま、事故が起こってもきちんと対応できない政府の姿勢を、県民が冷ややかな目で見ていることを忘れてはなるまい。

社説(2007年6月1日朝刊)

[サンゴの病]CO2抑制し死滅から救え

 沖縄の海は、サンゴが放卵する季節に入り、命のダイナミズムに満ちている。だが、死滅するかもしれない危機に直面しているのも事実だ。

 サンゴが白くなって死ぬ「ホワイトシンドローム」という病気が、海水温の上昇で増えることを、米とオーストラリアの研究チームが突き止めた。

 同じ病気は慶良間海域の安室島南岸でも発生しており、看過できない深刻な問題である。

 以前から沖縄周辺海域でも、海水温の上昇により共生藻が脱落して起きる白化現象がしばしば見られた。

 ホワイトシンドロームはこれとは違い、組織そのものが壊死し群体全体の死滅に至る。安室島の事例では、大きなテーブルサンゴが罹患しやすく、汚染のない海域でも発生している。

 今のところ、病変部分を切除することによって進行を食い止める以外に対策はないという。発生のメカニズム解明と、防止策の確立が急がれる。

 サンゴの死滅は、そこに依存する小動物から回遊魚まで、海の生態系に重大な影響を及ぼす。

 経済的にも価値は高い。

 世界自然保護基金(WWF)は、さんご礁が観光や漁業で年間三兆六千億円の経済効果をもたらし、日本は二千億円の利益を得ていると試算した。

 そのほか、リーフは台風や津波で外洋から打ち寄せる大波を和らげる。

 県内ではオニヒトデ駆除や移植・再生の試みがなされている。だが、サンゴそのものが死滅したのでは、これらも徒労に終わってしまう。

 やはり大敵は地球温暖化だ。

 水温上昇により、ほかの病気も増える恐れがあると研究チームは警鐘を鳴らしている。

 さんご礁は、温暖化の原因である二酸化炭素を吸収し固める働きがある。サンゴが減り温暖化が加速するという悪循環は、何としても避けたい。

 私たち一人一人ができることは、こまめな節電やリサイクルなどを心掛け、少しでも二酸化炭素の発生を抑えることである。

【沖縄タイムス・大弦小弦】

大弦小弦 (2007年6月1日 朝刊 1面)

 「虫歯は児童虐待のサイン」という。相関関係を示すデータを見て、ぎょっとした。歯医者さんの間では、よく知られたことなのだが。

 岩手県歯科医師会の調査によると、虐待や養育放棄などで一時保護された児童の虫歯は、一人当たり約五・六本。同県児童の平均の五倍に上った。関連は別の自治体の調査でも指摘されている。

 虐待の一種のネグレクトにより、歯磨きの習慣が無かったり、不潔なまま放置されたり、保護者が治療を受けさせないことが要因とされる。不自然な歯の折れ方や口の中の傷から、虐待が疑われるケースも。

 沖縄では三歳児ですでに半数、中学生で八割が虫歯にかかり、全国平均を20ポイント上回っている。十二歳児の平均虫歯数は四・一本でワースト。歯科の分野では不名誉な記録が並ぶ。なぜか。

 沖縄県歯科医師会の高嶺明彦会長は、共働き家庭の多さや所得の問題が背景にあるとみる。親が仕事や生活に追われ、子どもを顧みる余裕がない。結果、食事 の管理や歯磨きケアに目が行き届かない。沖縄の場合、それがすぐに虐待と結び付くものではないが、親の関心が口内事情を左右していることは間違いない。

 長寿問題ではあれほど騒いだのに、歯の健康に対する危機感はいまひとつ。社会的要因が複雑に絡んでいるとするならば、幅の広い取り組みが必要だ。四日から歯の衛生週間が始まる。まずは、子どもの口をのぞいてみよう。(森田美奈子)


【琉球新報・社説】

社説 年金特例法案 国の責任できちんと救済を

 通常国会が終盤を迎え、参院選をにらんだ与野党の対立が激化している。焦点は社会保険庁改革と年金記録漏れ問題。強行採決で突破を図る与党に、委員会出席拒否や委員長、厚生労働相の解任・不信任決議案の提出で応じる野党。激しい政争の中で、審議不十分で肝心な記録漏れ者の救済を置き去りにするような事態があってはならない。
 年金記録漏れ問題は、判明しているだけで5千万件。年金受給者の記録だけでも2880万件に上る。記録漏れの原因は何か。いったい誰の責任か。これまでの国会での論戦では、釈然としない。
 安倍晋三首相は5月30日の党首討論で「当初、不明なケースは2億件あった。照合しながら5千万件まで絞ることができた」と、政府の努力ぶりをアピールしたが、印象は逆。「そんなに記録漏れがあったのか」と驚いた人も多い。
 管理不備の責任は社保庁にある。討論の中で、安倍首相も「わたしは政府の責任者だから大きな責任を感じている」と、責任を認めた。
 その上で、国民の不安払拭(ふっしょく)のため、標準的な受給開始年齢の60歳以上の記録漏れと受給者3千万人分を今後1年間で照合し、受給年齢に達していない被保険者も1年以内にすべて調査する、と約束している。
 そのために、というのであろうか。「支給漏れの年金には5年の時効を適用しない」など、年金記録漏れによる過去の不足分を補償する議員立法「年金時効撤廃特例法案」を、30日夜の衆院厚生労働委員会で自民、公明両党の賛成多数で可決した。強行突破の裏には「救済」より「参院選」の裏事情が透けてみえる。
 政府は救済策で「弁護士や税理士などで組織する第三者委員会による補償の有無の検討」をするという。領収書などの証拠がない人からは事情を聴き「話が合理的なら補償する」というもの。「合理的」の判断に「新たな不信を招きかねない」との懸念が、ほかならぬ政府の内部からも出ている。
 民主党の小沢一郎党首は、党首討論の中で、「挙証責任を個人に負わせている」と批判している。言い得ているが「ではどう救済するか」が、小沢党首からもみえてこないのが残念だ。
 記録漏れのデータ照合は東京管内で一部始まっているようだが、照合した17%で原簿などからコンピューターに入力する際に生じたとみられる「転記ミス」が指摘されている。問題の「源流」をみる思いだ。
 年金問題は、多くの人が老後の唯一の生計の糧となるもの。再発防止のためには、記載漏れの原因究明を、そして救済は「挙証責任」も含め問題の原因者が、きちんととるのが筋だ。

(6/1 9:53)

社説 かりゆしウエアの日 「涼しい夏」沖縄から発信

 きょう6月1日は「かりゆしウエアの日」。閣議では全閣僚が沖縄のかりゆしウエアを着用し、政府が進めるクール・ビズのモデル服として奨励する。「沖縄ブランド」の全国発信の機会として大いに活用したい。
 かりゆしの日の制定に「沖縄が全国を涼しくする。痛快でそう快な話だ」と、同ウエアの普及に力を入れてきた沖縄都市モノレールの湖城英知さんも、うれしそうだ。
 暑い夏に背広にネクタイは健康にも、そして地球にも優しくない。「ハワイにはアロハがある。同じ常夏の沖縄でも涼しい正装シャツがほしい」。湖城さんらは当時勤めていた銀行で「アロハデー」の普及を図った。だが「遊び着感覚で行員らしくない」と一蹴(いっしゅう)された。20年前の話だ。
 県ホテル旅館生活衛生同業組合は「リゾート観光の演出に」と、1970年から「沖縄シャツ」の普及に挑戦してきた。だが、これも「価格が高すぎる」などで低迷。80年代に「沖縄ウエア」として再挑戦するも不発に終わった。
 89年に始まる現在の「かりゆしウエア」は3度目の挑戦。高すぎるとの批判に、組合の費用負担で半値にし、大量購入で普及を下支えした。成功の決め手は官民挙げたキャンペーンだった。ほそぼそと続けてきた運動は、90年に県観光振興課での着用開始、99年の県議会での着用認可で“正装”とみなされ、県内企業にも急速に広がった。
 そして2000年「沖縄サミット」。各国首脳が着用し、知名度は一気にワールドワイドに。「今では首相が率先して着用を奨励してくれる。37年かかったが、ようやく全国区になった」と、同組合の大城吉永さんも誇らしげだ。
 全国化で課題も出てきた。「第2のゴーヤー」化の懸念だ。ゴーヤーは消費の全国化で、産地も全国化した。地場産業の促進のはずが、他産地の攻勢に苦戦する。
 ウエアは「本土大手が参入すれば、ひとたまりもない」との心配の声も。「かりゆしの本場はやっぱり沖縄」と言わしめる「産地ブランド」をいかに維持・発展できるか。これからが勝負どころだ。

