論文購読&掲載料で「もうけすぎ?」 あの学術出版社を直撃した

必要な論文が読めない――。学術誌の購読料が高騰し、購読契約を打ち切る大学が出ている。それならばと近年、論文をインターネット上で無料公開する見返りに「掲載料」を取る出版社が増え、研究者から「二重取りだ」と不満が高まっている。
学問の成果は人類の共有財産ともいうべきもの。「出版社はもうけすぎ」との批判も聞かれる。出版社側はどう考えているのか。国際科学誌のトップに君臨する「ネイチャー」発行元の日本法人社長を直撃した。
「研究者サポートが役割」
取材に応じたのは、英国とドイツに拠点を置く学術出版大手「シュプリンガーネイチャー」の日本法人社長、アントワーン・ブーケ氏。東京都港区の同法人オフィスでインタビューすることができた。
「私たち出版社の役割は研究者のサポートだ。研究者が研究し、迅速かつ効果的に出版できるよう支援するサービスを提供している」。穏やかな口調で切り出したブーケ氏はこう続けた。「研究サイクル全体に出版社は関与している」
ブーケ氏によると、論文の投稿から掲載までの間、また掲載した後もさまざまな作業が存在する。第三者による論文内容のチェック(査読)や論文の管理、アーカイブなどだ。ブーケ氏は「出版に関するインフラの多くは業界が提供している」と胸を張った。
値上がり続ける購読料
学術誌の歴史は17世紀にさかのぼる。当初は学会中心で運営していたが、第二次世界大戦後、商業出版社によるビジネスが本格化した。
とはいえ、専門性が高いため市場競争原理が働きにくい。購読料は年々上昇しており、文部科学省などによると、2022年の自然科学系電子ジャーナルの年間平均購読料は1誌2700ドル(約40万円)と10年前の約1・5倍だった。日本の大学が21年度に負担した電子ジャーナルの購読料は総額約329億円で、10年間で110億円以上増えた。円安も重く響く。
なぜ購読料を上げねばならないのか。ブーケ氏は「サービスを提供するためのコストは投稿される論文数と関連する」と説明した。世界の論文数は1981年の39万9304本から、21年は205万4013本と5倍以上に増えた。それに伴って出版社側の作業コストが膨らんだ分が、価格転嫁されているというのだ。
ただし、査読に関しては世界中の研究者がボランティアで担っており、出版社への「もうけすぎ批判」にもつながっている。同社の22年度営業利益は4億…
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