異例の「社名公表」 下請けいじめ潰しの奇策に賛否 公取委の思惑は

公正取引委員会=東京都千代田区で2019年9月2日、松本尚也撮影
公正取引委員会=東京都千代田区で2019年9月2日、松本尚也撮影

 下請けいじめは「社名公表」を――。公正取引委員会は2年前、中小企業など下請けとの取引で適切な価格転嫁に応じようとしない大企業に対し、法令違反を認定しないまま社名を公表するという新手を講じた。独占禁止法に基づく対応とはいえ、従来の公表基準にそぐわない「奇策」はハレーションを呼んだ。それでも公取委は今年度、3回目の公表に踏み切る構えだ。強硬姿勢の背景とは。

「不意打ち」の余波

 「企業の法務や独禁法(に精通した)弁護士と話すたびに『次はいつですか?』と聞かれる。社名公表はそれくらい警戒されるようになっちゃった」。公取委関係者はこう苦笑する。

 始まりは2022年末。原材料費などの高騰に伴うコスト上昇分を価格に上乗せする価格転嫁を巡り、公取委は下請けとの価格交渉に後ろ向きとみなした13社を公表した。物流や小売りなどの業界大手が含まれていた。

 公表された側にしてみれば、法令違反を認定されたり、行政処分を受けたりしたわけではない。「不意打ちだ」と猛反発し、直接抗議にとどまらず、公取委を相手取る訴訟をほのめかす動きもあったとされる。

 この頃、政府は中小企業の「賃上げ促進」を重要政策に掲げた。実現には企業間取引における適切な価格転嫁が不可欠。それを大企業にのませることが、公取委のミッションとなった。

 公取委は大企業の横暴を調べる「優越Gメン」を設置し、緊急調査にも着手するなど、矢継ぎ早に情報収集を強化。その結果、下請け法違反に基づく勧告数は23年度に13件となり、前年度から倍増した。今年度も11月21日時点で10件に上る。

 ただし公取委幹部に言わせれば、こうした勧告数の増加は「副産物」だ。価格転嫁の推進こそが本丸であり、最も有効な手段と考えるのが「社名公表」だった。

公取委の自問自答

 「規制官庁が社名を出せば、それだけで制裁的な意味合いを持ってしまう」「法令違反を認定しない段階での社名の公表には慎重であるべきだ」――。23年秋、公取委内部では激しい議論が交わされていた。

 論点は再び公表に踏み切るかどうか。1年前の初公表時のハレーションは公取委にとってもトラウマとなり、再現は避けたいというのが本音だった。価格転嫁に関する2回目の調査のまっただ中のことだ。

 「社名公表」の前段として公取委は書面調査を行い、下請け側から「価格転嫁に応じてくれない」との指摘が特に多かった大企業に対し、任意の立ち入り検査をしたり、報告命令を出したりする。そのうえで悪質性などを考慮して公表の是非を判断し、公表時には「独禁法や下請け法の違反を認定したものではない」とのただし書きも添える。

 一方、公取委が社名を公表するのは従来、法令違反を認定して「命令」などの行政処分を科す場合がほとんど。違反の恐れを指摘する行政指導の「警告」の場合も公表はあり得るが、事前に弁明の機会を与える。行政指導に満たない「注意」ならば原則非公表だ。

 このため、価格転嫁に応じようとしないという理由だけで行う「社名公表」には、公取委OBからも「従来と比べてバランスを欠く」との批判が相次いだ。

公表ありきの議論

 もちろん「社名公表」には法的根拠がある。独禁法の適正な運用を図るため、必要な事項を一般に公表することができる――とする同法の規定だ。

 「必要な事項」の定義が曖昧で際限がなく、「抑制的に適用すべきだ」との意見は公取委内部でも根強い。だが初公表後に交わされた議論は、公表の是非をゼロベースで検討するのではなく、判断基準をより明確にしてハレーションを避ける方法を探るのが狙いだった。つまり「公表ありき」で議論が進められた。

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