(6/1 9:51)

【琉球新報・金口木舌】

 きょうから6月。梅雨真っただ中だが、まとまった雨が降らない日が続いている。「水無月(みなづき)」は「水の月」と解釈するのが有力らしいが、降るべき時に降らないことを嘆いて付けられたのではないかと思いたくなる空模様だ
▼これも地球温暖化による異常気象の現れなのかと考えていたら「サンゴの病気 水温が関連」「温暖化で増加懸念」の新聞見出しが目に飛び込んだ
▼オーストラリアのグレートバリアリーフで、サンゴが白っぽくなって死ぬ「ホワイトシンドローム」が確認された。沖縄の慶良間海域でも確認されており、被害拡大が懸念されている
▼宇宙体験をした宇宙飛行士の宗教観や人生観の変化を追ったドキュメンタリー「宇宙からの帰還」(1983年、立花隆著)に、こんな証言がある
▼「宇宙から見ると、公害といわれる人為的汚染もさることながら、(火山爆発や砂嵐など)自然汚染が大変なものだということがわかる」「規模からいえば、人間のいとなみより、自然のいとなみのほうが比較にならないほど大きい」
▼空梅雨もホワイトシンドロームも、自然の壮大な営みの一環なのか。それとも人為的な要素も加わった“異変”なのか。泣かない曇天に思う、きょうは気象記念日。

(6/1 9:45)


【東京新聞・社説】

分権改革 その意気込みを生かせ

2007年6月1日

 政府の地方分権改革推進委員会が第二期改革の方向性を示す「基本的な考え方」をまとめた。「地方が主役」の分権型社会を目指すという。どう肉付けし、実現していくか。相当の力業がいる。

 「考え方」は第二期改革を「国のかたちそのものにかかわる重要な政治改革」と位置付けた。中央集権型システムを「もはや捨て去るべきである」とし、自主的な行政権、財政権、立法権を持つ「地方政府」の確立を打ち出した。

 政府の文書に「地方政府」という言葉が出てくるのは初めてという。

 一九九〇年代後半の第一期改革は国と地方の関係を「主従」から「対等・協力」に変える試みだった。今回の「地方が主役」「地方政府」という表現からは、主従関係を逆転させる意気込みが伝わってくる。

 特に、注目すべきは条例で政省令を事実上、修正できる「上書き権」も含めた条例制定権の拡大を審議対象としたことだ。

 第一期改革では、地方分権一括法によって法律的には国から地方に多くの権限が移された。しかし、政省令が足かせとなり、思うように地方の自由度は広がらなかった。今回そこに手をつける意味は大きい。

 だが、それだけで十分とはいえない。政省令に付いて回る各省庁の補助金が地方を縛っている。国から権限だけを地方に譲っても、自由に使えるお金がなければ「絵に描いたもち」にすぎない。

 残念ながら、「考え方」に補助金廃止の文言はなかった。「思い切った税源移譲」とは記されたが、具体的な数値目標が盛り込まれなかった。補助金削減、それに伴う税源移譲、地方交付税の見直しを行う「三位一体改革」の完成こそ取り組むべき課題ではないか。

 今後、推進委は提言に基づき具体的な改革案を審議し、秋までに中間報告をまとめる。二年以内をめどに順次、首相に勧告していく。中間報告や勧告で補助金廃止や税源移譲の目標額に踏み込んでもらいたい。

 地方分権には中央省庁の抵抗が強い。政治の後押しなしには官僚機構に阻まれ、推進委の勧告も骨抜きにされるだけだ。

 安倍晋三首相は自ら本部長となって、全閣僚による「地方分権改革推進本部」をつくり、十一日に初会合を開く。

 首相は三位一体改革の際、小泉政権の官房長官として補助金削減の調整役となったが、各省庁の激しい抵抗を受け、中途半端に終わっている。推進本部が再び閣僚たちによる省益大合唱の場にならないか。同じ轍(てつ)を踏むことは許されない。

大気汚染訴訟 メーカーも決断の時だ

2007年6月1日

 都や自動車メーカーには寝耳に水の安倍晋三首相の「決断」だった。国が方針転換し資金拠出することで、東京大気汚染訴訟は解決に向けて大きく動きだした。次は自動車メーカーが決断する番だ。

 東京大気汚染訴訟は、一審の東京地裁判決が一部原告の健康被害を認めて、国や首都高速道路会社、都に賠償を命じた。現在は東京高裁で和解協議が続いている。

 被告には国、都、首都高速のほか自動車メーカー七社も名を連ねる。和解成立に前向きな都は、国、都、メーカー・首都高速の三者が三分の一ずつ財源負担する医療費助成制度を提案した。

 国はことしに入って和解を探る方向を打ち出したが、財源負担には一貫して拒否する考えを示してきた。和解が成立している他の大気汚染訴訟でも、資金の拠出拒否を譲っていない。この国の姿勢が今回の和解協議にもネックとなっていた。

 原告は一九九六年の一次提訴から約六百三十人にのぼり、このうち百二十人以上が死亡している。ここにきての国の方針転換は、いまも健康被害に苦しんでいる原告を思うと、歓迎できる妥当な判断といえる。

 ただ、首相の決断には参院選への思惑がうかがえる。年金記録の不備に前農相の自殺と、不利な材料が噴出するなか、失地回復の一策にしたいところなのだろう。選挙しのぎとやゆされないためには、六十億円拠出だけで済まさないことだ。これを機に、自動車排ガス対策に本格的に取り組むべきである。

 国の方針転換で今後の焦点はメーカー側の対応に移る。メーカー側は一審では賠償を命じられず、勝訴だった。このため和解協議に入っても金銭負担に消極的な意見もあった。メーカー側は二審も判決に持ち込めば賠償を回避できる可能性もあるだろうが、和解協議が実を結ぶ意味をしっかり考えてほしい。

 助成制度が設立されれば、医療費は原告だけでなく、大気汚染被害のぜんそく患者を対象にすることとなり、救済される人たちの範囲は広い。環境への意識が高まるなか、勝訴よりも和解を成立させた方が、企業イメージは損なわれないという点も考慮すべきだ。

 大気汚染の原因の一つが自動車排ガスであるのは明らかで、その最たるものはディーゼル車から出る浮遊粒子状物質(SPM)だ。和解成立という裁判上の決着だけでなく、大気汚染予防に取り組む必要がある。

