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不安社会・健康情報の代償

がん患者やダイエット食品の利用者の中には、日常生活の中で抱く不安につけ込まれ、思わぬ行動に陥ってしまう人がいます。その背景に迫ります。

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不安社会・健康情報の代償

我が子に打たせなかったワクチン 母を改心させたものとは

埼玉県に住む女性の母子健康手帳の予防接種記録欄。子どもが生まれてしばらくはワクチン接種をためらい、受けさせなかった=本人提供
埼玉県に住む女性の母子健康手帳の予防接種記録欄。子どもが生まれてしばらくはワクチン接種をためらい、受けさせなかった=本人提供

 埼玉県で暮らす40代の女性は2年前、自宅近くの小児科クリニックを訪ねた。手には、ワクチン接種の記録欄が真っ白の母子手帳。幼稚園に通う子どもの手を引き、おどおどしながら受付の女性に話しかけた。

 「うちの子、実はワクチンを何も打っていないんですが、打てますか」

 「大丈夫ですよ。打てますよ」

 あっさりと受け入れてくれた。「ワクチンを何も打たせてこなかったことをとがめられるのではないか」。そんな不安は吹き飛んだ。医師や看護師に理由を聞かれたり、責められたりすることはなかった。帰り際、看護師がこれから打てるワクチンをメモして、手渡してくれた。

 妊娠すると、自治体から母子健康手帳が配られる。母子手帳には、生まれてから学童期まで、国が接種を勧めているワクチンの一覧表が載っている。接種を受けると、接種日や接種量、製造番号などが記録されるが、接種を受けていないと空欄のままだ。

 女性が、それまで20回近くあった子どものワクチン接種の機会を避けてきたのはなぜなのか。

 この連載は全8回です。このほかのラインアップは次の通りです。
 1回目 亡き夫がすがった「自由診療」 妻は効果を司法に問うた
 2回目 がん患者が自由診療に感じる魅力 専門家が分析
 3回目 なぜ人は「疑似科学」を信じるのか 心理面から見える理由
 5回目 ワクチン拒否が招くリスク 確かな情報の伝達で医師がしたこと
 6回目 かゆみに苦しんだアトピーの子 脱ステロイドでたどり着いた先は
 7回目 ステロイド うわさの副作用は本当なのか
 8回目 「痩せ」は美しい? ダイエットゼリーに潜んでいた落とし穴

「『自然派育児』をしたい」

 きっかけは自身の体調不良だった。お酒を飲み過ぎて胃を痛め、アルコールを断った。食習慣を変えようと、動物性たんぱく質などを控える「マクロビオティック」や化学合成添加物を使わない自然食について勉強を始めた。そしてほどなく結婚し、妊娠する。

 「せっかく妊娠して、子どもも生まれた。赤ちゃんの体を洗うせっけんや着る物、口にするものは良いものを選んで使ってあげたい」

 母になれば、昔ながらの育児を取り入れた「自然派育児」をしたいとも考えていた。写真投稿アプリ「インスタグラム」で自然派ママや自然派育児の言葉をたどれば、憧れの育児を実践している人や、求める情報につながった。そこには「ワクチンを子どもに打たせない」という考え方があった。

 自然派育児を実践する人の中でも考え方はさまざまだが、女性の周りではワクチンや薬を使うことは良くないこととされた。現代の医療を否定…

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