楡周平の「プラチナタウン」、時代を先取りしすぎてビックリ!
今日はお隣の湯梨浜町をドライブした後、馬ノ山展望台にクルマを停めて読書してました。

こんな感じに東郷池を見下ろすスポットで、しかも人がほとんどいないのでお気に入りの場所の一つです。
そして読んでいたのがタイトルにもある通り、楡周平著「プラチナタウン」です。
きっかけはこの前読んだ「日本列島創生論」で紹介されていたからです。
私にとって楡周平といえばパソコン通信を利用した麻薬密輸を取り扱った「Cの福音」が思い浮かびます。
その後、続く朝倉恭介シリーズを一通り読んだのですが、途中から主人公がありえないほど強くなってしまい興が冷めてしまいました。
その後、氏の作品は読んでなかったのですが、まさか地方創生がらみの本で紹介されるとは…
てっきりクライム小説でいくのかと思ってました。
それで15年ぶりくらいに楡小説を読んでみたのですが、これがビックリするくらいエンターテインメントな作品で、かつ現在の社会問題に取り組んだ意欲作でした。
調べると大泉洋主演でドラマ化もされているようです。
《あらすじ》
総合商社部長の山崎鉄郎は、一寸したつまずきから出世街道から外された上、150億もの負債を抱えて平成の大合併からも爪弾きされた故郷・緑原町の町長を引き受ける羽目に陥ってしまう。鉄郎のビジネススキルを当てにする故郷の人々。しかし、町長に就任してわかったことは、財政再建団体入りは不可避といえるような、想像以上にひどい現実だった。
そんな中でさえ、事態の厳しさが認識できない人々、相も変わらず私腹を肥やそうとする町議会のドンなど、鉄郎の前に田舎ゆえにまかり通る非常識が立ちはだかる。そんな困難に挫けず、鉄郎が採った目からウロコの財政再建策とは?一発逆転の大勝負ははたして成功するのか?
核家族というライフスタイルを造った八百万団塊世代の定年で本格化する「老人問題」、地方交付税や国県補助金の減額でますます強まる「地方の疲弊」、大型団地だけでなく都市部の私鉄沿線でも始まった「町の虫食い化」など、現代が抱えるビビッドな社会問題を、追いつめられた男・山崎鉄郎と周りに集まったユニークな人々が、様々な困難を乗り越え痛快に解決していく、著者の新境地を示す新社会派小説、ここに誕生!
(Amazonより)
この舞台となる緑原町、使う人がいないのにいろんな施設を作ってきた典型的なハコモノ行政として描かれています。そして入居も決まっていないのに工場誘致用に3万坪もの町有地を整地するありさま。もちろん誘致は成功せずその土地は塩漬けされたままです。
そして目からウロコの財政再建策というのが、その土地を元在籍していた商社に「巨大永住型老人介護施設」用として無償貸与するというものです。
巨大というだけあって提供部屋数は介護型、非介護型合わせて4,250室。対応する介護職含めた運営スタッフが690人というコンセプト。
土地を無償貸与するので、緑原町の主な税収アップは施設の固定資産税と、老人移住者のサービス利用や購入品の売り上げと介護スタッフの給料からの税収などになります。
介護職についても田舎だから安く生活できる、要介護者がまとまっているので効率よく介護ができ、報酬が上がりやすいなどのメリットがあるため、ずっと介護職を続けられるようになる。
などなど説得力のある内容でした。
でも何より驚いたのは、これが刊行されたのが9年も前だってことです!
連載開始は2006年11月号からとありますが、その前には取材期間だって必要だったでしょう。そう考えるとこのアイディアを思いついたのは、タイミングからしても夕張市の財政破綻がきっかけだったんでしょうね。
そしてそれと今もなお深刻な老人問題をうまく組み合わせた解決策を提示し、あまつさえエンターテインメント作品として仕上げる楡氏の手腕には脱帽です。
正直なところ、娯楽小説としては悪役がちょっと小物だったかな?
あとは移住してくる老人は基本的に都会で持ち家を持てるほどに成功した層がターゲットとなっているため、もともといる住人との摩擦みたいなものが描かれるとよりリアルで楽しめたと思います。
でも後者に関しては次作がすでに出版されているようなのでそちらを読んでみたいですね。
ちなみに日本創成会議が高齢者に地方移住を促した、いわゆる増田レポート第2弾が出たのがちょうど2年前です。
(参考:東京圏の高齢者、地方移住を 創成会議が41地域提言)