 欧州では日本よりもディーゼル車排ガス対策が進む。メーカーは和解交渉と併せて、ディーゼル車のSPM対策も急がなくてはならない。

【東京新聞・筆洗】

2007年6月1日

 宮城まり子さんが静岡県掛川市に開いた「ねむの木学園」が今年で設立四十年になる。現地には藤森照信さん設計のこども美術館も完成。それを記念し て一日から一カ月、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで、生徒の美術作品展が開かれる▼ねむの木のこどもたちの絵は、やましたゆみこさんの『かあ さんと花の中で』をはじめ、心洗われる作品が多く、ニューヨークやパリなど世界を巡回して五百万人を魅了してきた。今回も生徒五十四人の二百三十点を展示 する▼前夜の内覧会では、九十一歳の現役チェリスト青木十良さんら招待客の前で、生徒たちが宮城さん作詞作曲の合唱曲『きかせてほしい』などを披露。入り 口に掲げられた宮城さんの口上が優しく、厳しい▼「耳にしたり、目についたりするのはこどものいじめとか、自殺です。遺言なんか、かいたって駄目よ。いじ めるのは、淋(さび)しいからなの。自殺って、強がってるの。駄目よ。ねむの木学園のこどもたちって、病気にいじめられて、不自由になったりしたのを、の りこえたから、やさしいの」▼国会では選挙目当てや責任回避の泥縄強行採決が続き、“国家の品格”も形無しだ。こうなると宮城さんら“女性の品格”に期待 するしかないのかと思えてくる▼近著『女性の品格』(PHP新書)が五十五万部のベストセラーとなった元埼玉県副知事で、昭和女子大学長の坂東眞理子さん は「品格ある男性と女性は共通するところが多い」「人間を大切にする女性らしさを社会に持ち込んでほしいから」と出版の弁。


【河北新報・社説】

加美町長選再選挙/政策本位の対決構図を崩すな

 宮城県北西部に位置する加美町(人口約2万7000人)で、町長選の再選挙が、6月12日告示、同17日投票の日程で行われる。

 統一地方選の後半戦(4月22日投票)で実施された先の町長選で、立候補した5人全員の得票が法定得票数(有効得票総数の4分の1以上)に達しなかったため、公選法の規定に従い選挙をやり直す。

 首長選の再選挙が実施されるのは東北で初めて。再選挙制度の見直し論議が起きているさなかでもあり、選挙戦を大いに注目したい。

 再選挙には、5人のうち4人が再出馬の意向を固めている。先の町長選は、財政再建や役場庁舎の新築問題などで各候補が論争を展開し、今春の統一選では数少ない、争点が明確な首長選挙の一つだった。各候補が訴えの決め手を欠き、結果として法定得票割れとなったが、再選挙でも政策本位の選挙戦の構図が崩れないよう強く望みたい。

 全国で首長選挙の再選挙が実施された例は、1952年に公選法が改正されて以降、千葉県富津市長選(1979年)、奈良県広陵町長選(1993年)、札幌市長選(2003年)の3度ある。いずれの再選挙も政策論争より、数合わせの論理が優先した戦いになったとされている。

 再選挙の候補者数は富津市長選3人(1回目5人)、広陵町長選3人(7人)、札幌市長選4人(7人)と、1回目の選挙から減っている。再選挙に向かう過程で、1回目を戦った陣営同士が、選挙協力をめぐる裏取引を繰り広げたとも言われている。直前の選挙結果を基に戦略を組み立てることが容易な再選挙には、政策争点が置き去りになりやすい宿命が潜むのかもしれない。

 加美町長選の4候補予定者は、引退した星明朗前町長の「路線継承か」「刷新か」、「財政再建の徹底か」「住民サービスの拡充か」、新庁舎の「建設か」「見直しか」などでそれぞれ独自の主張を展開し、互いに政策的な対立関係を保ってきた。最終的な選挙構図がどうなろうとも、これらの対立軸がきちんと選挙戦に持ち込まれることを期待したい。

 公選法の再選挙制度には、以前から異論が少なくない。再選挙には候補者を制限する規定がないため、候補者が再び5人以上となり、いつまでも再選挙の可能性が残るという異常な事態も、制度上は否定できない。

 「法定得票数の『4分の1以上』に合理性があるのか」「上位2人による決選投票にしたらどうか」といった指摘もあり、総務省は先ごろ、再選挙制度の見直しを専門家に依頼した。

 再選挙の投票率が大幅に下がり、1回目の最高得票より低い得票で別の人が当選するという、あまり喜べない事態も考えられる。過去3回の再選挙の投票率はいずれも1回目を下回っており、非現実的と切って捨てることはできないだろう。加美町長選の再選挙結果が、制度見直し論議を左右するといっても言い過ぎではない。
2007年06月01日金曜日 

【河北新報・河北春秋】
 事業所の春の定期健康診査で「予備軍」を宣告されませんでしたか。動脈硬化症や糖尿病など生活習慣病になりやすいメタボリック症候群の疑いがあるとの診 断。内臓脂肪蓄積の黄信号だ▼厚生労働省が先ごろ公表した最新の国民健康調査。40歳以上で女性は4人に1人なのに、男性は2人に1人がメタボ予備軍とさ れる。中高年の男性に目立つのはストレスのせい? 運動不足と食べ過ぎがいけないのは百も承知なのだが

 ▼ 「一に運動習慣の徹底 二に食生活の改善…」。このスローガンのもと厚労省は今後10年にわたり国民的な運動に取り組むという。「老人力」「鈍感力」など にあやかって、目指すのは「メタボ克服力」の向上▼要は事業所などと、今まで以上に自助努力を促す仕掛けづくりを進めるというのが主眼らしい。メタボ減ら しは、膨らむ医療費の抑制にもつながるのだから力は入る

 ▼今年の第一生命・サラリーマン川柳で人気を集めた句の一つ。「脳トレをやるな ら先に脂肪トレ」。「アレ」を連発してしまう物忘れもさることながら、健康を損なえば職場、家庭にも負担をかけかねない▼体を動かさずに脳トレゲームに夢 中になっていたのでは予備軍からの脱出はなかなか難しい。お上に細かく言われなくとも自力で克服しなきゃね、ご同輩。

2007年06月01日金曜日


【京都新聞・社説】

がん対策計画案  地域格差の解消なるか

 十年以内に七十五歳未満のがん死亡率を20%減らす-。国のがん対策の具体策を示す「がん対策推進基本計画案」がまとまった。
 策定した厚生労働省のがん対策推進協議会のメンバーにがん患者や家族ら「当事者」が参加し、患者の意見が積極的に反映されたのが大きな特徴だ。一方で、「喫煙率半減」の数値目標が見送られるなど課題は山積みである。
 今回の基本計画は、今春施行の「がん対策基本法」に基づくものだ。これまでの努力目標ではなく、国や都道府県にがん対策を義務付けた法律に基づく初の計画である。それだけに意味は重い。
 学識経験者や医療関係者とともに患者代表が国の政策決定に直接加わることは異例である。がん対策の成果に連帯責任を負うことでもあるが、参加型医療への挑戦として評価したい。
 計画案は、「死亡率二割減」と、「患者、家族の苦痛軽減と生活の質の維持向上」を全体目標に定めた。この二つを実現するため▽治療初期からの緩和ケアの実施▽がん登録の推進▽相談支援の充実-など多岐にわたる政策を掲げ、数値目標や達成時期を明確にした。
 とはいえ、がん患者が最も求めているのは治療や情報を含めたがん医療体制の地域格差の解消だ。納得のいく治療を求め病院を転々とする「がん難民」が後を絶たないのはその裏返しであろう。
 要となるのが、厚労省が指定した全国二百八十六カ所の「がん診療連携拠点病院」である。計画案はこれら全病院に五年以内に放射線、化学療法を実施できるよう目標を掲げた。
 しかし放射線、化学療法の専門医は全国でも限られている。専門医がいない拠点病院も多い。患者の悩みなど相談にのる専任の相談員不足も深刻という。
 人材育成こそ急ぐべきではないのか。それを怠っていては「全国どこでも質の高い医療が受けられる」体制づくりは絵に描いたもちに終わってしまう。
 計画案には、このほか検診率の50%以上や在宅医療の推進などが盛り込まれたが、国の具体的な対応や長期的な展望が示されていないケースが目立つ。これでは国民に対しても説得力に欠ける。
 計画案は今月に閣議決定され、これを基に各都道府県は地域の実情を踏まえた計画を策定する。だからといって具体的な施策は自治体にお任せでは困る。
 「がんの予防に不可欠」とされるたばこ問題で、いったんは協議会で合意された喫煙率半減の数値目標は計画案から消えた。不思議である。
 たばこ事業を所管する財務省に配慮する厚労省の思惑が見え隠れする。がん患者にとっては失望であろう。
 国民の三人に一人が、がんで亡くなっている。それだけにがん対策の充実を急がねばならない。十分な予算も必要だ。国家的戦略としての対策が肝要である。

