エーちゃん、岡田共にキープとブレイクを繰り返す乱戦となった第3セットは4-4の第9ゲームへ。
先ほどの丸尾・岡田コールに沸いた13番コート、今度は嘘のような静けさの中試合が進んでいく。
サーブを優位を盾に強引に決めにいく岡田。
一方、打点を安定させないため、球にわずかな変化をつけ、更にコースもつきチャンスをたぐりよせようとするエーちゃん。
一見すると攻める岡田と守るエーちゃんという図式。
しかし共に限界の積極策で戦っている。
そしてこの第9ゲームも混戦となり、迎えた3度目の40-40。
ここが試合を決定付けるポイントとなる。
この日、岡田最高のサーブがワイドギリギリをかすめる。
それを辛くも触ったエーちゃんのリターンは逆回転のかかった高いロブとなり、幸運にも岡田側ベースラインギリギリに落ちる。
岡田はそれを迷わずグラウンドスマッシュ。
それにも間一髪追いついたエーちゃんは、わずかにサイドスピンを効かせた遅いスライスで時間を稼ぐ。
その球が以外と深く入り、岡田のチャンスにはならない。
しかし岡田は好調時こそ速攻と、回り込んでの渾身のライジング直球で勝負に出る。
一方で強引すぎるという自覚もあったため、通常より前につめ、エーちゃんにプレッシャーをかける。
岡田の勢い、そして動きを見たエーちゃん。
スピンロブで前につめた岡田の上を抜きにかかる。
これがいい角度で上がり、岡田は一端ハイバックボレーで攻撃の立て直しを迫られる。
これで体勢がほぼ互角になり、今度はエーちゃんが攻勢に移ろうとする。
チェンッジオブペースに引きずり込むために、アドコートのコーナー深くに直球をコントロール。
しかし岡田はその次の手を許さない。
エーちゃんのコントロールショットに対し、ミスを恐れず直球でのストレートで逆襲。
それによって再び劣勢に立たされたエーちゃんはわずかにサイドスピンをかけたオープンコートへのクロスで対抗。
しかし、やっと崩しかけたにもかかわらず一球で劣勢にされたことに苦しい状況。
エーちゃんがコート中央に戻る間もなく、岡田は一撃必殺を狙うさらに強烈なクロスを放つ。
苦境のエーちゃんは山なりの強いトップスピンで立て直しを図る。
一方の岡田のライジング直球もピンポイントな打点を強いられる故に微細な感覚を要するショット。
そういうショットを打ち続けながら、岡田は思っていた。
絶対逃せないこのポイントで、これだけ打ち合っているのに一球たりとも同じ球種がなく、一切、手元の気が抜けない。
そうなると長期戦は不利。
その考えの下、これで終わりと渾身のストレートを放つ。
エーちゃんはそれに、ギリギリのところで追いつく。
しかしもうスライスでしか届かない。
そんな中でもエーちゃんは工夫。
ドロップショット。
そして前へ。
互いにネット際に。
そんな中、岡田が選んだのは、コースを塞がれていても一点だけ直球強打を狙えるボディ。
エーちゃんは何とか反応するものの、当たったのはフレーム。
それが岡田のコートに。
そして岡田はこの時点で自分が見誤っていたことに心底気づかされていた。
試合開始からここまでポイントを重ねる度、エーちゃんに脅威を覚え、それが増幅していくのを肌で感じてはいたが、それでも地力では勝っていると思っていた。
しかしここで感覚的に理解した。
エーちゃんは自分とかけ離れたテニスをするから気づきにくかったが、レベル的には自分とそう変わらない場所にいると。
(だとしたらもっと上・・・・。もっと上を行くだけ!)
その強い意志を込めた、渾身の一球。
それはネットに当たり、上へと跳ねる。
――というところで次回<#208 勝者と敗者>につづく。
さて、第3セット、4-4のデュースとはいえ、一球にこれほどページを割くとは。
いや、というか、今号ではそのポイントも決まっていませんが……。
うん、サクサクっとポイントが動くのも、それはそれで面白いですが、こうやって最重要ポイントを意識しての超絶ラリーは見ごたえがありました。
こうスローテンポなのに、物凄く燃える展開というか。
なのに、今回がGW合併号なため、決着は再来週に。
……いや、サブタイ的に次で決着……ですよね?
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