魂までは奪われていない
地球征服を目論む宇宙人や悪魔や異世界人が、人間の肉体を乗っ取ってすりかわるというお話は昔から非常に多いと思う。
レイ・ブラッドベリの「ぼくの地下室へおいで」(萩尾望都さんが漫画化)や、平井和正さんの「死霊狩り(ゾンビー・ハンター)」(小説より先に桑田次郎さんにより「デスハンター」という漫画になっている)は、いずれも宇宙人が人間にとりつき、人類に気付かれないよう秘密裏に地球侵略を進めるものだ。
ジェリー・アンダーソンの人形劇「キャプテン・スカーレット」では、火星人ミステロンは肉体を持たず、人間の肉体を乗っ取るのだが、逆にキャプテン・スカーレットは肉体を奪い返し、ミステロンの能力をも得たというもので、永井豪さんの「魔王ダンテ」や「デビルマン」は、悪魔が人間の肉体を取り込むはずが、人間が悪魔の身体を奪って悪魔に立ち向かうものだ。
ところで、こういったお話は、空想でも何でもない。
我々はすでに、肉体というか、それを支配するはずの意識をすっかり乗っ取られてしまっているのである。
それは、世間という悪魔によってである。そこに宇宙人や異世界人などの意図があるのかどうかは知らないが、意志を勝手に支配されているのは確かである。
では、同じく意識を乗っ取られているはずの私がなぜこんなことを書けるのかであるが、上にあげた「キャプテン・スカーレット」の制作者ジェリー・アンダーソンの「謎の円盤UFO(原題は“UFO”)」にこんなお話がある。
地球防衛組織「シャドー」の司令官ストレイカーの親友の宇宙飛行士が、宇宙人に精神を奪われて遠隔操作され、ストレイカーを抹殺しようとする。無表情な顔で自分を殺そうとする親友にストレイカーが言う。
「心は奪われても、魂までは奪われていないはずだ」
ストレイカーの言葉が本当であったかどうかは分からなかったし、どう見ても悲観的だった。親友は元に戻らずに死ぬ。しかし、その親友が一瞬、ストレイカー殺害を躊躇したように感じられなくもなかった。
我々も、両親や学校、社会によってほとんど意識は支配されている。しかし、魂までは奪われていないと信じたい。
上にあげた、「ぼくの地下室へおいで」を含む、ブラッドベリの傑作SFが萩尾望都さんによって漫画化された「ウは宇宙船のウ」は素晴らしい作品になっている。特に私は「みずうみ」が好きで、これは別の意味で我々自身の魂を取り戻すきっかけになる奇跡的な作品だ。
ジェリー・アンダーソンやレイ・ブラッドベリは、魂までは奪われなかった人間が、我々に貴重なメッセージを送ってくれているのではないかと思う。
【ウは宇宙船のウ】 レイ・ブラッドベリの「ウは宇宙船のウ」「泣き叫ぶ女の人」「霧笛」「みずうみ」「ぼくの地下室においで」「集会」「びっくり箱」「宇宙船乗組員」を漫画化。萩尾さんの繊細で美しい絵と鋭い洞察力による理解によってまさに傑作になっている。 | |
【10月はたそがれの国】 ブラッドベリの傑作19作品を収録。上記「みずうみ」も入っている。 |
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