[京都新聞 2007年06月01日掲載]

【京都新聞・凡語】

「花の1区」、外国人留学生を禁止

 高校のスポーツ界が揺れている。野球の特待生制度に続き、今度は駅伝で、来年から男女とも「花の1区」(男子十キロ、女子六キロ)に外国人留学生の起用が禁止される▼最初から、他チームを大きく引き離し、駅伝の魅力である「競り合う展開がない」とのファンらの苦情を受け、全国高等学校体育連盟が決めた。生徒にあきらめが生じ強化の妨げ-との声もあるという▼確かに男子は力の差が歴然だがだからといって、1区から外すのも乱暴な話だ。選手は観戦者のために走っているわけではない。加えて、二番目に長い3区や4区に起用すれば、同じことが起きる▼私学は経営戦略、留学生は家族を支え、夢をかなえるため来日するのは確かだが、マイナス面ばかりではない。滋賀学園高(東近江市)卒業で、今は実業団のトップランナーとして活躍するジョン・カリウキ選手がいい例だ▼ 二年前、卒業間近のカリウキ選手を取り上げた本紙連載「留学生ランナーからの伝言」には、彼のハイレベルな走力と情熱が勇気を与え、生徒の力が伸び、交流を深めていく様子がつづられている▼悪質ブローカーの排除は当然だが要は指導者や生徒の意識の問題だろう。大人の都合が優先していないか。教育の一環であることを忘れず、もっとおおらかに。全国大会の舞台となる都大路は、留学生だからといって分け隔てしない。

[京都新聞 2007年06月01日掲載]


【朝日・社説】2007年06月01日(金曜日)付

年金法案―これでは不信が高まる

 会期末が迫り、安倍首相や自民党は法案の足踏みにいらだつ。次々に飛んでくる指示に厚生労働省は右往左往する。

 そんなドタバタ劇の中で、自民、公明両党は野党の抵抗を押し切り、社会保険庁改革法案と、「宙に浮いた年金記録」を救済するための特例法案を衆院本会議で可決した。

 夏には参院選がある。そのことを意識して与野党の対決が激しくなっているのだろう。だが、それにしても与党の強引なやり方はおかしい。

 ことは国民の関心が一番高い年金の話である。ここはやはり、じっくり審議すべきだ。突然、提案された特例法案をたった4時間の審議で事足れりというのでは、とても納得できない。

 そもそも、与党が特例法案を議員立法で出したことに疑問がある。もちろん政党が自ら法案を出すのは望ましい。しかし、今回のように政府の機関が犯したミスは政府が正すのが筋だ。

 政府案として出せば、安倍首相が答弁の矢面に立ち、責任を追及されることを恐れたのだろう。自民党の議員が救済策を説明し、本来の責任者である柳沢厚労相が参考人として意見を述べるという姿はどう見ても異常だ。

 こんなことだから、せっかく安倍首相が党首討論で救済策を示しても、額面通りには受け取ってもらえない。当面の選挙をしのぐための方便と思われても仕方があるまい。

 安倍首相は救済策として、「宙に浮いた年金記録」を、年金受給者や年金をまだもらっていない人の情報と突き合わせ、その作業を1年以内にすませると胸を張った。

 しかし、その直後に柳沢厚労相は、こうした保険料を払っている人への調査をすべておこなうことには口をにごした。調査がさらに膨大になることを恐れたのだろうか。いずれにしても、首相と厚労相の食い違いをそのままにしておくわけにはいかない。

 政府の改革案では、社保庁は3年後に非公務員型の公法人に改組される。それに向けて社保庁の職員は減らされていく。新法人になれば多くの仕事が民間に委託され、人員はもっと減る。

 そんなリストラが進む中で、保険料の徴収率を上げるのも大変なのに、首相の約束が実行されるのだろうか。

 もうひとつ問題になっている「消えた年金記録」への対応策として、安倍首相は第三者機関の設置を約束した。しかし、保険料を払っていたことを認める基準はどうするのか。それがなければ、だれも安心できないだろう。

 こうした数々の疑問を解消するには、もっと丁寧な説明と審議が必要だ。

 宙に浮いたり消えたりした年金記録の保険料はすべて国民が払ったものだ。その保険料が粗末に扱われ、対応策が拙速に決められていく。これでは年金への不信はますます高まる。

西武裏金問題―幕引き宣言はまだ早い

 プロ野球を「国民的スポーツ」と自任する人たちの結論とはとても思えない。

 新人選手の獲得をめぐる裏金問題で、根来泰周コミッショナー代行は西武に3000万円の制裁金を科すほか、今秋の高校生ドラフトで上位2人の指名権を取り上げる処分を決めた。

 だが、この処分は軽すぎる。

 新人選手に1億円を超える契約金を払う球団からすれば、3000万円の制裁金はそれほど痛くはあるまい。

 西武は大学・社会人のドラフトでは1巡目から参加できる。処分を高校生ドラフトに限る理由が、「西武が選手2人に金銭供与の約束をしたのが高校生の時」というのでは、全く理解できない。

 裏金をもらった大学と社会人の選手2人は自ら名乗り出て謝罪し、退部や長期謹慎の処分を受けた。これらの処分と比べても不公平ではないか。

 西武の報告書を改めて読めば、その金まみれぶりはやはり度を超している。

 栄養費や学費の補助を理由に長期間、アマ選手に裏金を渡していた。高校や大学などの指導者ら延べ170人には、選手の入団へのお礼などを名目に最高で1人1000万円もの金品を贈っていた。

 西武の裏金は、新人の契約金の最高標準額を超えて支払った金を加えると14億円にもなる。

 それだけではない。金を受け取っていたアマの指導者ら170人の名簿は、アマ側の要求にもかかわらず、明らかにされていない。これでは、プロとアマの癒着の実態を知ることはできないし、アマ側もウミを出せない。

 こうしたあいまいな決着をし、西武の処分を軽いものにとどめたのは、他球団も同じようなことをしているので、西武だけを責められないからではないか。そう思われても仕方があるまい。

 現実に西武以外の11球団は、西武ほどには過去にさかのぼって調査をしていない。疑惑は解消されていないのだ。

 「過去をほじくりかえすのではなく、透明性のある野球界を作ることが大事だ」。根来氏はそう繰り返してきた。だが、その再発防止策にも疑問がある。

 ドラフトで裏金の温床になっていた希望入団枠をなくしたのは前進だが、不正への罰則の強化も欠かせないはずだ。

 なのに制裁金の最高は1000万円にすぎない。ドラフトからの締め出しも最大で「2回」だ。新人が入団後1軍で活躍する確率や、外国人やフリーエージェントで選手を補うことを考えれば、2年間は厳罰というほどでもない。

