VSOPに撤する
VSOPといえば、ブランデーの熟成度合いを示す名称で、これが高い程、高級とされる。VSOPは熟成度は高い方で、VSOの上、最高クラスのナポレオンの下である。
ところで、VSOPを、ベリー・スペシャル・ワン・パターンという言い方をする場合があるのをご存知だろうか?
「ワン・パターン」とは、芸や行動などのバリエーションが極めて少ない者をからかう言葉として使われるが、それをさらに強調した言い方をブランデーの等級にかけた言葉がVSOPというわけだ。
このVSOPという言い方は、60年代から80年代にかけて活躍した優れた競馬騎手である吉永正人さんに由来する。彼はある1つの戦法でよく勝利したので、そう呼ばれるようになったのだ。実は名誉ある言葉なのである。
1976年に連載が開始され、いまだ継続する、青池保子さんのウルトラ長編漫画「エロイカより愛をこめて」の中で、SIS(イギリス情報局秘密情報部)のエージェントであるロレンス(ギャグキャラである)がお決まりのカッコ付けをして、「いい男はいつもワン・パターンです」と言う場面がある。笑いを取るところではあったのだが、私は、この言葉が非常に印象に残っている。
※SISは、ジェームズ・ボンドで有名なMI6と同じで、現在はSISが正式名称であるが、なぜか今でも旧称であるMI6が使われることが多い。
いい男、あるいは、スペシャルでスーパーな男はワン・パターンである。
これは絶対である。出来る男は馬鹿の1つ覚えにこだわるのである。
素晴らしい男になりたいなら、VSOPに撤することだ。
(男は馬鹿だからそれが必要という理由も否定できないが、その説明は省く。女性もVSOPの威力は確かだが、多少緩くても良いとは思う)
格闘技でも、強い選手には、その選手を特徴付ける技が必ずある。相手選手は、分かっていても、その技でやられる。
同じことの繰り返しは、神秘的な威力を生む。
食に関しても、特別な人間はVSOPであり、バラエティ(多様性)に富んだ食を楽しむ者に大物は多くない。
宮崎駿監督は、アルミのお弁当箱に入った、ご飯、卵焼き、ハム、沢庵程度のお弁当1つを、昼と夜に分けて食べるということを25年以上毎日続けている。
オバマ大統領は、会食でもあれば別だろうが、毎日、サーモン、ライス、ブロッコリーの夕食だ。
あるいは、食全体としてはなりゆきで多少は多様化していても、一流人は「酒はこれ」「デザートはこれ」と固定したものがあるものだ。
私がセールスマン時代、こよなく敬愛していた、スーパーセールスマンの夏目志郎さんは、一時、19歳の美人の助手を伴って、アメリカの高級車に乗ってセールスをしていた。
ある時、車に戻ると、その女性が泣き出した。訳を聞くと、夏目さんが可哀相だと言う。なぜかと聞くと、いつも同じことばかりお客さんの前で喋るからだと言う。
夏目さんは、いつも同じセールストークをすることの大切さを力説する。セールストークは繰り返すことで威力を増す。
このことを本で読んだ私は、早速、ワン・パターン・トークで挑み、見事、セールス・コンテストで優勝した。
私は大物ではないが、建設的にVSOPを心掛けることの威力を実感している。
朝は4時40分に起き、決まった時刻にお茶を飲み、決まった運動をする。
そして、6時半にブログを更新する。私のブログ記事投稿時刻は、常に6時半頃になっている。
会社では、必ず午後3時半に休憩室で、毎日同じ缶コーヒーを飲む。ただ、その時見る顔ぶれは毎日違う。
予定外のことが起こらない限り、同じ時刻に同じような夕食をとり、同じ時刻にトレーニングし、同じ時刻に読書し、同じ時刻に寝る。
水野南北は、食事の時刻と量が常に一定であることが開運の秘訣と常に強調した。
量も食事時間も一定しない者は問題外なのだそうだ。
天才ならいざ知らず、私のような凡人はゆめゆめ忘れてはならないことである。
「ローム太霊講和集」で、ローム太霊は何度も言う。
「人は奔放に振舞いたいものであるが、自己に課した制約に応じて神は力を授けるのである」
これこそ、本物の人生の秘訣と思う。
新修 南北相法・修身録(全) 当ブログで度々紹介する、忘れられた感はありますが、日本の秘宝ともいえる名著の読みやすい現代語訳です。 水野南北の食もまたVSOPでした。 第2部の「相法修身録」が特に重要で、ここだけを馬鹿の1つ覚えのように読んでも良いと思います(南北は、少なくとも3度読んで欲しいと書いています)。 | |
退屈力 あらゆることで多様な刺激を求め、また、それが与えられてしまうことで、すっかり堕落し、惨めになった日本人。 同じ漫画を何百回と読むしかなかった少年時代を持つ昔の漫画家の作品はいつまでも残り、武道では、同じ動作を徹底して繰り返すことで不思議な力が身に付きます。 いまこそ、退屈力を甦らせ、日本がかつて持っていた貴いものを取り戻したいと思います。 |
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Comments
シュタイーナーが同じことを書いています。
認識を高め、叡智の目を開く方法として、毎日同じ時刻に同じことを実行する。
文はこのこのとおりではありませんが、内容はVSOPと同じでした。
同じ時刻に同じドアノブを回す。
同じ時刻に同じ文鎮を移動する。
Posted by: ハマナス | 2010.02.04 11:19 AM
★ハマナスさん
で、あなたは実行してますか?
Posted by: Kay | 2010.02.04 11:01 PM
残念ながら、どれ一つ、現実に実行しておりません。
憧れるばかりで、続かないのが私です。
私ができることは、「ありがとう」を呪文のように心に繰り返すことだけです。
Posted by: ハマナス | 2010.02.05 07:18 AM
★ハマナスさん
呪文でも、続けば立派なものです。
Posted by: Kay | 2010.02.05 09:26 PM
毎日楽しみに読んでおりますが、今回は特に感動したのでコメントさせていただきます。
私は「やったことのないことをやるべき」という考えで、二つの道がある場合は「やったことのない方を」選んでおります。
仕事に関しては、最終的に同じアウトプットがでるならば「柔軟な方」を選んでおります。
つまり、今回の記事は私の対極に近い位置から書かれておりまして、それにも関わらず、納得させられました。
普段はおおよそ方向性が一緒だな、と思って読んでいたもので、今回は驚きつつも、新たな発見とさせていただきました。
これからも楽しみに読ませていただきます。
ありがとうございます。
Posted by: holypp | 2010.02.09 12:43 AM
★holyppさん
やったことがないことは大いにやるべきですね。
それは別に、果てない反復の重要性と矛盾しないと思います。
揺るぎない信念と冒険心、共に人生に大切なものだと思います。
Posted by: Kay | 2010.02.09 09:33 PM