全日本選手権決勝。
池、門馬さんお互いにキープし、迎える第3ゲーム。
門馬さんはこのリターンゲームでも一歩前でのプレーで、守るための攻めの姿勢を崩さず。
すると池はその逆に、一歩下がってのプレー。
守りを固める積り――そう考えるエーちゃんだが、荒谷と井出がそれを否定。
守るための一歩ではなく、攻めるための余裕を作る一歩。
展開が速くなると、攻撃の選択肢が減ってしまうため、門馬さんが前に出たぶんを下がることで帳消しにした。
下がっても、あくまで攻撃。
これが門馬さんに言われた『攻めるための守り』なのだろうかと考えるエーちゃん。
そうやって言われて、改めの二人のプレーを確認する。
すると池は確かに下がった分攻撃力はやや落ちたものの、優位は確実に保っている。
そんな中でチャンスを見つけると、強烈なフォアで一気に攻勢に。
それでも、そのショットに追いつき、返す門馬さんも流石。
しかし、これで池の圧倒的有利な状況。
するとここで池はそのショットに対してドロップショットで返す。
これには門馬さんはおろか、会場中の空気が一瞬凍る。
寒気がするほど滑らかな一発。
あの門馬さんが追おうにも一歩も動けなかった。
それほど完璧な一撃。
そして次もお互いが主導権を取りあうラリー戦に。
それを観るエーちゃん。
「あれじゃ結局攻めも守りもせず『逃げ』てたようなもんだ――」
その門馬さんの言葉を思い出す。
守備力日本一の門馬さんは攻撃力日本一の池の攻撃から守るために前に出た。
逆に池は門馬さんに攻め勝つために後ろへ下がった。
これが『逃げない攻めと守り』なのだと。
そしてこれが自分のチェンジオブペースを逃げずに展開するのならと考える。
例えば今、一緒に見ている荒谷とやる場合。
後方から強打でくるなら、その分自分も前に出るべきか。
あるいは荒谷は終始一定の球威がある球で攻めてくるため、緩急差を大きくするべきか。
また井出となるなら。
状況次第でプレーが読めない井出だが、球威はそこまでではない。
一歩下がって様子を見ながら、球威のある球を軸にしたチェンジオブペースにするべきか。
そして難波江なら。
何にでも対応できて弱みもない、それだけにどうするべきかと。
一度やられて、外から見ることでエーちゃんは実感していく。
この展開で追い込まれたら今の自分には選択肢がなく、逃げることしかできない。
試合の展開はラリーの最中に池が攻めネットに。
そこからの鋭角のバックハンドのクロスに門馬さんが飛びつきながらの、パッシングショット。
これが決まり、猛烈な気合を見せる門馬さんと、それを肌で感じ取る池とコート内の戦いも激しさを増す。
このラリーの応酬をみたエーちゃんは痛感する。
こういったハイレベルの打ち合いの中で逃げずに戦うのあら、その時の状況次第でどう攻めてどう守るかの選択肢を常に複数確保しながら、それを主導していかなければならない。
そして難波江はそれがよくわかっているからこそ強いのだと。
また浅野さんに言われた言葉。
「守る必要はないけど、攻めにくい状況――」
それも今までのエーちゃんの中にはない選択肢だった。
それを聞いたからこそ試合中に試行錯誤しながらだったものの多少の抵抗ができた。
でもエーちゃんがチェンジオブペースで勝つには、攻撃にも守備にも主導的にできる選択肢が全然足りなかったと。
そのために必要なものは力、技術のほか、脚力、忍耐力、集中力、戦略の数、実戦経験。
試合後に痛感した心技体の全て。
一朝一夕ではどうしようもないものばかり。
全部足りないと、全部必要なのに。
全部。
わかっていたものの、目標への遠さを改めて実感することに。
試合は第12ゲーム。
門馬さんのダウンザライン、それに対して強引に回り込む池。
それをダウンザライン、しかもライン上に決め、池がブレイク。
7-5で第1セットは池が取る。
頂上決戦、池が一歩リードという所で次回<#372 自我>につづく。
うん。
まさに頂上決戦に相応しい試合展開ですね。
攻めるために下がる池と守るために前にでる門馬さん。
非常に燃える展開ですね。
そしてその試合を観て、自分の足りないものを改めて自覚するエーちゃん。
負けて、その上で観客席から見るからこそ分かることもあるってことですね。
エーちゃんにとっては勝った試合以上に大きな成長の糧となる試合だったんだなぁと今さらながらに。
足りないものを自覚してからのエーちゃんの成長は半端ないですからね。
とはいえ、エーちゃんが思ている通り、何せ足りないものが全部ということで一朝一夕でどうこうなるものではないですが。
しかし、今後の成長――練習過程何かが楽しみです。
試合の方はほぼ完全に互角。
その中で無理をした池が1ブレイクアップで第1セットを奪取。
これは単純にリードした池が優勢と見るべきか。
門馬さんもこのまま終わるはずがないですからね。
次回は門馬さんの逆襲でしょうか?
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