 少なくとも制裁金は10億円、ドラフトに参加させない期間は3年間ぐらいにすべきだろう。不正をすれば球団がつぶれかねない。そんな緊張感を持たせることが抑止につながり、不正を許さないという球界の強いメッセージにもなる。

 根来氏がこのまま幕を引こうとするなら、プロ野球界は負の遺産をいつまでも引きずっていくことになる。

【朝日・天声人語】

2007年06月02日(土曜日)付

 新横綱の白鵬が、明治神宮で土俵入りを初披露した。両腕を大きく広げて体をせり上げるのは、「攻め」の姿勢を表す不知火型だ。万緑の中、新しく打った綱の純白が際だっていた。

 清新に響くしこ名は、大鵬と柏戸が覇を競った柏鵬時代にちなむ。周囲はずばり「柏鵬」と考えたが、少し遠慮して木偏をはずしたそうだ。「鵬」は中国の古典「荘子」に描かれた、ひと飛び九万里の伝説の鳥。名前負けしなかったのは、さすがである。

 名前をもらった「柏」と「鵬」は、対照的な気質と取り口で、60年代に黄金期を築いた。柏戸が豪胆なら大鵬は緻密(ちみつ)。柏戸は一直線、大鵬は自在。攻めまくる柏戸を、大鵬が懐深く受けてしのぐ土俵はテレビ桟敷を熱くした。

 70年代には「輪湖」(輪島、北の湖)、90年代末には「曙貴(あけたか)」(曙、貴乃花)と双璧(そうへき)の時代があり、来場所からは朝青龍との「龍鵬時代」である。龍も鵬も外国人なのを、新しいと見るか、寂しいと見るかは、それぞれだろう。だが、22場所ぶりの東西横綱に、賜杯争いの興味が膨らむのは間違いない。

 名行司と言われた第28代木村庄之助さんは、横綱の土俵を数多くさばいてきた。ある雑誌に「戦っているときは獣でいいが、その前後は常に神聖な力人(ちからびと)でなくては」と話している。起居の美しさを欠けば、二枚看板も色あせてしまう。

 不知火型の横綱は、短命に終わるというジンクスがあるという。しかしまだ22歳である。片や朝青龍は雲竜型、26歳。モンゴルも日本も熱くする心技体を磨いてほしい。


【毎日・社説】

社説:年金2法案通過 焦るほど世論は離れていく

 野党が猛反発する中、社会保険庁改革関連法案と年金時効停止特別措置法案が1日未明、衆院本会議で与党の賛成多数により可決された。年金支給漏れ対策として提出した特措法に関する委員会審議は実質わずか4時間。野党が抵抗したのも当然だろう。なりふり構わず衆院通過を急いだ政府・与党の姿勢は、かえって国民の不信感を増幅させるだけではなかろうか。

 社保庁改革法案は2010年に社保庁を廃止し、非公務員型の新組織「日本年金機構」に移行するのが柱。特措法案は年金受給者の請求権の5年の時効を撤廃して支給額を全額補償する内容だ。

 安倍晋三首相は特措法成立を急ぐ理由を「一刻も早く支給漏れ対象者を救済するため」という。だが、それを真に受ける人は少ないはずだ。

 この問題は民主党が今年1月末の今国会冒頭から本格的に追及していた。ところが政府は当初は真剣に取り合ってこなかった。あわて始めたのは最近になってメディアが一斉に報じ始めてからだ。

 しかも、秋の臨時国会提出と言っていた特措法案を急に今国会に繰り上げたのは世論調査での内閣支持率急落という事態を受けたためだ。97年以来放置してきた責任だけでなく、今年に入ってからの対応もおよそ「国民のため」とは程遠かったのである。

 では、なぜ急ぐのか。7月の参院選を控え、一日も早くけりをつけることで幕引きを図り、選挙の争点になるのを避けたい--。つまり、国民でなく自らの政権のためと見られても仕方あるまい。

 既に指摘している通り、支給漏れ対応策の実効性も定かでない。首相は大量のデータ照合を1年以内で終えると約束したが、果たして可能なのか。記録がなく納付した証明がない人は、弁護士や税理士による第三者機関が判断するというが、どれだけの規模の体制を作るのか。ごく短時間の審議で不明な点が解消されないまま、「後は任せてくれ」と言っても、それは無理な注文だ。

 首相はまた、社会保険庁職員を「親方日の丸の体質」と再三批判している。民主党を支持する労組にも責任があると言いたいようだ。しかし、この間、ずっと政権を担い、行政にも責任を負ってきたのは自民党だ。首相がきちんと責任を認めない点にも疑問を感じている人は少なくないだろう。

 首相や与党は3年前、年金が大きな争点になって敗北した参院選の再現を恐れていると思われる。

 前回参院選は閣僚や政党幹部の年金未納が続々と発覚し「年金改革を審議している政治家がこの有り様では信用できるはずがない」と国民の不信に火をつけたことを忘れてはならない。対応策が信頼できるものかどうかだけでなく、それを検討する政府や与党の姿勢を国民は見ているのだ。

 与党は参院送付後も同じように拙速に審議を進めようとするのだろうか。だが、焦れば焦るほど参院選で有権者からしっぺ返しを受けることになるだろう。

毎日新聞 2007年6月1日 東京朝刊

社説:東京大気訴訟 次は恒久的な救済制度だ

 東京高等裁判所で進められている東京大気汚染訴訟の和解協議が大きく動き出しそうだ。安倍晋三首相が石原慎太郎東京都知事に対して、60億円の拠出を表明したからだ。

 東京都内のぜんそく患者らが、自動車排出ガスで健康被害を受けているとして、国や都、首都高速道路公団(現首都高速道路会社)、自動車メーカー7社を訴えたこの訴訟では、昨年11月、都が都内の気管支ぜんそく患者すべてを対象に、医療費助成を行う制度の創設を提案している。国、都がそれぞれ3分の1ずつ、メーカー7社と首都高会社がそれぞれ6分の1ずつ負担するという構想だ。

 これまで、国は医療費助成への資金拠出をかたくなに拒んできた。ぜんそくと大気汚染との因果関係が明らかになっていないとの理由からだ。メーカーも拠出に動いている中、国のゼロ回答が和解協議で最大の障害になっていた。

 今回の都への拠出は大気汚染調査やぜんそくなどの予防事業のために設けられている「公害健康被害予防基金」からであり、環境省は医療費としてではないとの見解だ。ただ、60億円は都が制度を維持するとしている5年間の国の負担分に相当することもあり、医療費助成の枠組みを容認したものと判断できる。一般会計ではなく、同基金からの拠出ということで、変化球ではあるが、公害健康被害の救済を進めるという点では評価していい。

 ただ、これで東京大気汚染訴訟のみならず、大気汚染問題がすべて解決するわけではないことはいうまでもない。

 まず、自動車メーカーは原告の求めている解決金の支払いを早期に決断すべきだ。東京地裁はメーカーへの損害賠償は認めなかったものの、遅くとも73年には被害の発生を予期できたことや、排ガス低減の社会的責任があることには言及している。過去の道路公害訴訟でも和解に際して、原因企業が解決金を支払ってきた。被害者側はそれをもとに、公害対策や地域再生などの事業を行っている。

