トランスジェンダー「定義なし」なぜ閣議決定? 当事者にやまぬ攻撃
性の多様性に関する国民の理解を進めることを目的とした「LGBT理解増進法」が成立してから16日で1年。岸田文雄政権がこの間、生まれた時の性別と性自認が一致しない「トランスジェンダー」について「確立した定義を有していない」とする答弁書を閣議決定したことは、意外と知られていない。なぜ、こうした閣議決定をし、その真意はどこにあるのか。背景を探った。
発端は議員の「なりすまし」指摘
答弁のきっかけは1月末、当時参院議員だった須藤元気氏(無所属)=衆院補選への立候補で4月に自動失職=が提出した質問主意書だ。
須藤氏は、同法が成立してからトランスジェンダーを装った「なりすましトランスジェンダー」が女性用の浴場やトイレに侵入し、「『心は女性です』と言って罪を免れようとするようになった」と主張。①政府におけるトランスジェンダーの定義とはなにか②生物学的に男性、かつ性自認が男性の方が女装している場合はトランスジェンダーに該当するのか――などと6項目にわたって質問した。
政府側は2月9日付の答弁書で、①について「政府として確立した定義を有していない」と記載。②についても「定義を有していないため、お尋ねについてお答えすることは困難」とした。
同法の正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」だ。
条文を調べてみると、「性的指向」については「恋愛感情または性的感情の対象となる性別についての指向」と定義。「ジェンダーアイデンティティ」については「自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無または程度に係る意識」と定義しているが、トランスジェンダーを含め、具体的な性的指向や性自認に関する定義は示していない。
一方、厚生労働省が2020年に作成したリーフレットでは、トランスジェンダーについて「生物学的・身体的な性、出生時の戸籍上の性と性自認が一致しない方」と表現している。
この違いについて、答弁書を担当した内閣府は取材に「各府省の表現もまちまちなので、政府として確立した定義は有していないと表現した」と説明する。
性自認が男女どちらにも当てはまらない「ノンバイナリー」当事者である高井ゆと里(り)・群馬大情報学部准教授(倫理学)は「『定義がない』という回答だけ見れば、社会の中でトランスジェンダーの存在を認める流れと矛盾しているように見えるかもしれないが、ある意味で賢い対応と言える」と話す。どういうことなのだろうか。
保守派が追及する「女性スペース」問題とは
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