 第二は、88年に打ち切られた公害健康被害補償法による大気汚染公害の新規認定の見直しである。国は今国会で都心などへの自動車流入規制を目指しNOx・PM法を改正、健康への影響が大きいとされる粒の小さい浮遊物質の環境基準設定などにも動き出した。ただ、大気汚染とぜんそくとの因果関係は10年に結論を得る疫学調査「そらプロジェクト」をみなければわからないとの見解だ。

 しかし、窒素酸化物やディーゼル車などから排出される浮遊粒子状物質と呼吸器疾患との因果関係は、これまでの道路公害訴訟で定着している。88年の決定が財界などの要望に応えた要素が大きい以上、恒久的な被害者救済に向けた見直しは欠かせない。そのための資金負担は自動車業界にも求める必要がある。国としては道路特定財源から振り向けることも可能である。

 公害対策における国の責任は重いのである。逃げてはならない。

毎日新聞 2007年6月1日 東京朝刊

【毎日・余禄】

余録:「半ズボンか、長ズボンか」で…

 「半ズボンか、長ズボンか」で世界史が変わることもある。フランス革命当時、貴族はキュロットと呼ばれる半ズボンをはき、長ズボン姿の職人や労働者を「サン・キュロット」(キュロットなし)とさげすんだ。だが当の庶民にはそれは誇らしい呼び名だった▲おかげで長ズボン派が半ズボン派を打倒したフランス革命は、男性の標準的服装が長ズボンになる服装革命をもたらした。もし貴族と庶民のズボンが逆だったら、今ごろ日本のビジネスマンも半ズボンにタイツ姿で街を行き交っていたかもしれない▲だが、この先さらに100年後には本当にスーツが半ズボンになりかねない地球温暖化の勢いである。温室効果ガス排出抑制の一環として、政府の音頭とりで進められてきた日本の夏の服装革命「クールビズ」もきょうの衣替えで3年目を迎えた▲そうはいっても「大きな取引先相手に上着もネクタイもなしというわけにいかない」「親会社がやらないのに、子会社がノーネクタイにできない」など「クールビズ格差」も浮き彫りにした過去2シーズンだ。逆に政府推奨の服装だけに時の政権への忠誠の踏み絵のような様相も帯びる▲そこで気になるのは今夏の参院選で、自民党幹事長からは「参院選はクールビズで戦え」との指示が聞こえてきた。前の総選挙でクールビズ姿で戦ってスーツ姿の野党に圧勝したのにあやかろうというものらしい。何か服の違いが党派を分けたフランス革命の時代に逆戻りしたようだ▲当たり前のことを今さらいうのもなんだが、クールビズ・スタイルだからといって「地球に優しい人」だとは限らない。半ズボンであろうと、長ズボンであろうと、冷房をどれだけ節約するかがポイントであることをお忘れなきよう。

毎日新聞 2007年6月1日 東京朝刊


【読売・社説】

社保庁と年金 建設的な論戦がなぜできない(6月1日付・読売社説)

 社会保険庁改革関連法案と年金時効撤廃特例法案が、衆院を通過した。

 衆院では、年金不信を払拭(ふっしょく)する地に足の着いた論戦が行われたとは、とても言えない。

 年金記録漏れが争点に浮上する中、近づく参院選をにらみ、野党は政府・与党を追い込む格好の材料として追及姿勢を前面に出した。政府・与党も防戦に回って浮足立った。

 不完全な年金記録の解消に全力を尽くすのは当然だ。それとともに、年金記録漏れを含め、数々の不祥事を起こした社保庁の全面刷新も図らねばならない。同時に取り組むべき課題だ。

 参院では衆院の混乱を繰り返すことなく、論議を深める必要があろう。

 だれのものか定まっていない年金記録が、未(いま)だに5000万件も積み残されていることは無論、重大な問題だ。だが5000万人分の受給権が損なわれたわけではない。

 一人に一つの基礎年金番号が割り振られる以前の記録であるから、持ち主はかなり重複している。基礎年金番号導入前に亡くなった人のものも多い。現実には3万人弱しかいない100歳以上の人の記録が、162万件もある。

 60歳前の人の記録は支給が始まるまでに統合すればよい。支給年齢に達している人や遺族に支給漏れがあった場合は、時効撤廃により、遡(さかのぼ)って全額を受け取れるようになる。

 この作業を、出来る限り早急に、確実に行わなければならない。

 野党は、積み残し記録の解消にめどがつかない限り、社保庁の後継組織の形を定められないと主張した。それは、社保庁改革を先送りする、と言っているに等しい。喜ぶのは、現在の組織を延命したい社保庁官僚や職員労組だろう。

 非公務員型の新組織「日本年金機構」に移行すると、社保庁が残した年金記録漏れ問題の処理がうやむやになる、と危惧(きぐ)する声もある。

 だが、新組織に実務が移されても、年金手帳の発行者は厚生労働大臣だ。今後も、国民に不安を与えぬよう、国は年金給付に責任を持たねばならない。

 社保庁を非公務員組織にすることは、染みついたぬるま湯体質を取り除くための、ほんの入り口だ。年金支給に関する時効の撤廃も、最低限やるべき手を緊急に打ったに過ぎない。

 問題はその先だ。社保庁の後継組織をどう効率的に機能させるか。年金記録漏れの善後策として、さらに何が必要なのか。国民は、こうした点を掘り下げた、建設的な論戦を期待している。
(2007年6月1日2時2分  読売新聞)


G8外相会議 「対『北』連携」の内実を強化せよ(6月1日付・読売社説)

 北朝鮮に核廃棄を迫る6か国協議の枠組みを超え、広く国際社会の連携を強めることは日本にとって重要な課題である。

 ドイツのポツダムで開かれた主要8か国(G8)外相会合は、北朝鮮の核廃棄と拉致問題の解決を図ることで一致した。

 これは、北朝鮮に対する一定のプレッシャーにはなるだろう。だが、「連携」を強化し、一層密にしていくために何をすべきなのか。

 麻生外相は席上、「われわれの忍耐は無限でない。必要があれば、北朝鮮に対する圧力を強化すべきだ」と表明した。北朝鮮は6か国協議で約束した、核廃棄へ向けての「初期段階の措置」を未だ履行していない。当然の発言だろう。

 だが、実際、どのようにして圧力を強化していくのか。各国の姿勢、立場は複雑だ。日本として、とるべき対応が問われる局面である。

 議長声明には、朝鮮半島の非核化に向けた「初期段階の措置の速やかな実施」「すべての核兵器、既存の核計画並びに弾道ミサイル計画の放棄」「拉致問題の早急な解決」が盛り込まれた。

 核を廃棄せよ、という北朝鮮への強いメッセージだ。安倍首相は、6日から開かれる主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で、これがG8の一致した意思であることを確認すべきだ。

 ただ、北朝鮮に核廃棄を迫るうえで重要なのは、やはり6か国協議の場だ。その参加国の間で、最近、日本にとって憂慮すべき事態が生じている。

 一つは、日本が緊密に連携すべき米国の変化だ。米国は北朝鮮の「核廃棄」よりも、「核拡散の阻止」への傾斜を強めている。北朝鮮の核の最も深刻な脅威にさらされているのは日本だ。核保持を既成事実化させるような動きは、到底、受け入れることはできない。

 仮に、拉致問題が未解決のまま、テロ支援国指定が解除されるようなら、日本はハシゴをはずされるに等しい。

 韓国の動向も気がかりだ。先に南北縦断鉄道の試運転を行ったのを機に、北朝鮮のミサイル連射後に中止した北朝鮮への支援を再開する可能性もある。6か国合意を履行しない中で、北朝鮮に付け入る隙(すき)を与えないよう、日本としても十分、注意していかなければならない。

 G8外相会合で、米欧の関心は、北朝鮮の核よりも、ウラン濃縮活動の停止に応じないイランに注がれていた。だが、麻生外相が言うように、「北朝鮮はすでに核実験を行ったという意味でイランより深刻だ」。対北朝鮮包囲網を一層強化していく必要がある。
(2007年6月1日2時2分  読売新聞)

【読売・編集手帳】

6月1日付 編集手帳

 次の漢字に音読みのふりがなを付けよ。「欧」「桜」「押」「横」「翁」…。お茶の子さいさい、すべて「おう」で満点さ――というのは現代かなづかい(新かな)の場合で、昔の人は大変だった◆歴史的かなづかい(旧かな)では、上から順に、「おう」「あう」「あふ」「わう」「をう」となる。政府が告示によって旧かなを新かなに改めたのは終戦の翌年、1946年(昭和21年)の11月である◆旧かなを深く愛惜する人は新かなを使いたくない。なかには、新旧で表記が異なる言葉は用いず、新旧共通の表記となる言葉だけで文章を書く軽業師のような達人もいた◆「いる」(ゐる)も「であろう」(であらう)も「考える」(考へる)も使えない。不自由極まる制約のなかで1冊の本を書き上げた人に、日本文学史の研究者で筑波大の名誉教授、小西甚一さんがいる◆講談社学術文庫に収められた「俳句の世界」は、全編、流れるような筆の運びで、読む人に制約の窮屈さを少しも感じさせない。中国文学者、高島俊男さんの評言を借りれば、「奇跡の名文」である◆小西さんの訃報(ふほう)を聞く。享年91。「編集手帳」は文字数の制約がきついものだから、どうも言葉足らずになってしまい…と、日ごろ言い訳ばかりの身である。碩学(せきがく)の名文を読み返しては、心ひそかに恥じ入る。
(2007年6月1日2時1分  読売新聞)

【産経・社説】

【主張】露の対北制裁参加 国連決議の確実な実施を

 ロシアがやっと対北朝鮮制裁の実施に踏み切った。昨年10月の北朝鮮の核実験を受け、国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議1718に基づくものだ。

 だが、制裁の実施とその報告期限(決議から30日後)からは半年以上も遅れた。ロシアの対北制裁参加は当然の義務であり、遅きに失したというべきである。

 とはいえ、北朝鮮の兵器類は旧ソ連時代からの援助によるものが多いだけに、ロシアからの大量破壊兵器関連機器の輸出禁止を含む制裁は、北朝鮮に徐々に打撃を与えよう。

 一方、安保理に設けられた北朝鮮制裁委員会に制裁の報告書を提出した国は、今年4月段階で国連加盟国の3分の1、68カ国にとどまっている。これでは十分な効果はあがらない。そればかりか、安保理の権威を損ね、安保理決議の無力化を招くことになる。

 現に北朝鮮は安保理決議を無視し続け、4月に行った軍事パレードではグアムの米軍基地にも届く新型の中距離弾道ミサイルを誇示し、先週は日本海に短距離ミサイルを発射した。

 2月の6カ国協議で合意された寧辺の核施設の停止・封印など「初期段階の措置」も、期限(4月14日)を大幅に過ぎたのに、いまだに実施していない。マカオの銀行で凍結解除された北朝鮮資金の送金だけでなく、米国による金融制裁の全面解除まで要求をエスカレートさせているようだ。

 北朝鮮のこうした無法、身勝手を阻止し、核、ミサイル、拉致などの北朝鮮問題を解決に向けて動かすには、まずは安保理決議の完全実施が肝要だ。制裁委員会で早急に各国の制裁状況を確認し、公表すべきである。

 そのうえで、北朝鮮があくまで国際社会からの要求を拒み続けるのであれば、決議にもある追加制裁の検討に入る必要がある。

 ロシアの制裁参加で、G8(主要8カ国)すべてが対北制裁実施国になった。欧米との対立を深めるロシアはG8サミットを前に、これ以上の孤立を避けようとしたのかもしれない。

 中国、韓国は制裁委に報告はしたものの制裁内容は曖昧(あいまい)だという。対北制裁に後ろ向きの国は、朝鮮半島の非核化という目的の実現にも後ろ向きと疑われることになろう。

(2007/06/01 05:02)

【主張】年金特例法案 政争より救済策が優先だ

 公的年金の受給漏れで請求権が時効になった人を救済する年金時効撤廃特例法案の衆院通過をめぐり、与野党の攻防が未明まで続いた。

 社会保険庁を廃止・解体する関連法案の処理も同時に進められ、これらに反発する野党側が、不信任決議案などの連発で激しく抵抗したためだ。

 しかし、国会が混乱する姿をいくら見せつけられても、国民の年金への不安は少しも解消しない。双方の主張に折り合いをつけるのが困難である以上、与党側の判断で採決に踏み切るのもやむを得ないだろう。

 野党は5月29日に提出したばかりの特例法案を採決するのは拙速だと批判し、限られた会期内で法案処理を迫られる与党は、年金加入者の立場からも早期成立が必要だと反論してきた。ここは政争の具とせず、記録紛失などで混乱が続いている公的年金問題の解決へ冷静に取り組むことを求めたい。

 5年の時効が過ぎて請求権が消滅してしまった年金は、少なくとも25万件、総額950億円に上ると推計されている。さらに、該当者不明で再調査が必要な公的年金は、約5000万件に上る。これにどう対応するかは、政府と与野党に課せられた当面の最大の責務といえる。

 とりわけ、30日の党首討論で民主党の小沢一郎代表から政府の対応をただされ、「まじめに年金を払ってきた人に理不尽なことはしない」と安倍晋三首相が明言した意味は大きい。

 首相は5000万件の再調査について「1年以内にすべての記録と照合する」ことも約束した。本当に1年で調査が可能なのか、与党内にも疑問視する声はあるが、首相の発言は重い。結果を出せなければ当然、政治責任を問われることになる。

 納付領収書がない場合などの受給権を判断するために、首相は「弁護士や税理士らによる第三者機関」を置くと述べたが、その性格付けや権限もまだよく分かっていない。

 特例法案は時効の撤廃を定めるものであり、救済措置の詳細は別途、詰めていくことになる。前農水相の自殺、年金問題の紛糾で公務員制度改革はじめ重要法案が宙に浮きかねない情勢である。安倍首相は先頭に立ち、政権への信頼を取り戻すときだ。

(2007/06/01 05:03)

【産経抄】

 「世界があっと驚く駅を造れ」。大風呂敷のあだ名で知られる鉄道院総裁、後藤新平の号令のもとで、大正3(1914)年に東京駅は完成した。全長335メートル、赤レンガを積み上げた巨大建築を目の当たりにして、人々は度肝を抜かれたに違いない。

 ▼ 明治の後半まで丸の内界隈(かいわい)には、茫々(ぼうぼう)たる草むらが広がり、夜になると大の男も1人では怖くて歩けなかった。開業後の1日の平均乗降客も1万人足らずにすぎない。93年後のいまでは、利用客は90万人をこえ、手狭に思えるほど。後藤は今日の混雑を見通していたのだろうか。

 ▼ 設計にあたったのは、日本近代建築の祖といわれる辰野金吾だ。もっとも「辰野式ルネサンス」と呼ばれたデザインは古くさいと、専門家の評価は意外に低かった。にぎわいのある八重洲側には乗降口がなく、日本橋や京橋方面からは、遠回りしなければならない不便な造りでもあった。

 ▼関東大震災には耐えたものの、昭和20年5月の空襲で、3階部分と円形ドームを焼失した。戦後の混乱期では、2階建てにとんがり屋根という応急修理を施すことで精いっぱいだった。昭和30年ごろからは、何度も高層ビルへの改築計画が持ち上がる。

 ▼実現しなかったのは、規制の問題や資金不足もあったが、何より「東京のシンボルを残したい」という声が根強かったからだ。確かにガラスだらけで、似たり寄ったりのノッポビルが乱立するなか、ますます存在感を増している。

 ▼約500億円かけて、創建時の姿に復元する工事がついに始まった。5年先の完成を心待ちにしながら、平成という時代のことを思う。100年後に復元を望まれる建物と、その先見性をたたえられる政治家を生み出すことができるのだろうか、と。

(2007/06/01 05:01)


【日経・社説】

社説1 緑資源機構解体に踏み込んだ規制改革(6/1)

 政府の規制改革会議が現体制になって初の答申を出した。近く閣議決定する新3カ年計画の土台となる。参院選を意識して与党との対立を避けようとしたのか、農業や教育分野は斬新な提言が少ない。しかし国民生活に密着した分野では様々な制度改善を促している。また官制談合事件の舞台になった「緑資源機構」を名指しして独立行政法人の廃止・縮小に踏み込んだ点は評価できる。

 生活分野では少子化対策として育児休業を気軽に取りやすくする制度改革を厚生労働省に求めている。休みを分けて取る場合も社会保険料の免除を受けられるようにすることを提言した。現在は分割取得の要件が配偶者の病気などに限られている。厚労省は速やかに改善すべきだ。

 医療分野は診療報酬明細書(レセプト)を審査する「社会保険診療報酬支払基金」の業務効率化と審査手数料の引き下げを促した。手数料下げは健保組合の負担を軽くし医療費抑制につながる。レセプトを健保組合が直接審査できるようにする制度改革にも踏み込んでほしかった。

 安倍政権の政策看板である再チャレンジ支援では国家公務員採用試験(2、3種)の受験年齢引き上げを人事院に求めた。いわゆる非キャリア職の門戸を、子育てを終えた主婦や大学へ社会人入学した人にも開くのが狙いだ。かつての中級試験にあたる2種の受験は現在28歳まで。規制改革会議は特に就職氷河期に不本意な思いをした人の再挑戦を想定している。実現させてほしい。

 今回の答申の目玉は官業改革だ。民間の経済活動を阻んでいる大規模な独立行政法人の業務を厳しく精査し、役割を終えたと考えられる法人の廃止・縮小を強く求めている。

 具体的には緑資源機構に対して中核事業である幹線林道事業の廃止など、事実上の組織解体を提言した。同機構は林野官僚の恒常的な天下りの構図が官製談合の温床となった。答申は「機構の関与による森林造成が民間の林業経営者の規模拡大や創意工夫の意欲をそぐ」と機構のあり方を批判した。その通りだろう。

 また都市再生機構には関連会社以外への業務発注の拡大、日本貿易振興機構には一部事業廃止や外部委託による人件費改革を促している。

 多額の税金をつぎこんでいる独立行政法人の廃止は歳出改革に直結する。官僚の天下りを減らす有効な策でもある。所管官庁は提言を謙虚に受け止めるべきだ。101の全法人を市場化テストの対象にするなどして、官から民への流れをより太いものにすべきなのはいうまでもない。

社説2 ペンタックス迷走の教訓(6/1)

 迷走を続けたペンタックスの取締役会が、HOYAによるTOB(株式公開買い付け)に賛同すると発表した。両社は昨年12月に合併で基本合意したが、ペンタックスが今年4月に合併は困難として、合併交渉を進めた前社長を解職した。新経営陣は独立路線を模索したが、それも断念。経営を混乱させた責任を取り、取締役8人全員が退任するという異例の事態になった。

 混乱が生じた最大の原因は、ペンタックスの取締役会がM&A(企業の合併・買収)について基本認識を共有していなかったことだ。上場企業はいつ買収を提案されるか分からない時代である。経営者はペンタックスの迷走を他山の石として、日ごろからM&Aにどう対処するか、議論を重ねておくべきだろう。

 内紛劇のきっかけは、ペンタックスの大株主が合併比率に不満を示したことだった。合併成立の見通しが厳しくなったため、ペンタックスでは合併を主導した浦野文男前社長への反発が強まった。

 浦野氏は合併に向けて取締役会をまとめられず、社長の座を追われた。経営トップとして指導力不足だったと言わざるを得ない。一方、浦野氏を解職した取締役も昨年12月の取締役会では合併案に賛成していた。後任の綿貫宜司社長らは「取締役会の当日まで合併案を知らされなかった」と浦野氏の独断を批判した。だが合併に疑問があるなら、決議に待ったをかけるのが取締役の責務であり、一貫性を欠いていた。

 HOYAが合併からTOBへの切り替えを提案した後も、ペンタックスの取締役会は合併に代わる案を明確に示して株主の支持を得ることができなかった。最後は大株主から事実上の退任要求を突きつけられ、従う結果となった。企業イメージを低下させた責任は大きい。

 上場企業の取締役は平時から様々な買収・合併のケースを想定しておくべきだろう。買収防衛策の導入だけがM&A対策ではない。同業他社やファンドに合併、買収される可能性も検討し、それが現状より企業価値を高めるのか、分析しておく必要があろう。場合によっては買い手を積極的に探し、交渉することも取締役の使命といえる。

【日経・春秋】

春秋(6/1)

 ベランダに真っ黒な煤(すす)が降り注ぐ部屋に暮らす人がいる。酸素吸入器に頼らなければ一睡もできない患者がいる。東京大気汚染訴訟の原告たちは、粉塵(ふんじん)を含んだクルマの排ガスがどれほどの健康被害をもたらすかを繰り返し訴えてきた。

▼裁判は高裁で和解協議に移り、ぜんそくに苦しむ患者への医療費助成が焦点だ。しかし国は資金を出すのをかたくなに拒んできた。それが一転して、60億円を拠出するという。どうした風の吹き回しかと思うが、安倍晋三首相の政治決断である。高齢化する原告側の喜びは大きい。記者会見で涙ぐむ女性もいた。

▼思い出すのは、小泉純一郎前首相がハンセン病訴訟の控訴を断念した6年前の政治決着劇だ。この種の裁判は官僚任せではとんと埒(らち)が明かないから、最後は政治家が前に出なければ収まらない。あの決断を機に小泉さんの人気は沸騰した。安倍さんとしても、前途多難な今こそ指導力の見せ場と心得たに違いない。

▼国が出す60億円はぜんそく対策の基金から取り崩すという。裏技めいているが、こんな手立てさえあるなら、なぜもっと早く踏み切れなかったのだろうか。この訴訟は最初の提訴からすでに11年。政治判断が問われる裁判はほかにも少なくない。安倍さんにはさらなる決断を期待したい。選挙前とは限らずに。


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7月参議院改選,7月末イラク特措法の期限切れを控え,終盤国会が緊迫した局面を迎えている.志位共産党委員長がCS放送のインタビューで今国会の焦点を簡潔に述べているので採録したい.委員長は最重点項目として以下の3点を挙げている.厳粛にして重い課題である.①「消えた年金」問題 ②公務員天下りの制度化 ③「イラク特措法」延長 これらは一つには自民党長期単独政権の積年の弊の噴出であり,さらには自公民政権の政策が構造的に破綻したことを証明するものである.中でも対米追随の小泉売国政権が国民に塗炭の苦しみ... [続きを読む]

受信: 2007年6月 6日 (水) 16時45分

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